第2話とある日常学①

 俺は今、中学生だ。しかも、人生で一番頭が悪いと言われている中学二年だ。

 そして同時に、人生で最も青春という言葉が当てはまるりそうな気がする年だ。人が人を好きになり、初めての体験や、異性との違いに気付き始めるこの年に俺は今!…教室で友人から借りたノートの内容を写していた。

 俺には退屈を感じると脳内ナレーションをしてしまう癖があるみたいだ。こういうのが派生して厨二病なる重病にかかっていくのだろうか。もしかしたら俺もボチボチヤバいのかもなぁ…。

 手を動かしながらも独り言のように脳内で呟き続けているうちに、あるイメージが浮かび上がる。

 あれ?もしかしてこれ、冬馬に近づいているのでは?俺は同じ教室内にいる冬馬の方を横目で視認した。

 冬馬はニヤニヤしながら小説を読んでおり、絶賛キモい奴タイムに入っていた。視線をノート上に戻し、ホッと息を吐く。

 いやいや、あんな変態にはなっていないはずだ。だって俺今勉強してるんだもん!俺は至って正常である。また、写しているこのノートの持ち主が冬馬であるという一点は考えないものとする。QED。

『結局また、脳内ナレーションしていることに気付いていないこの男は、その後も黙々とノートに文字列を連ねていった』


・・・・・


 ノートを写し終えたところで、冬馬にノートを返しに行くと、話しかけたくないような表情をしていた。

「と、冬馬。ノート返すわ、サンキュ…」

「あ?あぁ、宿題くらいちゃんとして来いよ」

「いつも悪いな」

 とりあえず触れたくもないし、気持ち悪い笑みについては放置でいいや。なんでこんな奴が頭良いのか全くわからん。こいつの脳内構造を良品にした神はある意味重罪だ。

 本日の悩みの種であった、未完の課題も終えることが出来たし、あとはのんびりじいさん、ばあさんのありがたいお話でもBGMに落書きしてたら一日も終わるだろ。

 そこで、俺が残りの貴重な朝の時間をどう過ごすかというと、人間観察に費やしていこうと思います!

 観察対象は俺が学校に来る理由の九割を締める存在である少女だ。彼女はいつも朝のホームルーム開始一○分前頃に登校してくる。

 そして、今!!

「おはよー」

 小鳥の囀りと聴き間違えそうな爽やかで、透き通ったこの声は間違いなく彼女だ。

「莉奈おはよー」

 久島莉奈くしま りな。俺と同じ四組で陸上部に所属している。小柄で明るい性格なせいか周りに人が集まり易い。

 登校直後だというのに今もクラスの女子に囲まれている。これでは観察が成立しない。そんな状態が続き、久島の姿は隠されたまま、ホームルーム開始のチャイムが鳴る。

 俺たちのクラス担任は秋方美都あきかた みとという眼鏡女教師だ。これの絡みがとにかく鬱陶しい。何かに託けて俺にちょっかいをかけてくる。そう、まさに好きな子につい意地悪してしまう小学生のように。あれ?もしかして、俺のこと好きなんじゃね?モテる男は辛いといったところか…。

 既婚のアラフォー教師に好意を抱かれているかどうかというつまらない話題は一先ず置いといて、女子の壁が取っ払われた久島の姿を拝んでおかなくては!

 左の壁際に席を構える久島の方を、俯き気味になり横目を使って覗き見る。

 正直、この行いは完全に変態のそれだが、そんな柵に構っている程俺は暇ではない。青春の一ページとなるこの瞬間を無駄になど出来ない。そして、今日も久島は全身から可愛さが溢れていた。

『この男、自分の欲望を満たすため聞き手不明の言い訳をつらつらと並べてはいるが、実のところただの変態であり、この一連の行動がほぼ無駄であることに気付いていない』

 ホームルームは滞りなく進み、終わりを迎えると共に、チャイムが鳴り響く。こうして、学生生活の本文である勉学の時間がやってくる。

 その前に一○分の休憩を挟むため、教室には再び騒がしさが蘇る。そして、当然久島の周りには女子の壁が再構築されていた。

 しかし、今回は人数が抑えられ、隙間から観察することが出来た。ここからが本当の観察活動開始という訳だ。

 何を話しているのかは分からないが、久島は話の合間に周囲の友人を見回し始めた。そして、周囲の人間も不思議に思ったのだろう、久島に問いかけているようだ。久島は両手を前で振り、なんでもないとでも答えたのだろう。しかし、何を見回していたのかを知ることはできなかった。すると、おもむろに胸元のボタンに手を掛けた。

 その行動を見てもしやと思い、周囲を確認する。そうして、俺は確信した。久島はクラスで一人だけボタンを一番上まで止めていたことに気付き、適応しようとしていたのだ。

 視線を戻しすと、久島のボタンは解かれていた。この事実自体には驚きは無い。しかし、なんと第二ボタンまでが解かれており、慎ましやかな胸元が予想以上に開放的になっていた。

 その絶景を目の当たりにして、視線を逸らすことなど出来るはずもなく、ほぼガン見状態だった俺と久島の視線が合ってしまった。

 すると久島は視線を逸らし、胸元を右手で握って隠した。その行動を目に焼き付けたあと、俺も視線を正面へと逸らしていた。

 つまり、何が言いたいかというと、すっごく可愛いです!

『この男、観察と言っておきながら、可愛い以外の観察結果を出せていなうえ、観察対象と視線が合うという失態をしておきながら、全力で満足しており、観察に世界一向いていない人間だったということがわかった』





中学生あるある:2

授業中ノートの隅や、テストの余白に落書きをして時間を潰している。これをしていると眠気に対抗できるうえ、ノートを取ってるようにしか見えないので善良な生徒を装うことができる。

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