第8話謎の洋館③
内容を聞いて、俺も日記を覗き見た。最後に読まれたページは、明らかに殴り書かれたような雑な文字列だった。そのせいで、スピカも大分読み辛そうな表情を浮かべていたが、この表情の原因はそれだけではないだろう。
血痕が残されていた日記のページは、スピカによってめくられる。
十二月一日。
ヤツは、何度も見回りにくる。ドアノブを回すだけで、どこかに行ってしまう。私の部屋は、扉が三箇所だが、外に続く二箇所を押さえれば問題はないだろう。外へ繋がる方は、草でまともに開かない。ここから、入られない限り、問題はない。
お願いだ。早く誰か助けてくれ。
俺は、そのページの話を聞いて、疑問に思ったことを口にする。
「このヤツってのはゾンビってことでいいのか?」
「私に聞いてわかるわけないじゃない…。でも、私の予想だとたぶん、ゾンビじゃない…」
予想外の返答に驚いたが、あくまで仮定の話だ。スピカも自信なさげに話しているため、現状でそれを鵜呑みにするのは、間違っているのではないだろうか…。
気を取り直して、もう一つの疑問を投げかける。
「扉が三箇所っていうのはどういうことだ?どう見ても二箇所しかないよな?」
「…どこかに窓でもあるのかしら?床にも、天井にも、出入りが可能な箇所は、見当たらないけど…」
埃に埋もれているだけかもしれないと思い、足ではらってみるが、やはり見つかることはなかった。一体、どこの話をしているのか。
俺が周りを見回しているうちも、スピカは日記に目を通し続ける。
「これで、最後のページだわ」
呟くと、内容を告げる。
十二月五日。
武器庫の方から、壁が崩れる音がした。もうダメだ。この扉には、鍵がない。一応、抑えておくが、いつまで保つだろうか。
これが最後のページになろうとは。もしかしたら、この日記こそが、私に死を告げるものだったのかもしれない。もう、時間の問題だが、早く誰か助けに来てほしい。
スピカは、その文を読み終えると、目を細めて、ページの隣にある裏表紙を、何やら睨みつけていた。
どうしたのかと、尋ねようとしたとき、再び読み上げが始まった。
『これこそが、あいつらの研究成果だったんだ』
なんの話かは、半分以上理解できなかったが、最後に日記として書かれていたことは、なかなかに重要な内容だった。
「とりあえず、この部屋にある三箇所目の扉が、武器庫へ続いているってことで間違いないらしいな」
「そうね。でも、どこにもないわ。どうするつもり?」
それが、問題だ。だが、扉で抑えていたと書いてある。そして、その扉が武器庫に繋がっているとすると、それはほぼ間違いなく壁にあると思われる…。
俺は思考を止め、本棚の前に歩み寄った。
「扉が壁にあるなら、あとはここ以外、あり得ない。扉を抑えておくってのは、自分でじゃなかったんだ。この本棚で、扉を抑えていたらしい」
俺は、本棚をゆっくり左へと、スライドさせていく。想像以上の重さに、腰が砕けそうになったが、動かしていくうち、それは壁面に姿を現した。
「扉だわ…」
ボロいどころか、まともな立て付け状態ですらないため、扉とも言えない代物が、本棚の後ろに隠されていた。
本棚は、俺が見つけた段差にしっかりとはまった。この段差は、長時間この重い本棚を置いていたことにより生まれたもので、さらにそこについていた傷は、この本棚を引きずったときについたものだ。その証拠に、本棚をズラすと新たな段差が生まれていた。
「さてと、この先が武器庫で間違いないんだよな?」
「そうだと思うわ。行って見てみましょう」
本棚を動かしてヘトヘトだが、扉の先へと進もうとするスピカに、ついていく。だが、その足はすぐに止められ。
「これは…」
立ち尽くすスピカの背後から顔を覗かせると、そこには、銃が散乱しており、何者かによって破壊されていた…。
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