第23話洋館2F⑤
スピカが俺の考えを察してそう言うと、少し表情が明るくなっている気がした。
実際のところ状況は一切好転はしていないが、変化があったことにより多少気が紛れ、呼吸を整えるだけの余裕はできた。
行き先が決まったものの、部屋から出れば、隣の部屋の前を通らなければならないという事実は回避できない。
しかし、だからと言ってこの部屋に居座り続けても、結局状況の変化は無い。であれば、運に任せてこの場を離れる選択肢を取るのが、無難に思えた。
「早速向かおうと思うが、隣の部屋に化け物の一匹がいるのは間違いない。さらに言えば、もう一匹も、この階にいる可能性が高い。ここから先は、今まで以上に危険な探索になる。お互い常に警戒だけは怠らないようにしよう」
「当然だわ」
恐怖感を煽るようで気が引けたが、注意喚起を含んだ説明をすると、即答で返されてしまった。
少し色々あったせいで忘れていたが、スピカはこんなことで簡単に心が折れてしまうような人間では無い。何度も救われた俺が言うのだから、間違いない。
「それじゃあ、行くぞ」
俺は、スピカの表情を確かめてから解錠し、ゆっくりとドアを開けた。一階とは違い、軋むような音がしない扉を、全開まで開き終えると、スピカが止めを刺したゾンビが消えていることにすぐ気づいた。
やはり、あのゾンビは化け物に吸収されてしまったのだろう。それにしても、化け物同士は互いに反応し合う素振りもなければ、敵対もしていない。何を基準に吸収や殺戮を行っているのか原理がさっぱりわからない。
そんな疑問が脳裏をよぎるが、今は考えている時間は無い。俺は廊下へと足を伸ばし、ゆっくりと廊下を歩いていく。
そして、等々隣の部屋の前を通り過ぎるところまで来ると、慎重に素早く通り過ぎて見せた。スピカも追従するように部屋の前を通り過ぎた。
案外問題なくその場を凌ぐことが出来て、拍子抜けだったが、緊張感を緩めることなく、進行を続けた。
部屋が並ぶ廊下を抜けると、階段へと繋がる元の廊下が姿を表す。そして、四角い印がされていた場所の方をゆっくりと覗き見ると、やはりゾンビの姿は無くなっていた。
確信があったわけじゃなかったが、どうやら自分の予想は的中していたようだ。これならと俺はそのまま角を左へと曲がり、廊下を進んでいった。
足音にも気をつけて進行し、ゾンビの気配すら感じぬまま、新たな角へと差し掛かった。ここを左折すれば、階段を降りるだけで目的地には辿り着けるはずだ。
右側や正面に謎の部屋が地図通りに存在するが、一先ずそちらは放置で左へと進んでいく。ここで、気になることは、三階を目指すために石像が関係していると、手紙には書いていたが、地図にはすでに三階へと続いているであろう階段が描かれていた。
そして、その階段も左に曲がった先に存在する。四角い印の場所も重要だが、その前にそれを確かめないわけにはいかなかった。
しかし、確かめるまでもなく、真っ直ぐ目的地を目指すことになった。地図に描かれていた階段の場所には、なんの変哲もないただの壁があるだけだった。
そう簡単には、問屋を降ろさせてはくれないらしい。俺たちは、壁伝いに階段を目指し、降りていく。すると、ホールからはシャッターに阻まれて進むことが出来なかった先の場所が、俺たちの視界に入った。
そこには、絵画が壁面に並んで飾られており、中央には女神のような女性が
この石像がなんらかの重要な役割を担っているのは間違いないようだが、これといって特別なものには思えない。それに、手紙に書いてあることが正しければ、ここで俺たちが手に入れた円盤が鍵として使えるらしいのだが…。
俺はどこで使えばいいのかと考えながら、石像を眺めていると、台座に刻まれた『SPI』の文字に視点が合う。しばらく見つめていると、スピカから、助言が入る。
「
俺の視線に気づき、そう言い切りながらも、どこか浮かない表情で石像の周辺を調べるスピカは、続けて俺を呼んだ。
「春希、こっちに来て」
俺は言われるがままに、スピカの元へと歩み寄っていき、スピカが指差す先を見つめた。それは、石像の左側面に存在する丸い窪みだった。大きさ的にも間違いなく、俺が持っている円盤をはめる窪みで間違いないだろう。
「やっぱりここで使うらしいな。…よし、他の部屋を探索してみることにしよう」
「え?はめてみないの?」
スピカは不思議そうな表情を浮かべて、首を傾げた。
「過剰かもしれないが、出来るだけアクションを起こす回数は少なくしたいんだ。これをはめた瞬間何かが起きれば、少し面倒なことになる」
「なるほど、わかったわ」
俺の思っているようなことがあり得るかは、実際かなりの低確率だと思えるが、今の俺たちの状況は、化け物に感づかれるだけで、死に直結するような状況だ。よって、下手な行動は、しない方が賢明に思えた。
俺たちは、降りてきた方の階段を上り、二階へと戻った。相変わらず静寂が続くが、同時に恐怖感が常に漂い続ける。
二階に戻ってきたとはいえ、個人部屋の方へは戻ることはできないため、周囲の新たな部屋へと赴く必要がありそうだ。
俺たちは、手始めに階段を上り切り、大きめの廊下に出て右側に見える部屋の扉へと歩み寄っていく。すると、扉には鍵が掛けられており、このままでは入室ができない状態だった。
「ダメだ、鍵が掛けられているな。どうする?」
「でも、この扉鍵穴もなければ、カードキーを認証する機械も付けられていないわよ。どうやって鍵が掛けられているの?」
鍵が掛けられている事実に注意を向け過ぎて、スピカに言われるまで全く気が付かなかった。確かに、今までのような施錠を行うためのものが存在しない。
しかし、その代わりに見覚えのある四角い窪みが、扉の横にあった。しかし、俺が見たものは、随分小さいものだった気がしたが、ここにあるのは、大きめの四角い窪みの中央に小さな正方形の出っ張りがあるというものだった。
汚くなっているため、汚れを手で落としてみると、何かが書かれているようだった。俺は、顔を近づけてよく見てみることにした。すると、そこに書かれていたのは、『Ⅷ』というローマ数字だった。
「これって、まさか」
そこで呼び起こされた記憶は、ローマ数字と関係する手紙を添えられていた、謎の立方体の存在だった。
俺はそれを手に取り、サイコロの目が『八』のものをセットして、窪みにはめ込むとしっかりと入りはしたものの、反応は見られなかった。
そこで、少し冷静になって考え直すことにしたら、手紙の内容について思い出した。手紙には『X』を揃えろと書いてあった。つまり、同じ数字ではなくて、合計が『十』になるようにサイコロをセットしないといけないのかもしれない。
俺は、別の面にサイコロの目が『二』のものをセットして、窪みにはめ込むと、鈍い音と一緒に微かなライトが点灯して、『ガチャ』という解錠音が聞こえた。
俺は、ドアノブに再び手をかけて回すと、見事に解錠されていた。次々に使用方法がわからなかったものの使い道がわかってきて、スッキリした気分を味わいながら、扉を開けて部屋へと入室すると、そこには、驚くべきものがあった。
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