1.眼鏡を外して。 ④
◇◇◇◇
彼女の身体には痣がある。
小さなものもいくつかあるが、一番大きく目立つのは鎖骨と太ももについた痣。
ハートのような形をした赤い痣。
中学生のころ、事故にあったときにできた痣だそうだ。10年ほど経つが、未だに消えないらしい。
普段は赤黒い色をしているけれど、お風呂だったり、熱く甘い夜だったり、彼女の体温が上がると血色がよくなり、かわいらしいピンク色に変わる。
俺はそれが好きで、ついつい触っては怒られる。「えっち」って。くすぐったそうに笑って。
笑い声がお風呂のタイルに反射し、色んな方向から亜子ちゃんがほほえみかけてくれているような錯覚に陥る。天国かここは。
「だって好きなんだもん」
「……今日の鷹雪くん、へんだね」
「そ?」
「……お酒のせいなのかな」
もうすっかり酔いは醒めていたけれど、彼女がそういうのならそういうことにしておこう。
俺の胸の中でちょこんと首を傾げている彼女。少女のように見つめる視線がくすぐったい。
彼女の気にするぷにぷにのおなか。
このくらいがちょうどいいと思う。
やわらかな肉が掴めるこの感触。
驚くほど肌はすべすべだ。
変なところに触れてしまったのか、突然ばちゃばちゃとお湯をかき混ぜて暴れだした。ごめんね。
そう囁けば、ぷくっと頬を膨らませて「許します」と許してくれた。
「きれいな身体してるね」
「……へん」
「ははは。変な俺だから、ごはんとお風呂のあと、デザートに亜子ちゃんがほしいんだけど」
「ふふふ、へん。へんなの」
おなかから少しずつ手を下ろしていき、触れた彼女の中心。
熱く、熱を持っている。
熱い吐息が溢れて、女の瞳をする。
「鷹雪くんのせいだからね」
「責任とるよ」
小さな身体は軽くて、どこからエネルギーが供給されているのかといつも不思議に思う。いつもは「やだ!」「恥ずかしい!」と暴れるおひめさまだっこだけれど、今日は大人しい。
外では鈴虫が鳴き始めている。
もうすぐ秋がくる。
ワンピースタイプのパジャマを着た彼女は身体を小さくして、暖をとるように俺にくっついた。頬を撫でてあげると、ふふふ、と笑う。
抱き上げられてベッドまで連れてこられるのにも慣れたようで、今日の彼女はおとなしい。
初めての夜は部屋を真っ暗にして、あたりが全然見えなくて、弁慶の泣き所を机の脚に強打したなあと淡く苦い思い出に浸る。
恥ずかしがっていやいやをしていたあの姿も懐かしい。
いままでおとなしかった愛猫たちがようやく活動的になったようで、足元を通り抜けていった。
今日は猫を踏んづけてしまわないよう細心の注意を払う日か。
熱を冷ましてしまわぬよう唇に吸いつけば、彼女が湿った吐息を溢す。
「すっげーエッチな顔してる」
「鷹雪くんのせいだもん。……えっち」
「ごめんね」
彼女をベッドに下ろし、愛猫たちに邪魔をされないよう部屋を閉めきる。
ご主人様がいつもとは違う顔をしていたのが心配だったのか、扉の向こうで「にゃーにゃー」と鳴いている。
大丈夫、俺がたっぷりかわいがって、いつもの亜子ちゃんにしてあげるから。心配はいらないよ。
今日は金曜日。
時間はたっぷりある。
ねえ、亜子ちゃん。
ベッドで小さくなっていた彼女を膝に乗せ、
小さな手をとる。
大丈夫、
俺が責任をとって、
その熱を冷ましてあげるから。
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