第7話謎の洋館②

 入るときは開いていたはずの扉が、なぜか開かない。さらに、見た目に似合わず頑丈で、蹴り破ることもできない。

「仕方ないわ。他の脱出方法を考えましょう」

「他って言っても、どこがある?」

 スピカの言いたいことには、薄々感づいていたが、到底可能とは思えず、否定的な声が最初に出てしまった。

「反対の扉が開くかもしれないわ」

「あれは、無理じゃないか?草を刈ってからじゃないと、たぶん開かないぞ」

 俺の言葉に不満な表情を見せると、一人でスタスタ歩いて行ってしまった。

「やってみないとわからないわ」

 ドアノブを握ると、全身使って開けようと試みてはいたが、どうやら開きそうにはない。だから、言ったのに…。

「せっかくだから、この部屋をもっと詳しく探索してみよう」

 扉は開きそうになかったため、提案したが、スピカは相変わらず不満そうだ。またしても、一人で行動を開始してしまった。

 今は、下手に関わらない方が、よさそうだ。俺は、机の引き出しを、探索していくことにした。上から順に確かめていくと、一番上の引き出しは鍵がかかっていた。仕方なく、他の引き出しを確認していくが、似たような書類ばかりで、目ぼしいものは見つからなかった。そう諦めていると、一番下の引き出しに手をかけ、引くと、何かが中で引っかかった。

 力を加え、さらに引くと、引き出しごと飛び出し、中身が正体を現した。

「これは、何かの記録帳か?」

 手に取ると、すぐ表紙が目に入り、スティーブン・アレイラという、名前のような文字列だけ読み取れた。

 盛大な音を発したことにより、当然スピカにも、俺が何かを見つけたことは伝わった。俺が呟くと、覗き込むようにして、記録帳の表紙を確認した。

「それ、日記帳ね。この部屋にいた人が、書き残してたんじゃないかしら?」

「それが本当なら、何かのヒントになるかもな」

 俺は、日記帳を開いたが、書面は当然英語だった。俺は、しばらく内容と睨めっこしていたが、このままでは永遠に解読できないため、スピカに託した。

「なんて、書いてあるかわかるか?」

 スピカから、返事はない。

「どうかしたか?」

「頼み事をするときは、誠意が必要よ。さっき、私をバカにしたことを謝ってもらえるかしら?」

「え?」

 別に、バカにしたわけじゃなかったんだが…。別に意地を貼る必要もないし、俺はすぐに口を開いた。

「悪かったよ。そんなつもりじゃ、なかったんだ。俺はスピカがいないと何もできないのに、生意気だったなと思ってるよ」

 言うと、すぐはそっぽを向いていたが、なんとか機嫌を直してくれたようだ。

「ま、まぁいいわ。え〜と、なになに?」

 スピカは日記を手に取ると、目を通し始めた。


 九月十五日。

 私は、今日からこの建物の管理人として働かせてもらう。こんな大きな会社に、雇ってもらえるなんて、光栄なことだ。

 この素晴らしい日を記念し、これからのことを日記に残すことにした。


 九月十六日。

 私の基本的な役割は、警備隊の方々の暮らしのサポートだ。食事は、食堂で用意され、掃除は専門の方が行うため、お世話と言っても、総合事務のようなものだ。

 しかし、私にも特別に任されたことがある。それは、警備隊の方々が使用する、武器の管理だ。朝に武器を渡し、夜に回収する。保管室にて管理する。単純だが、重要な任務だ。失敗は許されない。


 どうやら、この男は、この館を管理していた人物のようだ。そして、この部屋は彼の仕事場だったらしい。

 しかし、先ほどから何気ない記録ばかりで、特に役立ちそうな情報が読み取れない。

 時間の無駄に感じた俺は、解読をスピカに任せて、別の場所を探そうと、その場を離れた。大量の埃に覆われた床を歩き、本棚を眺めていると、少し歪んでいるようにも見える。随分古そうだし、本の荷重にでも耐えられなくなったのだろうか?

 歪んでも見えるが、どちらかというと前屈みになっているようだった。自身の重さのおかげで、ギリギリ立っていられている状態に感じられたため、触れるのは控えておこう。

 俺が、探索を再開した後も、しばらく音読してくれていたが、スピカも重要な話題が少ないと感じたのか、ペラペラとページをめくり続け、黙読を始めてしまった。

 次々に、めくられるページの音を聴きながら、本棚の横へと視線を移していく。本棚の左には、若干のスペースが存在していた。それこそ、本棚程度のスペースだったが、特に何も無い。しかし、そこを見ていると、違和感のようなものを感じた。

 そのスペースの埃を足で払い、屈んで目を凝らすと、違和感の原因がわかった。その場だけ、少し段差があり、へこみに沿って、埃が溜まっていたのだ。

 指でなぞって、初めて気づくような段差だったが、確実にある。ついでに、なぞったとき、床に傷のようなものがあることにも気づいた。

 そんなとき、今まで聞き流していたページをめくる音が、止められた。

 スピカの方を見ると、あるページに集中し、視線を滑らしていた。俺は、立ち上がってから聞いた。

「何か、書いてあったか?」

 答えは、返ってこない。それほど、集中しているのだろうと思い、俺が再び腰を下ろそうとすると、スピカが呟いた。

「生きたければ、ここにいるべきではない…」

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