第3話とある日常学②

 クラス替え。学年が変わるごとにクラスのメンバーが変わるというシステムだ。中学に入学し、小学校からの友人はいたが、それを上回るほどの知らない人間に囲まれるようなクラス。コミュニケーションは苦手では無いが、距離感が掴み辛いというのが正直な感想だった。その後、打ち解けてき始めたと思ったとき、学年が変わり二年になった。

 知らない人間もいたが、一年過ごせばそこそこの交友関係を築くことはできていたし、完全に知らないという訳でも無い。そんな曖昧で複雑な心境の中、彼女が現れた。

 出席番号は俺の一つ前、その姿を見た瞬間に春の風を正面から全身で受けたような衝撃が走った。つまり、一目惚れだった。

 しかし、その後特に関わらず、数回会話を交わしただけで、一学期が終わろうとしていた。

 横目で彼女を見ていると、何か罪悪感のようなものが湧いてくる。クソっ!俺が何をしたってんだ!

「あんた、ボーッと何してんの?」

 俺は横目を正位置に正し、声の主を見上げた。

「なんだ、飯田か」

「なんだとは何よ。それよりさ、うちちょーっと気分が悪いんだよね。保健室について来てよ」

「は?なんで?」

 飯田明里いいだ あかり。こいつは同じクラスで園児の頃からの知り合いだが、特に深い関わりはなく、多少会話を交わすくらいの関係だ。

「あんた保健委員でしょ?」

「そうだっけ?てか、保健委員なら女子もいるだろ、ほらあそこ」

 この学校では委員会というシステムが存在し、その種類はいくつかあり、その中で俺は保健委員に所属している。委員会は前期と後期に分けれており、そこで決めた役割を実行するということになっている。そして、この委員会は男女一名ずつが役割を担うことになっている。つまり、女子のこいつはわざわざ俺に言わずに女子の保健委員にお願いするのが暗黙の了解となるはずなのだ。

「うち、あの子苦手なんだよねぇ〜。ねぇ、いいじゃん暇でしょ?」

「暇とかそういう問題じゃなく…。それにもうすぐ授業始めるぞ」

「あんた変なとこ真面目だよね。いいじゃんサボっちゃえば、うちのせいにしていいから」

 だからそういう問題じゃないんだが…

「お前元気そうじゃん、大丈夫だろ」

 途中から伏せていた視線を再び上げて、飯田の顔を覗き見ると、額に血管でも浮き出しそうな引きつった表情をしていた。

「いいから、来い」

「う、うい…」

 半ば強引に連れ出された俺は飯田の連れ添いとして、保健室を目指すことになった。

 保健室は校舎の一階に位置しており、二年の教室から向かうには階段で降りていく必要がある。つまり、若干面倒臭いのだ。

 俺は後をついていくように、一メートルくらいの間隔を空けて、飯田と同じスピードをキープして歩いた。

「ねぇ、倉野は今日部活あるの?」

「あ?あるといえばあるが、無いと言えばないって感じだな」

「それってどういうこと?」

 半分呆れたような目を向けられ、問われた。

「つまりだな。活動はしているが、大した活動をしてないってことだ!」

「なんでそんなこと堂々と言えるの?」

「ふ、俺には関係ないからな」

「あんた部員でしょ」

「いやいや、俺は入ってるようで入ってないから。でっかい袋に包装されたお菓子みたいな感じだな」

 呆れ顔が更に険しくなり、ため息と共に言葉が吐き捨てられる。

「例えが意味不明過ぎて、何も伝わってこないんだけど」

「え、そうか?ああいうのって入ってるようで入ってなくね?」

「あー、はいはいそうね」

 なんだこのあしらわれ方…。納得いかない。そんなくだらない会話をしていると、いつの間にか保健室に辿り着いていた。

「ほら、着いたぞ。次からは一人でサボってくれ」

「あんたは女の子に優しくできないの?だから、モテないんだよ」

「ほっとけ、じゃあな」

「おい」

 俺が教室に戻ろうとすると、肩を掴まれ呼び止められた。

「んだよ?」

「今日さ、一緒に帰らない?」

「…すまんな、ちょっと用事があってな」

「そ、そうなんだ…。わかった、休憩したら教室に戻るよ」

「あぁ」

 俺とこいつは幼少期からの付き合いだ。世間はこいつとの関係を幼なじみとでも呼ぶのだろうが、正直俺はこいつを友人以下の関係だと思っている。これ以上の深入りは是非遠慮させていただきたい。





中学生あるある:3

クラス替えのメンバーは割とバランスが良い。しかし、稀に地獄みたいなクラスに割り当てられる。クラス替えには基本的に上振れは無く、学級委員資質のある人間や運動部の中心的人物が必ずいる。

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