第3話 誰が勝つ?
「ところで、キミ。これはMPやHPを保存しているデータベースの表示だけど、先生たちや生徒会が使っているポイント入力機能もあるだろう? その機能にアクセスすることは出来ないのかい?」
「部長も要求厳しいっすねぇー。ポイント表示部分まではセキュリティも厳しくないんっス。だけど、ポイント入力部分は学校運営の根幹に関わる部分スから、セキュリティが半端じゃないんスよ。監視用AIがうじゃうじゃいて、そいつらの監視の目をくぐる必要があるんス」
彼は、キーボード横の少し冷めたホットココアをグビリと飲んでから、頭をぐるりと後ろに回して部長を見上げる。
「何をいってるんだ! キミの能力なら監視用AIを騙すぐらい造作もないだろう? 僕は君の能力を高く評価してるから、貴重な部費を使ってキミ専用の高性能PCを準備したんだぞ。頼んだよ、物理部の栄光は君の腕にかかっているんだぞ」
「了解っス。とりあえず監視用AIを騙すソフトをインストールして行けるところまでは行ってみるっス――ただし、見つかったらどんな方法を使っても逃げるスからね、部長。その時はヨ・ロ・シ・ク――ス」
……と、しばらく悪戦苦闘していた彼が、とつぜん薄笑いを浮かべた。
「へへへへへ。部長、入れましたよ。とりあえず何人かの生徒のHPポイントを追加してみましたが、正常にデーターベースに反映されてるっス」
「おお! 流石だなキミ。これで私がこの学校の陰の支配者だな。昔の番長のように力で学校を支配するのではなく、『ポイント』という電子的な数字を使って学校を支配するのだ……」
心の底からこみ上げて来る黒い思いが、部長の顔に悪魔のような笑みを与えていた。
◇ ◇ ◇
「あれ? 変だなぁ――」
「どうしました、石橋先生」
「いやね、二組の小野健司君にHPのプラスポイントを付けたんですけど……何だかそれ以外の生徒のポイントも加点されてるみたいなんですよ。変だなー?」
「へー、誰か他の先生がポイントを加算したんじゃないですかね。偶然同時に更新されたとか、じゃないですか」
職員室では、たまたま石橋先生が物理実験の手伝いとして健司にHPのプラスポイントを付けていた。そして、HPポイントの不思議な動きに首をかしげていたのだった。
◇ ◇ ◇
「ねえ、ねえ。 知ってる由香?」
「何? どうしたの明美」
「ここだけの秘密だけどさ、物理部の天才ハッカーが学校のシステムに侵入する計画を立てているらしいよ。もしも上手く侵入出来たら、ポイントを上げたい人を募集してるって……」
「え! それってバレたらヤバい話じゃないの。明美もそんなオタクな物理部の人間に近づかない方が良いよ」
「大丈夫だよ、ちゃんと仲介人を経由してお願いしたからさ。それに、先生たちに見つからないように、ポイントの増加は少しだけらしいわよ」
「へー、そうなの。だったら、その仲介人紹介してくれるかな? 今日はちょっと色々あって、どんな方法でもいいから、私、HPポイントだけは上げたいんだよね」
由香は、両手を拝むようにして、明美にすり寄っていく。
◇ ◇ ◇
「うわ! ヤバイ。監視用AIに見つかったっス――」
彼は突然大きな声を出して、飲みかけのココアを叩きつけるように机の上に置いてから、大急ぎでキーボードに向かって呪文を打ち始めた。
物理部のPCは授業で使用する数十台のPCを踏み台にして学校のシステムに侵入しているので、ハッキングが直ぐにばれる事はない。しかし、うかうかしていると踏み台PCを全て調べられて、物理部で操作している彼のPCに行きついてしまう。
彼は、自分が踏み台にしたPCに残っている足跡を消す時間を稼ぐために、恐るべき手段にでた――それは、学校のデータベースを消去する事だった。
障害や故障などからデータを守るために多重化されたシステムでも、内部からなら簡単にデータを消去できるのだ。彼は躊躇することなく、全校生徒のHPとPMポイントが保管されているデーターベースの初期化命令を実行した。
彼の読み通り、監視用AIのリソースは最優先処理としてデーターベースの初期化停止と復元処理に使われ、ほんの少しだけ逆探知のスピードが遅くなり、彼は逃げ切ることに成功した。
◇ ◇ ◇
結局、そのハッカー騒動のおかげで全校生徒の今週分のHPとMPポイントのデータは復旧出来なかった。
学校側は、その対応として今週のHPとMPポイントのカウントは無効とし、生徒の移動も今週は行わないという結論を下した。
その日の放課後――。
健司と由香は部活動に急ぐ生徒達がわらわらと移動している廊下に、ぽつんと並んで立っていた。
「健司、今回のポイント勝負どうする?」
「どうするも何も、ポイント自体が無くなっちまったんだから、無効だべ?」
「そうかー、そうだよね。私、あんなに頑張ったんだけどな……」
由香は、廊下から見える空を眺めながらため息をつく。
そこで、ふと思い返したように健司の方に振り返る。
そして、両手を体の前で握ってお祈りポーズをとりながら、上目遣いに健司を見る。
「健司ぃ~~、だったらさ。私のお願いを聞いた方が映画の後でいい思いが出来るけど……」
ほんの一瞬の間が空いてから……
「わかったよ、お前の勝ちだよ」
「ね? やっぱり、『最後は必ず私が勝つ』の。言ったとおりでしょ」
了
最後は必ず私が勝つ ぬまちゃん @numachan
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