第8話夏の祭り学②

 縁日には特に思い入れは無いが、楽しい思い出が存在しないわけではない。小学生の頃には家族で来ていたし、金銭的な心配をしなくてよかったし、我ながら単純な性格だったこともあり、楽しめたと言って差し支えないだろう。

 料理に関しての良し悪しがわかるような歳でも無いため、食べたものは全て美味しいと感じたし、行為自体に楽しみを見出していたため、飼育環境の無い金魚を夢中ですくったり、当たりの出ないくじを引いたりと小学生らしく楽しんでいたと記憶している。

 しかし、去年。中学生になって初めて行った夏祭りは、飯田に振り回され続けるだけのものとなっていた。端的に言えば、去年の夏祭りは微塵も楽しくなかった…。

 そして、今年。再び飯田と来ているとはいえ、ある程度の人数で参加できているためそこまでストレスは感じない。むしろ、久島と来れていることを誇らしく思っている。今、俺は人生で一番幸せな時を過ごしているのかもしれない。あえて欠点を挙げるとすれば、未だに会話が出来ていないことと、前田も一緒に参加していること。そして、ちょっとだけ空気が重いことだ。

 モトキはとっておきの策があると言っていたが、現状二人を仲直りさせられるような雰囲気でも無いため、その策を実施するには至っていない。不安はあるが、策があるというならそれに乗っかるとしよう。

 二人が、それぞれの友人と会話しているこの状況を本当に打開できるのだろうか…。

「モトキ、いつになったらとっておきの策とやらを実践するんだ?」

「まぁ、待ってろよ…。いや、悪いがちょっと難しそうだ」

「どういうことだ?」

「正直言って、ここまで二人が会話をしないとは思ってなかった。会って話せば、後は俺たちが軽くサポートするだけで、なんとなくうまくいくと思ったんだが」

 それは、とっておきの策というには、あまりにも脆弱過ぎた。雑く、薄く、適当そして、軽率過ぎる駄策ださくだった。

「お前、それでよくとっておきなんて言えたな。とっておきという言葉を作った人に、申し訳ないとは思わないのか?」

 俺が素直な疑問をぶつけていると、飯田も歩み寄ってきて、小声で相談に加わった。

「ほんとよ。どうすんのよ、あれ。完全に決別してんじゃない」

「うるさいな。お前だって『本当はそんなに仲悪くないと思うし、会えばなんとなくでうまくいくよね』とか言ってただろ」

 どっちもどっちだろ。心中でツッコンでみたものの、こいつらに任せていると、どうにもならないようなので、俺も策を講じることにする。

「こうやって縁日を歩いてるから、きっかけが見つからないんじゃないか?一旦広いところに出て、会話の機会を与えた方が良いと思うぞ」

「なるほど、一理あるな。もう少しで花火も始まるし、移動するか」

 相変わらず決断力と、行動力はあるんだよなこいつ。ていうか、なんで俺が前田をサポートして、応援もしないといけないんだ…。友人とはいえ、複雑だな。


・・・・・


 その後、モトキと飯田の不自然な誘導により、俺たちの集団は花火の見える海沿いへと場所を移した。思い出しただけでも緊張が走るような危うい誘導だったが、なんとか移動させることが出来た。

 おそらく今後の展開においても、あいつらに任せておくとろくな事にはならないだろう。ここは俺が手を貸してやるとするか。

 協力の手始めとして、前田に対しコネクションを取ってみる。

「あんまり、楽しくなさそうだな」

 背後から現れた俺に対して、あまり動じることなく返答が来る。

「どうせ、お前らも知ってんだろ。俺と莉奈のこと」

「どうして、そう思う?」

「飯田の態度を見てたらわかる。俺を誘ったところから怪しかったしな」

 飯田よ、お前が一番足を引っ張ってるぞ。これは、ゴタゴタが片付いた後、飯田には謝罪してもらうようにしよう。

 飯田や、モトキに問題があったとしても、このタイミングで匙を投げるのも後味が悪い。やれるだけのことはやるとしよう。

「まぁな、知ってるよ。もっとも、俺は飯田やモトキに聞いてからだがな」

「やっぱり。モトキも最近変な態度が多いと思った」

 この件に関して、言い始めたのはあの二人だが、話を聞けば聞くほど、あの二人がいない方がすんなりことを済ませれた気がしてくる。

「それで、仲直りをする気は無いのか?」

「無くはない」

 曖昧だなと続けようと思ったが、前田が即座に続けた。

「でも、俺から謝る気は無い。俺は何も悪くないからな」

 それを聞いて、これは仲直りは厳しそうだと思うと同時に、確かになんで破局直前までいったのかの経緯を俺は知らなかった。

 一旦、前田から離れてモトキにでも理由を聞いてみることにした。

「モトキ、お前ってなんであの二人が仲悪くなったのか知ってるのか?」

 前振りが無かったからか、若干驚いた様子だったが、すぐに返答が来た。

「俺も詳しくは知らないが、前田が後輩と仲良くし過ぎてるらしいってのを聞いて、久島が怒ってるみたいな?」

「仲良くって、そんだけか?それで怒るとは思えないんだが」

 過大評価かもしれないが、久島がその程度を一々気にして、ここまで仲が悪くなるとは思えないが、実は結構厳しいのか?

 少し考えていると、話が聞こえていたのか、飯田が俺たちの間に入って口を挟む。

「違うよ。前田が後輩とデートしてたんだよ!まったく、彼女がいるってのに本当だらしないよね」

 割って入って来たと思ったら、こいつ全部知ってたのかよ。それを早く言っとけよ。てか、こいつそれを知っててなんで仲直りなんてさせようとしてんだ?

「なら、なんで仲直りさせる必要があるんだよ。それが本当なら一方的に前田が悪いじゃねぇか」

「え⁈えーと、それは…ぁんたが…、だから」

「あ?なんだよ、聞こえねーよ」

「何でもないわよ!とにかくどうにかしなさいよ!」

 なに、急にキレてんだこいつ…。言うだけ言うと飯田は女子の集団に戻って行った。

「モトキはどう思う?あいつの言うことが本当だと思うか?」

「う〜ん。まぁ、今思うとそんな話もあったような気がするが」

 こっちは曖昧か。なら、本人に聞くのが一番だな。再び前田の元へと戻ろうとすると、モトキが俺を制した。

「大丈夫なのか?あんまり、深入りすると復縁どころじゃ無くなるぞ」

「そんなこと言ったって他に手が無いんだからしょうがないだろ。どうやら、二人とも自分から謝る気は無さそうだしな」

 俺が言うと、モトキは心配そうな表情を俯かせた。こいつはどうやら、俺の心配をしているようだ。

「心配しなくていいよ。別に悪いことするわけじゃない」

「だ、だよな。悪いな、任せちまって」

「別にいいよ。お前は気にするな」

 俺は前田の元へと戻って行く。しかし、言ってから気づいたが、なんで俺こんなことしてるんだ?いや、今は考えない方がいいな。

 前田は一人、海を眺めていた。





中学生あるある:8

噂が爆速で広がる。恋愛系の噂は特に早い速度で広がり、ほぼ全員が数多の恋愛事情を把握している。その他、他人の失敗等も幅広く認知されていることが多い。

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