第35話十年前❷
予定通りの日程で、日本に到着した私は、母の指示により、父が故郷に建てたという別荘へと足を運んだ。セミアが滞りなく案内してくれたため、道中迷うことはなかった。
それにしても、セミアが日本語を話せるというのは、驚きだった。セミアに日本との関わりはないはずだけど…。そんなことを考えていたこともあり、少し暇ができたタイミングで話題にしてみた。
「セミアさんって、日本語が話せたのね。知らなかったわ」
「そうですか?まぁ、そうですね。特別伝える必要もなかったですので」
平然と返答するセミアに、続けて質問をしてみる。
「どうして、日本語を勉強したの?」
「特にこれといった理由はありませんが、日本にはいずれ赴くことになるのではと思っていたので。それに、ちょっとした機会も設けていただきましたから」
「なるほど」
日本に行くことになるというのは、恐らく私の父が関係しているのだろうと予想がついた。しかし、機会というのは一体なんのことなのだろう?そう思いつつも、車が目的地についたため、会話を打ち切った。
車を降りると、自分の家よりは一回り小さいが、短期間に二人で過ごすには十分すぎる家が姿を現した。
「お〜」
見上げながら、言葉にならないのを誤魔化すように声を漏らしていると、横をスタスタとセミアが通り過ぎていった。それに気づいて、私もその背を追いかけた。
セミアにとっては、この程度驚くにも値しないということなのだろうか。頼もしい限りだが、少し自分が恥ずかしく思えてくる。
「セミアさんはここに来たことがあるのかしら?」
「はい。一度だけ」
恥ずかしさを誤魔化すために、何気なくした質問だったが、私にとってその返答は驚くべきものだった。なぜなら私には、さっきの話し方だと、日本に来たことがないように思えたからだ。もしかしたら、それ自体が機会ということだったのかもしれない。
会話もほどほどに、玄関を通り抜け、家に入ると、多くの使用人が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
この大きな家を維持するには、少なからず使用人が必要だとは予想していたけれど、まさかこれほどの人数を用意していたとは…。ここに来てから、驚かされてばかりだ。
その場も、セミアがしっかりと対応してくれたため、ことなしを得た。そして、ここまで来てしまえば、私は解放されることになる。案内されるがままに、自分の部屋へと赴き、使用人に別れを告げると、扉を閉めた。しっかりと鍵を確かめ、用意されていた椅子をずらして、机に向かって腰掛けた。
ある程度の荷解きはすでになされており、机や、クローゼットは自分のもので彩られていた。しかし、そんなものには目も暮れず、私はカバンから、あるものを取り出した。
それは、日本に旅立つ前日に、母から手渡された謎のカードだった。全て取り出し、机に並べてはみたが、完成後の数列に全く検討がつかない。自分の中での最大の疑問は、『2』と『02』が存在することだ。
ここに、何か特別な意味があるのだろうか…。わかりはしないけれど、これが父にとって好きな数字になるというなら、とかないわけにはいかない。そう思いながら、再びカバンに手を入れる。
カード同様、すぐわかるところに入れていたため、迷わずそれを取り出すことができた。見るたびに、あの時の痛みが思い出されるため、あまり見ていたくはないが、今回の日本行きを決断させた最大の要因であり、父の秘密を知るきっかけになったため、手放すことはできない。
マイクロSD。これを持っていることは、誰にもバレるわけにはいかない。秘密を解き明かすまでは…。
その時、扉がノックされ、誰かが私の部屋へと訪ねてきたことを報せた。急いで、マイクロSDをカバンの中に戻し、受け答えをする。
「…はーい」
「セミアです。お邪魔させていただいても、よろしいでしょうか?」
「いいわよ。今鍵を開けるから待っていて」
私は施錠を解除し、扉を開いた。セミアは、紅茶と軽食をトレイに乗せて、運んできてくれたらしい。
「お嬢様。長旅ご苦労様でした。軽く食べれるものをご用意させていただきましたので、よかったらどうぞ」
「ありがとう。セミアさん。そうだ、セミアさんも一緒に食べませんか?」
「ありがとうございます。しかし、私にはまだ役目が残っておりますので、ご遠慮させていただきます」
「そ、そうですか…」
セミアには、まだいろいろ聞いてみたいことがあったため、残念に感じたが、カバンを調べられた場合、あれが見つかる可能性があることを思い出して、内心ほっとしていた。
「あら?セシリア様からいただいたカードを見られていたのですか?」
セミアは、机の上に並べていたカードを見つけて、そう聞いてきた。私は思わずドキッとしてしまった。机の近くには、私のカバンも置いてあり、口も開けたままだった。今なら覗かれただけで見つかってしまう可能性がある。私は、不信感を抱かれぬように言葉を選んで発した。
「そうなのよ。少しもわからなくて、ずっと悩んでいたわ」
「そうでしたか。残念ながら、あれに関しましては、私もご助力することはできません。説明させていただきますと、私は暗号の類に疎いのです」
「それは、意外ね。あなたなら、なんでもできてしまうのかと思っていたわ」
「嬉しいお言葉ですが、そのようなことはありません。ですが、お嬢様でしたら、きっと香士郎様の重要な数字にも辿り着くことができますよ」
重要?私には、その言葉が引っかかった。
「重要な数字?お母様は、確かお父様の好きな数字とおっしゃっていたはずですが…」
セミアは確かに、母が『favorite』と表現した箇所を、『important』と表現した。私が尋ねると、セミアは平然と受け答えをした。
「あぁ、それはですね。セシリア様は、重要と表現する場合にも、『favorite』を使われることがあるんです。セシリア様が一番好きな単語らしいですよ。なので、私はそう解釈しました」
「はぁ…。そう、でしたか」
そこで、私は確信した。あのカードから導き出される数字は、確実に父の秘密に近づく鍵になると。
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