第5話 VSモトカズ&カオルコ② -必殺!ザンテツスラッシャー

『“スラッシュシュート”!』


「はあっ!」



 ソウハが刀を振ると衝撃波のような物が出現し、一直線にカオルコの元に向かって飛んでいく。

 スラッシュシュート。刀剣系の武器から衝撃波を放つ遠距離攻撃だ。こういった相手との距離が離れている場合に有効な技である。



『ハッ!ショボいな!弾けカオルコ!』


「が、頑張りますぅ!」



 カオルコが槍を大きく振り、それを切り払う。槍による斬撃と衝撃波がぶつかり合うと、小さな爆発と共に衝撃波は消えてしまった。

 だがその衝撃でカオルコがたじろぐ。……距離を詰めるための時間を作ることは出来た。



「はああああああ!」



 スラッシュシュートを放った直後に駆け出していたソウハは跳躍し、刀を振り下ろす。



「あわわ!」



 その一撃は槍で防がれてしまい、ソウハは軽く後方に飛ぶ。

 そしてナギサが続けてスキルを発動。



『“パワーエッジ”!』



 通常攻撃よりも威力を増した斬撃が、槍を構え直そうとしたカオルコの身体を捉え、大きく切り裂く。

 カオルコの身体からデータの乱れのようなエフェクトが大きく発生し、装備していた兵士服の胸当ての部分が破壊される。



「きゃぁッ……!」



 モロに攻撃を食らった衝撃からか、カオルコが苦悶の表情を浮かべた。ダメージは思ったより入ったようだ。

 槍は刀と比べると取り回しが悪い。敵が槍を構え直して次に防御される前に一撃をお見舞いする。それがソウハとナギサの狙いだった。



『こいつらっ……!』



 二度目の攻撃を繰り出すも、それは防がれてしまった。

 だがソウハは攻撃の手を休めようとせず刀を振り続ける。



『調子に……っ!』



 防御に徹していたモトカズが苛立った声色でスキルを発動させる。



『乗るな!“ファイアボール”!』


「あ、熱いのいきます!」



 カオルコが片手のみを槍から放し、近距離にいたソウハに向けると、その手のひらからソフトボール程度の大きさの火の玉が発射された。



「ッ!」



 火の玉をモロに浴びたソウハは突然感じた熱さとダメージに驚く。そして……。



「しまっ――」



 そのせいで突き出された槍の攻撃への対処が遅れてしまった。

 ソウハは槍による一撃を受け、ナギサの視界に映るHPゲージはもう残り僅かとなっていた。次に大きな一撃を食らえばもうお終いと見ていいだろう。


 それに、こうしている間にもモトカズの使用したスキルカードは再チャージを始めているはずだ。


 こちらももうすぐ防御系スキルの“バリア”が再度使用可能になるところだが、最初に喰らった乱れ突きの連撃を全て防ぎきることは不可能だろうし、単発の威力と速さに優れたフラッシュ・スピアによる攻撃のダメージを大きく抑えることはできないだろう。



(ここから一発逆転を狙うには……、こいつに賭けてみるしかないかな)



 今になってようやく「発動可」の表示となったスキル、「ザンテツスラッシャー」を見ながらナギサは考える。これを有効に使うには……。



『……ねえソウハ』


「なんでしょう?」


『このバトルフィールドって範囲は決まってるよね?』


「ええ。それがどうかしましたか?」


『考えがある。まずはフィールドの一番端まで逃げてくれないか』


「……?了解しました」










『もう虫の息ってとこじゃねえの?最後の忠告だ。これ以上無様な姿を晒すのは辞めてとっとと降参し……』


『うおおおおおお!!逃げるぞ!!』


「了解です」



 モトカズの言葉を遮り、ソウハは後ろを振り返って全力で駆けだした。というか逃げ出した。



「えーっと、これは一体……」



 先ほどまでは戦う意志を燃やしていたように見えた相手が急に自分がいる方に向かって逃げ出してきたため、カオルコは大変に困惑した。



「逃げてるんです。……あうっ」



 駆け出していたソウハがガツン!と何かにぶつかった。その空間には何もないはずなのだが、どうやらバトルフィールドには見えない壁が存在しているらしい。


 この時壁にぶつかった衝撃でソウハのHPは更に少し減少。残りゲージが2ドットくらいになってしまった。

 もっと勢い良くぶつかっていればこの時点でHPが0になって負けていたのだろうか……とナギサは少しゾッとした。


 ……さて。



『追い詰められちゃったかー』


「ですね」



 壁を背にしたソウハの背後でナギサが大きくため息を吐いた。遠くでモトカズが大きく笑う。


『ハハハハハハ!バッカじゃねーの!?自分で自分を追い込んでどうするんだよ!やれやれ、せっかくだから派手にSRスキルで決めてやるか……!』



 カオルコが両手で握りしめた槍を正面に向けて構える。



「ほ、本当に使うんですかぁ!?」


『ったりめーだろうが!“ライトニング・ランサー”ァ!』



 スキル名の叫びと共にカオルコの身体が光に包まれる。そしてそれは弾丸の如き速さでソウハへと向かっていった。

 自らを巨大な槍へと変えて敵に突進する技なのだろう。エフェクトの豪華さからしておそらくこれがモトカズの切り札に違いない。




 <ライトニング・ランサー>

 レアリティ:SR

 チャージ時間:大

 分類:物理/槍限定

 ・――俺自身が、光の槍となることだ。装備時、槍系武器による攻撃力が2.5%上昇。




「避けてくださーい!」



 カオルコの叫びがこだまする。ソウハもナギサも「無茶言うな」と思いつつ、それを避けようとはせず刀を構え直した。


 ――光の槍と化した敵がこちらに迫るまでの一瞬、タイミングさえ合わせればいける。

 あのカードの説明欄に書かれていたことが嘘じゃないならば、これさえ当てれば勝機はある――。



『「“ザンテツ”――」』



 光の槍がソウハに突き刺さるまであと数センチといったところだった。モトカズは勝利を確信する。

 ナギサとソウハによるスキルの発動を最後まで聞かずに、である。



『「――“スラッシャー”アアァ!」』



 SRスキルカード、『ザンテツスラッシャー』の名がバトルフィールドに響き渡る。

 刃に鈍い灰色の光が集まり、それは少しの溜め動作の後に勢いよく振るわれて光の槍に激突した。



『な、なんだぁ!?』


「なに、この、い、威力――!?」



 バキバキバキィ!と大きな破壊音が鳴り響き、カオルコを覆っていた光が砕けていく。そして突き出していた槍の先端にも徐々にひびが入り、最後にバキィン!と鈍い金属音を立てて粉々に砕け散った。


 更にその一撃によって生じた衝撃は勢いを弱めることなく槍の持ち主であるカオルコにまで襲い掛かる。



『う、うわぁ!!』


「きゃああああああ!!」



 バトルが始まった時からは想像できないモトカズの情けない声。一方のカオルコは大きく後ろに吹き飛び、受け身を取る間もなく背中から地面に音を立てて激突した。


 ザンテツスラッシャーの説明欄に記載されていた「刃に触れた物全てを破壊する渾身の一撃」というフレーバーテキストのような物と「チャージ時間:長」という説明、バトル開始時には使用できなかったことから、ナギサはこのスキルが敵に大ダメージを与える……一撃必殺といっていい程の威力を持った攻撃技なのではないかと予想した。


 だからこの技を当てることだけを考えた。いかに相手の槍による攻撃を捌いて、懐に飛び込むべきか。もしくはこちらが攻撃を当てれるタイミングを作り出してやるか。


 後者の方がまだチャンスがあると見た。

 こちらと相手には経験やステータスの差がどうしても存在する。そんな状況でこちらよりも攻撃範囲の広い槍に対して刀で接近戦を仕掛けても、一瞬の隙が作れるとは思えない。


 なのでバトルフィールドの端まで逃走した。バトルフィールドである草原は一見無限に広がっているように見えたが、バトルフィールドである以上は範囲が決められている筈。


 まずは自分をフィールドの最端まで追い込む。相手の持っている武器は槍だ。槍といえば遠く離れた相手には突撃してくるに違いない。……漫画やアニメで見たことあるし。


 そして思った通り、カオルコが仕掛けたのは槍を構えての突撃だった。

 それがまさか必殺技で、「自らを巨大な槍に変えて突撃する」という効果だった時は少し焦ったが、やることは変わらない。


 相手がこちらに限りなく接近した時に放てば、確実に攻撃は当たる。迫ってくる速度が思ったよりも速かったので急な判断が必要となり戸惑ったが、その試みは見事成功した。


 こちらからは相手のHPがどれくらい残っているかは確認できない。しかし、地面に倒れ込んだカオルコの苦しそうな表情からして大ダメージは与えられたはずだ。

 ザンテツスラッシャーの装備時効果である『HPが20%以下なら攻撃力10%上昇』という効果も合わさって相当な威力になっていたのだろう。


 それに、上手く槍の先端部分に攻撃を当てれたことによって武器まで破壊出来た。確実にこちらが有利な状況となっている。



『なっ……!あの一撃でどんだけダメージ入ってんだよ!』



 モトカズが驚愕の声を漏らす。そしてソウハは立ち上がろうとするカオルコに向かって歩み寄り、彼女の目の前に刀の先を向けた。



「あっ……」



 ソウハは落ち着いた顔で、だが少しだけにこりとした表情で言った。



「私達の勝ち、ですね」



 それを聞いたモトカズが舌打ちする。



『チッ……、終わってねえよ!こっちのHPはまだ残ってるんだぞ!』


『でも結構危ないんじゃない?そっちの武器は壊れちゃったしさ』


「ナギサ君。戦闘中に壊れた武器は一定時間したら再生します。早くトドメを刺しましょう」



 ソウハが正面に突き出していた刀を振り上げる。ドットモトカズに汗のようなエフェクトが多数表示され、『待て待て待て!』との声が発せられる。


 カオルコは諦めたような顔で自身のマスターに言った。



「もう諦めましょうモトカズさん。わたし達の負けですって……。」


『クソッ!』



 そう吐き捨てるように言ってドットモトカズは消滅した。もう何も言う気が無くなったのだろう。

 カオルコは地面にペタリと座ったまま、バトルが始まった時と同じように深く頭を下げる。



「今回はごめんなさい。また機会があったら今度は正々堂々戦いましょう」


「ええ、楽しみにしてます」



 カオルコの謝罪に対してソウハは微笑みながら答える。

 それを聞いてカオルコは顔を上げて、同じようにほほ笑んだ。



『それでは対戦』


「ありがとうございました」



 勢いよく刀が振り下ろされる。

 パキィン!という何かが砕け散る音――おそらく相手のHPゲージだろう――が響き渡ると、パンパカパーン!といったようなファンファーレと共に、ナギサの目の前に赤い文字が大きく表示された。



 ――YOU WIN!


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