第26話洋館2F⑧

 部屋の壁面には、大量のモニターが設置されていたが、映像を映し出せるような状態のものは、ほとんど無かった。画面が割られているものが大半で、映像が映っているものも砂嵐状態が流されているだけで、残念ながらまともに機能しているものはなかった。

 部屋の様子はというと、四台の長い机が均等に配置されており、それぞれが床に直接設置されているため、動かすことができない仕様になっている。

 机の上には、マイクが二つずつ並べられており、おそらくこれを使ってアナウンスや、連絡を取っていたのではないかという予想が、容易に立てられる。

 更に、奥には別に机が用意されており、そこにはパソコンが一台と書類のようなものが散乱していた。ここには特に、危険なものも、存在も無いようだ。

 そうして、俺が部屋の中を見回しながら状況の把握を行なっていると、スピカがスタスタと奥の机へと向かって歩き始めていた。

 確かに、この部屋は視界に困らず探索できるが、そこまで不用意に動くのはいかがなものかと、スピカの行動に対して疑問を抱いていると、新たな疑問が思考を上塗りするようにして姿を現した。

 そういえば、なんでこの部屋だけ電気がついたのだろう?今までは、部屋で電気をつけることなく探索してきた。だが、実際はスイッチを入れるだけで、電気がつく環境だった。では、なぜ俺たちは今まで電気をつけなかったのか。それは、ここに電気が通っている筈がないと決めつけていたからだ。

 そこで、よくよく考えてみると、確かに、二階上がってきてから、電気的な機材の動作を何度か確認している。ほとんど役には立っていなかったが、蛍光灯が点灯していたし、鍵はカードキーに反応して解錠し、施錠はオートで行われていた。もしかしたら、二階にだけ電気が通っているのかもしれない。

 そして、電気が通っているのであれば、機材が使えるかもしれない。もし、それが使えれば新たな手がかりにつながる可能性がある。

 俺は、一足先に奥まで歩いていたスピカの元へと、近づいていった。奥の机まで辿り着くと、スピカは既に何かのファイルをめくりながら眺めていた。何をそれほど真剣に眺めているのかはわからないが、俺は自分の要件を果たすことにする。

 机の上に置かれた、パソコンの起動ボタンを押すと、スムーズな機械音とともに起動を開始し、モニターに起動画面が映し出された。俺は思わず、『よし』と声を漏らした。

 その事後、隣にスピカがいることを思い出して、俺はスピカの方へと視線を向けた。スピカは先程と同様に資料に目を通し続けていた。どうやら、俺の声は聞かれていなかったようだ。

「何か重要なことでも書いてあるのか?」

 全く反応を見せないほど集中して、眺めているため、何か手掛かりになるようなことでも書いていたのかと思い、尋ねてみた。

「そうね。とても重要なことだわ」

「本当か?それじゃあ、教えてくれよ」

「わかったわ。…?て、それ!パソコン起動したの⁈」

「え?あぁ、ここには電気が来ているらしい」

 俺は、資料のことについての返答がどこに行ってしまったのかと思いながらも、スピカの質問に対して返答を返した。

「ちょっと、貸してもらうわね」

 そう言うと、画面に表示されたユーザー名とパスワードを難なくクリアした。

「よくわかったな。なんで、知ってるんだ?」

「会社で使用されていたパソコンは、ユーザー名とパスワードが統一されているから、それを打ち込んだだけよ。これも、たぶん同じだろうとは思っていたけど、やはりそうだったわね」

 それを聞いて、納得できた。しかし、重要な資料に関する回答がなされていない。再び問いかけようとも思ったが、スピカはすでにパソコンの画面に釘付けになっていた。何かファイルのようなものを漁っているようだが、何をしているのかはさっぱりだ。

 ま、何かあれば教えてくれるだろうと思い、俺はその場から見える範囲で、周囲の探索を始めた。よく見ると、机には銃弾が打ち込まれたような痕跡が残っており、モニターも銃で撃たれたような割れ方をしているようだった。

 首を動かし、周囲を確認して、その流れで視線を下へ向けると、何かが備え付けの机の下へと入り込んでいる物をみつけた。何かの機械に見えるが、実際のところはわからない。俺は、それを拾い上げてみることにした。

 しゃがんで、それを手に取ってみたが、ホコリを被り過ぎていて、何なのか一目ではわからなかった。しかし、ホコリを払いのけてみれば、すぐにその正体に気づけた。

 これは、ボイスレコーダーのようだ。細長い形状に、録音と再生のボタンが存在し、右サイドにボリュームを変更できるボタンが備え付けられているという、実にシンプルなデザインだった。

 なぜここに、ボイスレコーダーが落ちているのかという疑問はあったが、俺は何も考えることなく再生のボタンを押した。


『バァァーン!』


 ボイスレコーダーから、突如として激しい銃声が轟いた。それを聞いて焦りながらも、すぐにボリュームを下げていく。まさか、ボリュームをここまで高く設定しているとは思わなかったため、驚きを隠せなかった。

「何、今の?」

「悪い。ボイスレコーダーを見つけて再生したら、音量が高くなってるのに気づかなかった」

 いくら集中していたとはいえ、大音量の銃声には、流石のスピカも反応をみせた。そんなやりとりをしている間に、ボイスレコーダーからは何やら会話のようなものが聞こえてきた。


「君のおかげで、全てうまくいったよ。私は君に敬意を表しよう」

「約束が違うではないか!ここにいれば、私の家族と私の命は保証すると、君は言った筈だ!」

 どうやら、二人の男が会話しているようだが、状況と内容については、理解が及ばない。それに、最大の驚きは、二人が日本語で会話していることだった。

「君に感謝はすれど、生きながらえさせる必要は無い、と私は考えた。君はいずれ、計画の邪魔になるだろうからな」

「その計画というのは、こんな化け物を生み出すことだったのか…」

『バァァーン』

「ぐぁっ!」

 片方の男の言葉を遮るように、銃声が響かせられた。苦しむ男の声と、残響が途絶えぬ間に、話が再開された。

「あまり、不快なことを口にするな。今も、私に生きながらえさせてもらっているということを自覚したまえ。それに、私はあれを、化け物ではなく、新人類と名付けて呼んでいる」

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