第38話十年前❺
その単語というのは、
しかし、この家は父が所有しているものであるため、これが答えになるかどうかはまだわからない。そのため、今は実際に行って確認するしかない。私は、部屋を出て、単語の二つ目のアルファベットである『A』の部屋を探した。
一先ず私の部屋がある二階を探索し終えたところで、『A』の部屋は存在しなかった。二階にあったのは、『G』〜『O』の九部屋で、やはりどれも開くことはできなかった。
アルファベット順にした時、連なるものが二階に集まっていたことから、『F』の部屋が存在する一階に『A』の部屋が存在すると予想した私は、探索箇所を一階へと移した。
階段を降りて、一階を歩き回っていると、数人の使用人に声をかけられたが、数回言葉を交わしてその場を凌いだ。警戒しすぎかもしれないが、怪しまれないよう振る舞うのは、少々緊張した。それでもなんとか、『A』の部屋に辿り着くことができた。途中に、『B』と『C』の部屋も見られたため、恐らく私の考えは正しいと考えられる。
『A』の部屋のドアノブを握りしめ、扉を開こうと押してみると、扉はビクともしない。他の部屋と同様で、やはり開くことはできないようだ。いくらか試してみたものの、全く動かない様子は変わらない。やはり、関係なかったのでしょうか…。私は気が抜けたように、手を引いてみると、少しだけ扉が動いた気がした。
それに気づいて、何度か動かしてみると、ほんの少しだが扉が前後することが確認できた。やはり、この扉は何かすれば開くのかもしれない。でも、どうすればいいかがわからない。扉には、鍵穴もなければ、電子キーに対応している様子もない。
まだ、何かが足りない。私は、腕を組んで何かないかと周囲を見渡していると、足元に視線が向けられた時、あるものに気づいた。
「これは…?」
そこにあったのは、ドアノブとは逆の右端から伸びる、床に記された一本の棒のような印だった。したは絨毯のようなマットが敷き詰められているのだが、ここだけなぜか色が違っている。
なんのためのものかはわからないが、他の扉とは異なる点がいくつもあることは、私にこの部屋への好奇心を強めさせた。これは、他の部屋も確認する必要がありそうね。
そう考えた私は、一階に位置する部屋の中で、『A』と同じ条件の『E』の部屋を調べることにした。更に言えば、『E』の部屋は最後のアルファベットとなるため、ここを調べれば、今まで以上の成果が得られるのではないかと、期待を膨らました。
大広間から左に進行して、ここへ来るまで見かけなかったということは、逆方向に目的地はあると予想できるため、迷うことなく来た道を戻る決断をした。
これほどの大きなヒントが得られたことにより、正直自分でも驚くほどの自信を抱いていた。間違いなくこの家には、何かが隠されている。表情が緩みそうになるのを必死で我慢して、冷静さを保つため、ゆっくりと進行していく。
その道中、何か忙しそうにしていたセミアに遭遇した。私が発見すると同時に、向こうも私を見つけた様子で、こちらに歩み寄って来た。
「お嬢様、このようなところで何をなされていらっしゃるのですか?」
「えっと…、勉強の合間に、少しこの家を見て回っていたの」
正直に答えても問題ないとは思いながらも、つい曖昧な答えが口から出てしまっていた。警戒しすぎている心を落ち着かせて、部屋を見て回っていることくらいなら、話しても問題ないだろうと考え、言葉を続けた。
「そうだ、セミアさん。扉に『E』って書いてある部屋がどこにあるかわかりますか?」
私がそう聞くと、セミアの表情が少し揺らいだ気がした。そして、返答の言葉は、少し困った顔から発せられた。
「あのアルファベットが記された部屋のことを言っているとは存じますが、残念ながら『E』が明記された部屋はこのお屋敷にはございません」
「…え?」
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