4連目 利用と恋敵と軽音楽部
「なんでって……そりゃ、
えっ? 俺の反応ってそんなに分かりやすいの!? ってことは本人にもバレてる可能性もあるってこと? ――終わった。これであと二年と十一ヶ月は消化試合、か……。うん、そうだよね。学校は恋愛をする場所じゃないもんね――
「そんなに分かりやすかったんだ!? 俺ってそんなに顔に出やすいタイプなのかな……」
ガチャとかいう問題じゃなくなってきた。仮にクラス全体で俺のそういう噂が立ったとしたら、俺だけでなく相手役の深堂さんにまで被害が及ぶ。
彼女の、まだ始まって二日の高校生活を、白倉
「ふ~ん、やっぱそうなんだ。白倉くんは恋の駆け引きに弱いんだね~。安心して、私くらいしか気づいてないと思うよっ」
「騙されたっ!
へいきでうそつかれた! おんなのここわい!!
「ナイスツッコミぃ~! 文吾くんって大人しいけど、喋ると面白いね~! あははっ! そういう所、いいと思うよっ!!」
笑いながらツッコミを褒めてくれた近保さんであった。
――って、ブンゴクン!? いきなり下の名前でっ!? こいつは一体いつ下の名前を呼ぶ気になったのか。ギャルの距離感は全く分からん……。
「文吾くん、って……近保さんはホントいきなりだね、びっくりしたよ。でも、それだけで俺を副委員長にしなくてもよくない? なんか別に目的があるんじゃないの?」
「そりゃあるよ。言うのは恥ずかしいけど――だから、文吾くんに協力してもらおうと思って」
だろうなぁ。じゃないと無理矢理近づけたりしないもん。
でも『恥ずかしい』ってなんだ? コイツ、俺に何をさせるつもりなんだ?
「恥ずかしいって言われても……。近保さんの目的を言ってくれないと、俺もどう動いていいか分からないんだよね……」
彼女の目的こそは検討がついているのだが、目的達成のためにどう実行するか。ここがさっぱりなのだ。俺の予想が間違っている可能性も充分にあるので、やはり彼女の口から全てを聞くのが手っ取り早い。
「そうだね……ごめん。実は私ね……」
分かってるよ、お近づきになりたいんでしょ? 俺もそうだし、深堂さんと近保さんは女子同士だしね。なにも恥ずかしがることじゃな――
「深堂さんを一目見た時から、付き合いたいと思ってたの!!」
予想の斜め上だったー! そりゃ恥ずかしいよね! ごめんね!!
「お、おう……。確かに、深堂さんってこう、オーラとかすごいもんね――」
「だよね!? 入学式の挨拶とかホントヤバかった! 黒髪似合い過ぎだし、何よりもう顔が天才! もうあの顔だけで結婚、だよね~!!」
か、顔が天才? 結婚? 確かに綺麗だとは思うけど……。
ギャルの表現技法はよく分からん……。
「まあまあ、気持ちはわかるけど落ち着いて……。ってことは、俺経由で深堂さんについてもっと知りたい、ってことかな?」
「えっ、だいせ~かい! 文吾くんってもしかして私の心読めたりする!?」
「読めないよ。ただ予想が当たっただけ」
ホントに
「だからさっ! 協力してくれない? なんか言葉でいいづらいけど――文吾くんは副委員長の側面から、私は友達の側面から! 深堂さんのことをたくさん知って、ゆくゆくは私と深堂さんが付き合うのっ!! ね、良い案じゃない!?」
良くない。最後で全部台無しだ。
「名案だとは思うけど……俺達って、一応ライバル同士じゃん? その辺が気になるんだよね――」
俺達は同じ女性に好意を抱いている、いわば恋敵だ。例え協力関係を結んでも、このままでは相手に嘘の情報を流して妨害することができてしまう。未然に何か対策をとらなければ、共倒れする可能性だってある。
「えっ? ライバルってなんのこと? 文吾くんは協力してくれるんじゃないの!?」
『なんのこと』だって!? 俺、相手にすらされてないの……!?
「いやいや、ちょっと待ってよ! 俺も深堂さんと付き合いたいと思ってるし――」
「悪いけど、文吾くんには無理だと思うよ? 既に何人か深堂さんにアタックしてるらしいけど、結果は全員ダメ。あの
だから諦めろって言いたいのか!? 陽キャだからって、なんでも言っていいわけじゃないだろ……。でも近保さんの言いたいことはすんごく刺さってる!
「うん。俺なんかが深堂さんと付き合うのは無理かもしれない。でも、そんな脅しで簡単に諦めて切り替えられる方が無理なんだ……メンタル強くないし。強くはないけど、負けないよ」
「言うね~。ま、これからもよろしくねっ」
そう言って、彼女は自身のスマホを取り出し、俺の眼前に差し出す。一体何のつもりだ……?
「え? スマホがどうしたの?」
「いやほら、連絡できるようにしないとじゃん? あ、そうだ。文吾くん、
「あぁ、そういう……。CHAINEならやってるよ。――はい、これが俺のヤツね」
近保さんはカメラでQRコードを読み取る。画面には『白倉文吾』の文字と、塀の上で伸びをする三毛猫の画像が映しだされた。
「ありがと~! 後でクラスのグループに招待しとくね。それじゃ、私は体験入部に行くからこれくらいで! また明日ね、バイバ~イ!!」
「あ、うん……またね!」
去り際のあの笑顔、かわいかったなぁ……。
深堂さんが『綺麗』なら、近保さんは『かわいい』だ。
正直、一年二組に深堂さんがいなければ近保さんがぶっちぎりでモテるはずだろうな。かわいいし……アレはすごいし……。それに加えて、事情があるにしても俺なんかに『態度を変えず』接してくれる、所謂『オタクに優しいギャル』ときた。普通ならここで勘違いして告って玉砕、翌朝からイジられまくって病みオチだ。
色んな意味で終始翻弄されまくってしまった。恐らく彼女に悪気はないんだろうが、その分タチが悪い。というか俺がいなかった昨日の『遊び』の間に、クラスのグループなんてできてたのね――スマホの電源をオフにして、やるせない思いごとスクバに突っ込む。胸囲……脅威すぎる邪魔が入ってきたが、まあこのことは家に帰ったら姉ちゃんに報告するとして。
「「「さあこーい!!」」」「「「よーし!!」」」
あちこちで響き渡っている声の数々。次なる問題はこの『部活動』である。
最悪テキトーな部に籍を置くだけでも良いのだが、パイセン曰く『何かしらの部活エピソードがないと、進路を決める際に大変な思いをする』らしい。
なお当の本人は地元の国立大学にこそ進学したものの、『つまらん』とのたまい半年で辞めた模様。
そこで別れ際に近保さんが言っていた『体験入部』だ。今日のうちにある程度入る部活動を決めてしまうか……。先輩方は猫を被って接してくるだろうから、正直参考にはならない気がするが、念のためにね。
運動部か文化部か。俺の運動神経のなさからすれば、答えは自ずと見えてくる。
俺は昨日貰ってスクバに突っ込んでいたままの『亀屋高校入学のしおり』を取り出し、部活動の項目を探す。文化部は――あった。
・軽音楽部(教室棟2階音楽室A)
・吹奏楽部(部室棟3階音楽室B)
・茶道部(部室棟1階茶道室)
・書道部(部室棟2階書道室)
・新聞部(教室棟3階広報室)
・放送部(教室棟2階放送室)
時刻は17時34分、全てをのぞくのは難しいか。俺が二年半で人並みにできそうな部活――新聞部くらいだな。広報室の詳しい場所は分からないが、とりあえず三階に向かえばなんとかなるか。グラウンドの喧騒から逃れるように、階段を駆け上がる。
「三階、ついた……。広報室はどこだ……?」
高校生にもなると、校舎案内なんてものに時間が割かれることもなく。それゆえに俺は絶賛迷子中なわけである。まだ日が暮れていないこともあり、どの教室も電気が点いていない。
前言撤回、なんとかならなそう――だが、後でゴタゴタしかねない問題は早々に解決しておきたい。ゆとりができれば、その分考えることが少なくなり、脳内ガチャも回しやすくなる。
というわけで、広報室はどこだ――
「あぁぁぁぁぁぁ!?」
得体の知れない何かに腕をとられる。デカい声出ちゃった! ちょっと恥ずい!
「ちょっと待って! ちょっとだけでいいからぁー!!」
尻尾を踏まれた猫のような甲高い声。ちょっとってなんだよ! 恐怖が一瞬で脳内を支配する。もしかして、出た!? 抵抗しようにも体に上手く力が入らず、ずるずるとある一室に引きずり込まれてしまう。
「え? ちょ、何ですか!?」
落ち着け。お化けなんてものは空想上のモノだ、現実にいるわけないじゃないか。となると、強引すぎる部活動の勧誘、か……。いざ扉の上にある看板を確認――音楽室A? ということは……。
答えに行きつく間もなく、視界には弦と鼓が広がっていた。
「いきなりごめん! びっくりしたよね? でも落ち着いて聴いて!!」
声の主はツインテールをぶんぶん揺らし、目を泳がせながら告げる。いやいや、あんたが落ち着かなきゃ何も始まらん。
「ほら、みんなやるよー! お客さん来たからー!!」
いつの間にかお客さんとして扱われていた。別に新聞部にこだわりがあるわけじゃないけど、色々と面倒くさいことになりそうだから絶対に避けねば――
「お、人来たんですねー。って先輩、あんただけ三年で爪痕残したいからって、見ず知らずの一年を連行しないでくださいよ。それともアレですか先輩、初代からのお達しでもあったんですか?」
奥から現れたのは俺より少し背が高い、青のジャージを着たロングの女子。青ってことは俺の一つ上の代か。手には木の棒が二つ、ドラム担当だろうな。
一瞬なぜ俺が一年だと分かったのかと疑問を抱いたが、右手のしおりを確認したからか、とすぐに結論に辿りつく。この先輩洞察力すごいな。あと初代とかお達しってなんだ。ここは一高校の一部活動で間違いないんだよな?
「連行って……別にそんなんじゃないもん! ね、そうだよ……ね?」
違います連行されました――って、うるうるした目でこっち見ないでください! 保身に走りたいけど、先輩の顔に泥を塗るわけにもいかない。というか女の人を泣かせるとそれこそ面倒なことになるし……。よし、ここは身を保たず切る覚悟で!
「そ、そそそ、そうですよ! 軽音楽部、ちょっと気になってたんですよね~! ほら、ギターとか弾けたらカッコいいかな~、って! あ、あはは……」
「うんうん、無理しなくていいよ一年くん。このちっこい先輩に連れ込まれたんだよね。あーあ、かわいそうに。お気の毒さま。でも気になってたんだよね? つーことで」
こっちサイドと思ったら、ゴリゴリ向こうサイドでした……。ドラムセット越しにこちらを見ながらニヤニヤしている顔が最高にムカつく。
「じゃあみんな、いくよ!」
いつの間にか他のメンバーも演奏の準備を始めている。あのちっこい先輩、ボーカルなのか。マイクの調整めちゃめちゃ大変そうにやってんな……。
準備が終わるまで特にやることもない、というより何もできないので、この軽音楽部がどんな集団なのか一応見ておくか。
ギター担当の人はさっきのドラム先輩と同じ青のジャージを着ているから二年生だな。校則ではとても許されないであろうメイクを顔に施している。どこか和風であり、ギャルの近保さんとはまた違ったアプローチだ。
ベース担当の人は真面目そうな男子。制服のホックもしっかりと留めている。周りがあんなのだと絶対やりにくいだろ――なんて考えていたら視線が合い、軽い会釈をもらった。頑張ってください!
この四人が今の部員達か。ボーカル、ギター、ベース、ドラム……キーボード担当の人がいないな。キーボード自体は端にちらりと見えるので、担当の人は休んでいるのかな? 今日テストだったような気がするんだけど?
連行チビ、ジャージ花魁、真面目くん、詐欺師、テスト欠席……。一人除いてこの集団、マジで大丈夫なのか?
――あ、終わった。そして既に汗だくのちっこい先輩。おい、本番は今からだぞ。
「ふぅ……。それでは聴いてください、『トビダセ』!」
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