第15話謎の洋館⑩
館には依然としてゾンビが徘徊していた。しかし、ここにあるのは、白骨化した死体だ。ゾンビが死ぬか、死なないかについて、はっきりとしているわけではない。ただ、現状を加味すれば、ゾンビが肉体の腐食に耐えきれず、白骨化するとは考えられない。
つまり、この状態からわかるのは、この人物がゾンビになることなく、命を落としたということだ。
「この人物は、あの化け物に命を奪われたにも関わらず、ゾンビにはなっていない。そして、吸収されたわけでもない。
同じような状態の人間が存在するか、しないかはまだわからないけど、この人物が異例の存在であることは、間違いないと思うわ」
異例の存在…。彼女の言葉は、この館の謎を深めるばかりだった。この人物に何か特徴があったのかすら、白骨化した後では知る由もない。部屋を見回しても、手掛かりになるようなものは無いみたいで、謎だけが残る結果となった。
しかし、今の状況でも考えられることはある。
「この人物と、他の人物との相違点がないわけではない」
「何かあるの?」
俺が言うと、顎に手を当てたままのスピカが尋ねてきた。
「この人物は、言わば最初の被害者だ。そして、この人物はこの部屋で命を落として、部屋から出ることはせず、音を立てることもない」
「何が言いたいの?」
スピカは首を傾げて尋ねる。まだ、説明をしているところだから、少し待っていてもらいたかったが、手早く結論を告げることにした。
「この人物は、俺たちが見たさっきの化け物に殺されたわけではなく、別の何かに殺されてるというわけだ」
「それって、あんなのが他にもいるってこと?でも、なんでそう思うの?」
「…それは、この死体がここに残っているからだ。あいつに襲われていたなら、吸収されているはずじゃないか?でも、まだわからない。人に殺された可能性や、あいつがゾンビのみを吸収しているのかもしれないから…」
そこまで言うと、スピカも思考をやめて、俺との会話へ転じた。
「そうね。でも、もしここに別の化け物がいるのなら、そいつにも気をつけなくてはならないわけよね?音を立てることができない状況で、それは少し厳しいわね…」
「最悪の事態は仕方ないとしても、ほとんどの場合そうなるな」
まだ、館に入って数時間しか経っていないが、行き詰まったかのようにすら思えてくる。だが、ここに入り浸っていても、解決に近づくことは決してない。
「これからはどうする?」
おそらくこの部屋からは、何も出てこないだろうと思い、スピカに尋ねる。
「先に最初言っていた通り、ホールから入れなかった部屋を目指しましょう。こっちからなら、そちらの方が近いわ」
「わかった」
スピカの提案に、賛成した俺は端的に返事を返すと、部屋を後にする。目が慣れてくると、廊下も少しずつ奥まで見えるようになってきた。
ゆっくりと廊下に出て、左に方向転換し、歩みを進めていく。順調に進んでいると思われていた足は、角を曲がるとすぐに止められた。
角で隠されていたが、その先はシャッターで塞がれてしまっていた。進めないことを確認したと同時に、周囲を確認すると、四角い穴が空いた、箱が壁面に設置されていた。
要所が擦り切れているため、何が書かれていたのかはわからないが、おそらくこのシャッターを手動で開けるための設備だろう。生憎だが、そのような工具は当然持っていないし、代わりになるような物もない。
「これじゃ、進めないな」
「仕方ないわね。逆の方へ向かうとしましょう。あっちにも、部屋があるのよね?」
「あぁ。それも、最初に化け物になった人物の部屋だ…」
日記の内容を頼りに、会話を進めた俺たちは、新たな目的地を目指す。
目が慣れてきたとはいえ、まともな光源がないこの状況では、ほとんど先が見えない。常に銃を手に持ち、警戒を怠ることなく、進んでいく。
ゾンビとの遭遇は無いまま、数メートル先にある、三つ目の部屋へと辿り着いた。
「ジェームズ・ウィーラー…」
俺が呟いたのは、部屋の扉に記された名前だった。これが化け物になった人物の名前というわけだ。そういえば、さっきの部屋には名前が書いてなかったが、何が理由があるのだろうか…。
部屋の扉は、すでに若干空いていて、ドアノブを捻ることなく引くだけで開いた。それだけに、先に入ったゾンビがいる可能性を警戒しながら、ゆっくりと中を覗き見た。
部屋からの物音はなく、視界にもゾンビが映るようなことはない。扉を開ききり、二人で中へと侵入して、扉を閉める。念のため、鍵も閉めておくことにする。
「鍵は閉めなくていいわ」
鍵が閉まる音に反応して、スピカが俺に言った。
「どうしてだ?さっきのやつが来たときのためにも、閉めておいた方がいいんじゃないか?」
「ごめんなさい。本当にただの勘なんだけど、鍵はしない方が良い気がするの…。だけど、敢えて理由を一つ挙げるとするなら、さっきあなたの話を聞いたからよ」
「さっきの話?」
「ええ。ここに別の化け物がいて、ここの部屋の人物がそいつだと言うのなら、この部屋をまだ使っている可能性があるんじゃないかと思ったの」
スピカは言うと、自信無さげに顔を伏せ、指を遊ばしていた。聞いて、化け物にそんなことができるわけないと俺は思ったが、少し考えて、スピカの言うとおり鍵を開け、扉も元どおりに少し開いておいた。
この部屋に生活感は皆無だが、他の部屋と比べて、荒らされ方が控えめであったため、スピカの話には信憑性があると考えた。相変わらずホコリだらけで、床には大量の散乱物があるものの、足場が用意されているようにも感じられた。まぁ、気のせいかもしれないが。
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