第6話とある日常学⑤
一生に一度の恋。恋愛においてこれほど輝かしいものは無いと思っている。しかし、どの恋が一生に一度の恋なのかと言われると、それを判断し確定することは出来ない。結局、最終的な恋愛が一生に一度の恋ということになるのだろう。俺はそれを少し悲しく思ってしまう。最終的に共に歩むことを選んだ相手が一番大切ということは間違いでは無いし、むしろ尊重されて然るべきであることはわかっている。だが、過去の産物とはいえ、今までのいくつかの恋が一生に一度の恋であった可能性もあったのではないか、出会うのが少し早かっただけだったのではないか、そんなことを子どもながら考えてしまう。つまり俺は、今のこの気持ちをただの思い出にはしたくない。
「夏祭り?」
浮き足立つ朝の教室でモトキから夏祭りの話題が振られた。
「そうそう、今週の土曜日一緒に行かないか?
夏祭り。俺たちの地域では三週にわたって土曜日の夜に夏祭りが行われる。本来は六月に開催されるこの祭りだが、今年は長らく延期となり、一ヶ月後の七月に開催となったらしい。しかし、こんな暑い中、人混みとかありえんでしょ。
「俺はやめ…」
「いいじゃん!うちも行きたい!」
どこから湧いてきたのか俺の背後から乗り出し声をあげたのは、朝から無駄に元気な飯田だった。
「おー!飯田も一緒に行くか。おっと、くらちゃんなんて言おうしたんだ?」
「いや、だから俺は…」
「祐一もその日暇だし行くってさ!」
こいつはなんでことごとく俺の発言を妨げるんだ。
「何勝手なこと…」
「行くよね?」
俺がそのとき、目の当たりにした光を失った瞳は、脳内を恐怖で埋め尽くした。麻痺した思考は勝手に現状からの回避を行なっていた。
「おうよ!俺も行くに決まってんだろ!」
「そうか、じゃあ当日は夕方六時にスーパーの駐車場で待ち合わせだからよろしくな」
くそ〜、土曜は休日らしくクーラー効いた部屋でまったりゲームする予定だったのに、俺のバカァ〜。
「じゃあ、うち友達呼んでいい?」
「え?あぁ、いいぞ。誰呼ぶんだ?」
こいつ、余計なこと言ってんじゃねぇよ。これ以上人数増えたら、人数管理とか面倒くさいことになるだろうがよ。
「えーと、
何⁈久島も来るのか?良くやった、褒めてやるじゃんじゃん連れて来い!今だけはお前に感謝しておくことにしよう。ありがたや、飯田様ぁ〜。
「んー、でもそれじゃ多過ぎるかもな、人多いとはぐれたりすると困るし」
「何言ってんだよ、祭りなんだから人は多い方が良いに決まってんだろ!それに男子が多いから女子もある程度いた方が過ごしやすいだろうが」
我ながら見事な掌返しだが、この機を逃すわけにはいかない。
「それもそうだな、よし頼んだ飯田」
「はーい」
なんとか議案は可決されたようだな。これでなんとか祭りに行く確固たる理由が出来たな。これもみんな飯田様のおかげだ、もう一度拝んどくか。南無阿弥〜。
「何してんの?あ、それと前田も呼んでいい?
う、そいつは…。
「前田って久島と付き合ってる奴だよな?」
「そうそう、その前田」
チッ、要らんことしてんじゃねぇよ。そんな奴が来たら俺の出る幕がなくなっちまうだろうがよ。実際前田とは小学校からの付き合いということもあり、仲が悪いわけでは無いが、久島が関わる以上意識せざるを得ない。向こうはどうも思っていないだろうが…。それにしてもこのクソビッチ、どうしてくれようか。
華麗なる掌返しを再び披露したところで、このクソビッチに呪いを込めた拝みをお見舞いしておくことにした。
「でも、前田って久島と別れそうとかそんな話なかったっけ?」
おや?俺の知らない間にまさかの超展開が起きていたのか?
「そうなんだけどね、あいつも反省してるみたいだし、仲直りの手助けをしてあげようかなって思ってて。ダメかな?」
お前はほんとに余計なことをするのが好きだな、そういう奴は過ちを繰り返すんだよ。一度見逃せば、すぐ調子に乗ってだな。
「そういうことなら、しょうがないな。あいつは悪い奴じゃないからな、なんかの間違いだろうからな、手伝ってやるよ」
嘘、だろ…。
「ありがとう、助かる」
もしかして、それって俺も手伝わないのいけないのか?冗談じゃないぞ、なんで俺がそんな青春ドラマの特にピックアップされない良い奴なモブBみたいな役を演じなきゃならんのだ。ここは一先ずこの場から離脱する必要がありそうだな。
俺は、飯田の後方にいたこともあり、難なく後ずさるモーションに映ることができたが、恐怖の眼光は対象を見逃すことはない。
「もちろん、祐一にも手伝ってもらうから」
「お、おうよ…」
こいつはいつからこんな恐ろしい女になってしまったのか、末恐ろし子…。
中学生あるある:6
祭り事には積極的に参加する。学校では悪なあいつも祭りには高確率で参加し、大いに楽しんでいる。中には屋台を出している人間と顔見知りで、サービスしてもらう者もいる。
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