第2話 私が勝つわ
「おはよー! 健司」
「おお、おはよう。由香」
幼馴染の由香は、朝から元気がいい。
彼女のハイトーンボイスは、昨日の深夜枠のアニメを見たおかげで寝不足気味な健司の脳細胞にガンガン響く。遅刻するとHPが3ポイントマイナスされるから無理してでも起きて学校に来た彼に対する仕打ちがこれだった……
「ねえねえ。そういえばさー、今週末に新作の恋愛映画があるんだけど見に行かない?」
「えー? 週末はアニメ映画を見に行きたいんだけどな……」
「アニメ映画なんてどうせテレビで再放送されるでしょ? だったら恋愛映画見に行こうよ、ねー」
「いやいや、映画館で見るのとテレビで見るのとでは迫力が全然違うんだぜ!」
彼女は眉毛を寄せて皺を作りながら、うんうん唸ってる。そんなに皺を作ってたら可愛い顔が台無しでは? と思うのは彼の考えすぎか。
「わかった。それじゃ、こうしましょ。君と私のポイント勝負というのはどう?」
「え? だって由香の方が小テストの成績良いじゃないか。この勝負、俺に圧倒的に不利だぞ」
「……ううん。どうしようかな? なるべく同じ条件で勝負したいよね」
今度は腕を組んで悩みだした。おいおい、映画を見に行くのにそこまで悩まなくてもいいだろう? 女友達同士で行けばいいんじゃん、と彼は思ってしまう。
「ひらめいた! じゃあさ、小テストの結果でプラスポイントされるMPポイントは無視して、HPポイントだけで勝負しましょ!」
いくら幼馴染とはいえ、そこまで情けをかけられて逃げたら男が廃るだろ? 彼はしぶしぶ勝負を受ける事にした。
「よーし、わかった。それじゃぁ受けてやるよ。その代わり俺が勝ったら俺のいう事なんでも一つ聞いてくれるか?」
「良いわよ! だって、最後には絶対に私が勝つもの」
彼女は小ぶりな鼻の穴をちょこっと膨らませて、自信を見せる。男の前で鼻を膨らませるのはどうなんだい? と彼は思うけど、まあ可愛いらしいから許しちゃうのだ。
そんなわけで、彼と彼女のポイント競争が始まった。
HPポイントは基本的に生徒の生活態度により減点されたり加点される仕組みだ。だから、どれだけ先生に媚を売るか、がポイントになる。
彼は直ぐにアニメ仲間の物理の石橋先生に、教材の配布とか手伝えるものがないか御用聞きに職員室に向かう。
彼女も普段から姉妹のように仲良くしている家庭科の先生の処に仕事を探しに行くみたいだった。
結局、そうやって生徒達はポイントをエサに先生たちの思い通りに動いているということだった……でも、昔の内申書や評価点といった先生の個人的な意向がたっぷりと反映される非公開の書類よりは、まだ開かれた教育であろう? と教育界の有識者はうそぶいているらしいが――
◇ ◇ ◇
「それでは今から最後のガードを外しまス。これで学校内で行われる全てのポイント入力状況を確認できるはずっス」
学校一のハッカーは、だいぶ伸びた前髪をめんどくさそうに掻き上げて、指をパキパキと鳴らしてから、物理部部長が後ろで見ている中、厳重に管理されている学校のシステムに侵入するために愛用のキーボードを滑らかに操作する。
すると、彼らの前にあるPC画面にはマル秘と言う文字と共に学生番号とHP、MPの値がずらりと表示されていく。
「ううむ、これは凄い……全校生徒のMPとHPがリアルタイムで自由に閲覧できるじゃないか。この情報を校内のタレコミ屋に流せば、我が部の貴重な運営費になるな」
彼は画面に映し出されパッパッと都度更新されていく生徒達のMPとHPの数字をみながら、一人ほくそ笑んだ。
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