第6話謎の洋館①
足跡で埋め尽くされんばかりの地面を踏みしめ、門の前まで歩いてきた。
改めて見ると、予想の数倍おどろおどろしい外観をしている。今からこの館に足を踏み入れると思うと、恐怖は自然と湧いてきた。
館の周辺には、びっしりと草木が生茂り、門から館の扉までの間だけ、草木が存在しない空間が生まれていた。これは、ゾンビが通り抜けていたことにより、できたものではないかと予想できる。よって、右にも左にも、他の道は存在しない。
「行きましょう」
スピカは、言うと先陣切って歩き始めた。女性に先を行かせるのは、本意ではないが、スピカを止め、前に出るようなことは出来なかった。
館の扉は、酷く錆びれていたが、開閉には問題ない様子だった。取手に手をかけ、不気味な扉の軋む音と共に開かれ、館の内装が視界に入った。
外で臭っていた腐臭とは比べ物にならないほどの臭いが、最初に襲ってくる。スピカも、鼻をつくこの臭いにはたじろいでいたが、すぐに歩き出した。
恐る恐る、俺たち二人は館に入ると、扉は閉まり、不気味な館への侵入は成功となった。辺りを見回すが、ゾンビの気配はない。どうやら、数はそれほどいないと見えた。
明かりは当然なく、窓から差し込む日差しだけが頼りだったため、よくは確認できなかった。だが、目が慣れ始めて、一つ気がついたのは、床に溜まった埃の上を、素足で歩いた何者かの足跡が、無数に存在していたことだ。
外で似た光景を見ていたこともあり、驚きは抑えられていたが、それでも恐怖を抑えられるわけではない。
内装も、なんとなく視認できる程度にはなってきた。最初に目に止まったのは、正面の巨大な階段だったが、その先には、外装にも内装にも似つかない、シャッターによって隔たれていて、登り切ることができなくなっていた。
土足のまま上がり込むと、軋む床をゆっくりと進んでいく。そんな中、最初の選択肢が現れた。探索することは大前提だが、正面の階段が上れないことにより、左右にある扉のどちらからを選択する。
「どうする?」
明確な指示があったわけではないが、決定権は俺に譲られたようだ。どちらを選んでも、汚い扉を開けて進んでいくため、変わらないのならと、適当に決めてしまうことにした。
「右の扉でいいんじゃないか?」
スピカは、俺の提案に反論することなく、右の扉へと歩いていった。スピカも、この選択は特に重要視していなかったようだ。安心したところで、スピカのあとをつけていく。
ドアノブに手をかけ、スピカが再び扉を開く。しかし、ドアノブは半回転したところで動きを止め、開くには至らなかった。
「鍵がかかっているのかしら?」
そうとわかればと、スピカは逆側の扉へと移動を開始した。なんでも、二度目は簡単なものだ。次は、俺がドアノブを握り、回してみる。
扉を押し開くと、何かに引っかかったが、少し力を入れるだけで、問題なく開いた。正直、また開かないことを期待していたこともあって、少し残念味があったが、開ききっても中から何かが出てくるようなことはなかった。
扉には、角材のようなものが挟まれていたが、すでに腐っていて、簡単に砕けてしまっていた。
どうやら、ここにもゾンビはいないようだ。しかし、ここは一体なんの部屋なのだろう。部屋に入ると、またしても扉は自動で閉まった。この館、傾きが酷いのか、扉がことごとく勝手にしまってしまう。とはいえ、開けておく必要もないため、便利なものだとでも思っておいていいだろう。
部屋を見回すと、入り口右手奥には本棚があったが、中身はほとんど、床に散らばっている。そして、左手前方の奥には机があり、椅子もそのまま残っている。荒らされているというよりは、散らかっているという印象で、生活感がないとも言えないが、これだけホコリをかぶっていれば、生活感があるとも言えないか…。
その他には、正面奥に扉があるが、これは使い物になりそうにない。隙間から植物が、部屋にまで入ってきているところを見ると、開きはしないだろうし、開けたところで植物に行手を阻まれるだけだろう。
置き物や棚があったりはするが、特に目立つようなものはない。
「ここに何かあるのか?」
「わからないけど…。ん?何か机の上に置いてあるわ」
言われて見ると、確かに何かの書類のようなものが置かれていた。ここの部屋を使っていた人間は、書類仕事をしていたようだが、書面が全て英語だったため、俺には解読できない。
「なんて、書いてあるんだ?」
書類を手に取り、首を傾げている俺とは違い、スピカはスラスラと視線を巡らしていた。
「何かの貸し出し用紙みたいね。内容は…。これは、武器を貸し出していたのかしら?」
「武器?」
「主に銃ね。使用用途については書いてないわ」
日常生活では、聴き馴染みのない言葉だ。銃だの、武器だの物騒な…。しかし、武器があると言うなら、好都合だ。ゾンビに対抗するために使わせてもらいたいものだが、ここにはそんなものがあるように見えない。
「武器は、別の部屋で保管しているのか?」
「そうね。ここにはありそうにないから、どこか別の部屋かもしれないわ」
どうやら、まずはここにある武器を探すことになったが、この部屋以外入れる部屋はなかった。他の部屋を探索するには、ホールに戻って、階段上のシャッターの先へと進むしかないだろう。開くのかどうかは、わからないが…。
「一旦、出ましょうか」
スピカに言われ、俺は扉のドアノブへと手を伸ばす。入ってきたときと、同じように回した。しかし、びくともしない扉は、引いても押しても開かない。
俺はその事実を、スピカへと伝える。
「扉が開かない。俺たち、閉じ込められた…」
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