第27話洋館2F⑨
銃を持っている男が何者かはわからないが、今回の一件に関して、重大な存在であることは確かだろう。
この男が。新人類と呼んでいる存在は、俺たちが出会したゾンビや化け物のこと、という認識で間違いないと思われる。しかし、名付けたということは、あれは人間の手によって生み出された存在ということになるのだろうか…。
疑問は増す一方だが、ボイスレコーダーからは、録音された会話が流れ続けた。
「新人類だと…?お前は、あの化け物が人間だとでも言うつもりか?」
「何を言っているのかわからないな。あれは、紛うことなき、正真正銘の人間だ。知識も感情も持ち合わせてはいない、完成された人間と言ってもいい」
「何を言っているのかわからないのは、お前の方だ。知識と感情が無いことが、完成された存在だと?」
驚きの声に対して、含み笑いを浮かべた男が告げた。
「その通りだ。今の人間は、下手に知識をつけて、個人の感情や常識を真実として、疑うことをしない上、それを強要しようと画策する。そう、君のような愚かな存在が多すぎる。
そこで、この私は考えたのだ。今、害をなす有害生物を、全て処分し、生まれ変わらせる。そうして、全てをリセットすることにより、地球を新たな姿へと昇華させる」
「まさか…。まさか、この島だけではなく、世界を巻き込むつもりなのか?」
荒くなった呼吸の中、絞り出すような質問に男は答える。
「巻き込むも何も、元よりこの計画は世界を変えるためのものだ。全ての根源である、地球という存在を生まれ変わらせるための、ね」
「ふざけるな!あんなものは、世界に存在させてはいけない。今すぐ、処分すべきはあの化け物どもだ!」
男は返事が怒号で返されても、平然とした声色で会話を続けた。
「それは不可能というものだ。私は十八年前、サイドプラント・イノベーションズを掌握したあの日から、この計画の完遂だけを目標に生きてきたのだから。
そうだな、手始めに私と君の故郷である、あの惨めな島国でも変えてしまうとしよう」
「…!コーシロォー!」
『バァァーン』
怒りが込められた一言の後、即座に響いた銃声により、周囲の静けさが増したように感じられた。ひと時の静寂を迎えると、男が独り言のように呟いた。
「少しお喋りが過ぎたかな?しかし、そんなことはどうでもいいことだ。これで、私の計画は完遂される…」
そこからは、小さな物音がいくつか入っているだけで、特に聞き入るような内容は無く、録音限界の時間で、音声が途絶えていた。
しかし、そんなことが気にならない程に、驚くべき内容過ぎて、俺も思考が追いつかない。男が発した『サイドプラント・イノベーションズを掌握した』という言葉。そして、最後に叫ばれた『コーシロー』という人名のようなものが、俺の中で一つの結論へ、導こうとしていた。
そんな様々な思考と共に、再び訪れた静寂は、ノイズのような電子音によって破られた。
その音が発せられたのは、一つのモニターからだった。先ほどまで何も映し出す気配のなかったモニターに、何やら乱れた映像が姿を現した。
俺は、目を凝らすようにして見入っていたが、モニターとの間に距離があったため何を映し出しているのかは全くわからなかった。少しずつ近づいていくと、なんとなく状況が見えてきた。しかし、見えてきただけで、到底理解が及ばないようなものだった。
そこに映し出されていたのは、一つの部屋の中だった。その一室には、壁面を沿うようにして、カプセルのようなものが並べられていた。そのカプセル内では、赤みのかかった液体が、時々泡を立てていた。
映像が荒過ぎて、その中に何かが入っているのかどうかについてはわかりかねるが、現実離れし過ぎた光景に、正直そんなことを考える気にもなれなかった。
モニターに対して、嫌悪の表情を向け、しばらく眺めていたが、モニターに気を取られて、ボイスレコーダーの内容について、話を聞こうとしていたことを忘れていたことに気がついた。
俺は、話を聞くため、後方へ視線を向けると、そこにスピカの姿は無い。そこで、一瞬焦って周囲を見渡すと、スピカは俺の隣まで歩み寄ってきていた。
疑いを持っていたわけではないが、この場から姿を消したのではと、不安が脳裏をよぎったため、大いに焦りを感じてしまった。申し訳なさを感じながらも、問いを投げかけようと口を開くと、同時にスピカの恐怖を帯びたような表情が視界に写った。
俺の問いは、声にならないような吐息に変換され、スピカに届くことはなかった。そして、俺もスピカにつられるように、視線の先を目で追った。
すると、そこにはさっきのモニターが変わらず映像を映していた。しかし、一部先程の映像とは異なる点が存在した。
そこに映し出されていたのは、触手を携えた例の化け物だった…。
映像の荒さにより、詳細な行動内容まではやはり見て取れないが、カプセルの前で立ち止まると触手を使って何かをし始めていた。
カプセルの上部から、触手を挿入させると、触手を内を何かが通り抜けるようにして、カプセルの中へと投入された。側面からの映像だったため、そこまではなんとなくわかったが、これが何のために行われているのかが、まるで理解できない。
その行動を終えると、化け物はモニターの手前へと見切れていき、姿を消した。カプセル内には、一定の高さを保ったまま、楕円状の何かが浮いているだけだった。
その後も、モニターを睨みつけるように見ていたが、カプセル内には何が入ったのかも、なんのための行動だったのかも、わからず終いだった。
しかし、化け物が、なんらかの目的を持って行動するほどの思考能力を有していたとは驚きだった。音にのみ反応し、敵と仲間の区別がつかないなどの点から、知性は無いものだと思い込んでいた。
そんなことを考えているうちに、何か記憶の片隅で、僅かな引っ掛かりを感じた。
考えてみれば、化け物に知性があるかないか以前に、存在に驚くべきだったのではないだろうか…。考えて辿り着くような問題では無いほどに、当然とも言える疑問に対し、自分には小指の先ほどの心当たりがあった。
記憶の片隅に存在したかけらが、芋づる式にある時期の記憶を思い出させた。そこで、俺はそれを口にしないわけにはいかなかった。意識よりも先に、言葉が飛び出す…。
「俺は昔、スピカと会ったことがある、のか…?」
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