最後は必ず私が勝つ
ぬまちゃん
第1話 ポイント制
「はい、林クン! 遅刻だから3ポイントマイナスね」
風紀委員の神林女子が校門の前で制服のフレアスカートのヒダが限界になるまで足を広げて仁王立ちになり、10億年に1秒しか狂わない原子時計で制御された学園の時計台の時間を、黒縁メガネのレンズ越しに見ながら吠える。
神林女子の横に大型タブレットを持って控えていた集計担当の水田女子は、スキャナーを使って林クンと呼ばれた生徒の胸のQRバッチをスキャンする、そしておもむろに3ポイントのマイナス値を入力する。
◇ ◇ ◇
ここは、学校内での行動が全てがポイント化され、見える化された育成学園高等部。
例えば、毎時間行われる小テストで満点を取ると
毎週の合計結果が、翌週のクラス替えに反映され、各人のスクールカーストに影響を与える。そのため生徒たちは毎日必死になってポイントを稼ぐのだ。
◇ ◇ ◇
「でもよー、生徒会の役員達って基礎ポイントが俺達より高いから美味しい思いをしてるんだろ?」
「そーだよな、あいつらって、生徒会活動や学校行事で忙しいからとか理由を付けて学校側からポイントを優遇されてるらしいじゃないか?」
「なんだよ、結局最初から格差社会ってやつかい」
生徒達が昼休みに教室でうだうだと話し込んでいると。そこに生徒会の役員が通りかかって声をかける。
「おい、そこの君達。昼休みでも勉強しておかないと午後の小テストでいい点が取れないぞ」
「うるせーなー、おまえら生徒会役員みたいに小テストでいい点とらなくてもポイントがたっぷりある奴のいう事なんか聞きたくもねえや」
「いやいや、僕達は生徒会の仕事で忙しいからといって小テストで手は抜いていないよ。現に君たちのクラスにいる生徒会書記の天童女子だって毎回100点だろ?」
生徒会副会長である、佐藤君は文句を言っている男子達に向かって人差し指を左右に振りながら反論する。
「だって生徒会役員だからといってポイント優遇なんかしたら、学校が提唱するポイント制度が破たんするんだぞ。学校側だってそんな簡単にばれるようなことはしないよ」
そう言って、生徒会室に向かって急いで歩いていく。
「副会長! 廊下を走ったら、HPマイナス5ポイントだろ?」
「大丈夫だよ、ほら両方のかかとが同時に廊下から離れてないだろ? これは『走った事』にならないんだよ」
「なんだよーそれ? 結局頭のいい奴は校則の隙を突くのが上手いということかよ」
◇ ◇ ◇
「この問題が分かる者は手を上げて」
先生は黒板に数学の問題を書き出してから、生徒たちの方に振りかえって答えそうな者を探す。
「はい!」
すると、教室の真ん中に座っていた女性が勢いよく手を上げる。フチなしメガネのレンズが教室のLEDの灯りに反射してキラリと光る。
「うん、それでは佐々木さん、前に出て来てこの問題を解いてください」
先生は頷きながら、放送部部長の佐々木女子に黒板に行くように促す。
……
「そうそう、良くできたね。最後の計算はちょっと考える余地はあるけど考え方は正しいよ。積極性を考慮して佐々木さんにはHP10ポイントプラスだけど、正解とは言えないからMPポイントは3ポイント少ない7ポイントのプラスかな」
先生はそう言いながら教員用のタブレットに向かって必要な値を入力する。
「他に誰か、我こそはと思う者は?」
他の生徒は、先生に指名されないように視線を下に向けていた。
「佐々木さんのように、もう少し積極的にいこうよ――」
先生は改めて教室を見渡して、少しだけ時間を置いてから腕を組んで生徒達に聞こえるように囁く。
「こまったねぇ。このままでは佐々木さん以外、消極的な授業態度ということで全員にHPマイナスのポイントをつけざるをえないな――」
「はい、先生。俺が解答します」
教室の一番後ろに座っていた背の高い男子が手を上げる。そして先生から指名された後で、ゆっくりと立ち上がって黒板に向かってのそりのそりと歩く。
「そうそう、その積極性は大事だよ。サッカー部キャプテンの田辺君」
先生は嬉しそうにその男子の肩をたたく――
◇ ◇ ◇
木曜日の昼休み、職員室の一角に置かれたテーブルの回りには数名の生徒があつまり先生から何かの資料を受け取っていた。
生徒たちのMPとHPポイントは、金曜日と土曜日に各人のラストスパートを促すために木曜日の午後に生徒達に一斉に公表する必要があった。そのため新聞部員たちは先生から受け取った資料を使って直ぐに校内新聞を作り各教室に配るのだ。
その作業を請け負う事で、先生たちの業務を支援した新聞部員たちにはHPポイントが5プラスされるのだ。生徒達はそうやってポイントを稼ぐために学校に協力する
……
構内新聞が発行されると同時に、図書館の隅や体育館の裏で生徒達の秘密の打合せも始まるのだ。
「おい、笹山。おまえこのままだと来週はBクラスからCクラスに転落だぜ。俺が金曜日にワザと遅刻してHPポイントを下げれば、お前はBクラスの維持が出来るんだけどな……俺に『誠意』を見せてくれれば、そのくらいの協力はおしまないぜ? ほら、等価交換ていうやつだよ……」
そのように、ポイント合計がボーダライン上の人間達がクラス移動にならないように、生徒同士のポイント裏トレード会議が始まっていくのだった――
◇ ◇ ◇
「部長……例のハッキング……成功しそうですよ」
そのころ、物理部の奥の部屋では、物理部パソコン班のハッキング大好き部員が小さい目を輝かせながら自分の苦労した成果を物理部部長に小声で報告していたのだつた。
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