第2話 偶然の出会い
入学式が終わった頃に学校に着いた。何とかホームルームが始まる時間には間に合ったみたいだ。まぁ遅刻したんだけど。
こっそりバレないように裏口から入ろうとしたんだけど頭に鳥の糞が降ってくるくらいの激渋な運の悪さで先生にばれて怒られてしまった。
今日は運が悪い。最近いいことがあった訳でもないのに……。人生はいい事と悪い事は結局同じ量みたいなこと言ったりするけど、それはないよね。楽しい人は楽しいだろうし、つまらない人はつまらないんだ。
だから運が悪い日なんて考えないで前向きに生活していかないとな。なんて調子に乗って考えたりする。
教室がどこか分からなかったから恥を忍んで別の先生に遅刻したことを話さなければならなかった。俺を怒ってきた先生なんかと話したくないからね。だがその質問した先生にも少し注意された。どこにでもいそうな教師にちょっと注意されたのが少しムカついた。
たまにあるよね。この人にだけは言われたくないってこと。
教室の場所が分かった俺はずっと前からいましたよと言わんばかりの顔で堂々した振る舞いで自分の席に座る。なんだかアホらしくて恥ずかしい。本当は少しのことで恥ずかしがる俺の本性出ちゃってるよ。
なんとか猫かぶってやっていきたいというのが本心だ。正直な話、みんな猫かぶってるでしょ。男子の連中もいるだろうが特に女の子に多いって偏見を持ってるんだわ。なんかごめんね。
偶に話を聞く女の子の争いってすごい黒く感じるんだよね。男の喧嘩はわりと正面からでスッキリすることもあるけど女の子の場合は何か言い難いすごさがあるよね。絶縁みたいなことも割とあるみたいだし。怖いわ。少し前に友達からその壮絶さを聞いた時は鳥肌が立って、一瞬鳥になりかけたわ。
そんなどうでもいいことを考えていると、前の席に座っていた人に話しかけられた。
「お、初めて見るな。おかしいな、全員の顔は一通り見たから分かると思うんだけどなー。さてはいなかっただろ?なんだ遅刻でもしたのか?その顔の絆創膏を見る限りケンカでもしてたんじゃないの?ハハハハ。おっと、自己紹介をしておこうか。俺は
初対面にも関わらず爽快に弾丸トークをかましてきたことに驚いた。いやー空くんコミュ力すごいな。残念なことに俺には持ち合わせがない才能だ。こういう人を見たらなんだか羨ましいな。俺もいつか話上手になる日は来るのだろうか。そのためには学校で友達をたくさん作らならければ。
残念なことに中学では多いと言える友達の数ではなかったからな。
俺は真実を伏せて彼に説明する。
「あぁ、よろしく。俺は
「パンの発酵が足りてなくて腹こわすなんてある訳ないじゃん。ハハハハ。陽向、すました顔していいボケかますのな。ま、じゃあそういうことにしときますか!これからよろしくねー」
空はそう言うと席を去ってしまった。他のクラスメイトのところに行って話をするようだ。
確かにこの時期の友達づくりは大切だ。この1年いや3年、一生の仲になるかもしれないし、たいていのグループはこの時期に形成されるものだからな。
じゃあボーっとしてる暇ないじゃん。早く友達たくさん作らないと…。ボッチライフは懲り懲りだよ。
すると突然教室の黒板側のドアが開いて先生が入ってきた。
「皆さん、着席して下さい」
俺もクラスメイトとの話を切り上げて席に着く。なかなか多くのクラスメイトと話せたと思う。俺にしては上出来だ。こんだけ知り合いができたら今後もまぁしっかりやっていけるだろう。
目指せ友達100人!友達100人てかなりハードル高いと思うんだけどね。俺には会話しただけで友達認定する度胸がないから。友達だよなとか話しかけても「え、そうなの?」みたいな反応されたら悲しいでしょ。そういうことがないように慎重にいくんだよな俺は。
みんなが席に着くと先生は話し出した。どうやらこの先生が飛屋高校1年2組の担任らしい。
岡田と名乗ったその教師は長々とくだらない話をしていた。まぁあるあるだよ。初対面の担任教師の話なんて面白い方が珍しい。
その話し方には覇気がなく、ずっと単調で平凡な俺が言うくらい無個性な教師だった。その風貌はどんくさそうでダメな感じを漂わせる男だった。
だが岡田が放った最後の一言だけが耳にスッと入ってきた。
「改めて入学おめでとう!」
入学式に参加できておらず、高校生という実感が全くなかったのだが、先生に改まって言われるとあぁ俺も高校生かなんてちょっと感慨深いものがある。
そしてほとんどは初対面だろうということで全員での自己紹介が行われた。特に変わったイベントも起こらず、ただただ普通の紹介が事務的に行われているだけだった。
かく言う俺もその1人であり、当たり障りのない自己紹介を行うだけだった。つまらないって?もっと奇抜なことしろって?それがこの先どれほど大きな影響を与えるか知らないだろう。
この1年そんな奇抜なキャラで生活することはできないのだから、もう普通でいいんだよ。それに初日から変人のレッテルは貼られたくない。
岡田の話とは違って自己紹介は割と真剣に聞いた。クラスメイトの名前くらい覚えておいて損はないだろう。むしろ下手な摩擦を生まずに済んで快適な高校生活を送る糧になるだろう。
教室を見回して、少しがっかりする。残念ながら俺のタイプの女の子はいないようだ。些細な事と思って侮ってはいけない。これは意外に重要なのだ。まぁ女の子と縁もゆかりもない人たちには関係ないことかもしれないけど、俺には関係あるんで。もう一回言わせてもらいたい。俺には関係あるんで。
1つだけ席が空いていて、1人欠席していることが分かる。あの席は女子が座る席だからな。後はあの最後の1人が俺の好みの子であることを願うしかない。
ふと、今朝助けた女の子のことを考える。俺があれだけ体を張って助けた彼女はどうしているのだろうか。学校には来れているのか。きっとどこかの教室にいるのだろうと思う。
彼女は可愛かったから是非ともお近づきになりたいものだ。何組か調べようかな、なんて考え事をしているといつの間にか全ての事が終わっていた。
岡田教諭はプリントを数枚配り、「今日は終わり」というと教室を去っていく。だが去り際に忌々しい一言を言う。
「不動君は後で職員室にくるように」
この有無を言わせない言葉に俺は為すすべがなかった。マジかよ…。
クラスメイトが「やっぱり遅刻だろー」「何やらかしたんだー」と揶揄してくる。こういう悪目立ちは嫌いだ。俺の弱い精神力では恥ずかしいと思ってしまう。
連絡先を交換するとみんな帰ってしまった。幸い今日どこかに遊びに行くなんてことはなさそうだった。俺だけ先生に呼び出されて遊びに行けないなんて悲しいし。それが孤独の始まりなんだよ。ボッチにならなくてよかったとか言ってて実はみんな裏で遊びに行ってるなんて最悪の場合もあるかもしれない…。でもそんなこと考えても仕方ない。ポジティブポジティブ!
そんな誰もいなくなった教室を出て、職員室に向かう。「はぁ」今日はなんだかため息が多い気がする。今日入学式なんですけど、少しは楽しませてもらえませんかね。朝から悪い事が続いているのですが……。
職員室に行くと岡田教諭に明日配るプリントや教科書を教室まで運ぶように言われた。
どうやらもう俺が遅刻したという話は入っているらしくその罰として雑務をさせられるようだ。
遅刻しただけでこの量の罰とかこの担任やばすぎ。誰にだってミスはあるんだからそれくらい勘弁してよ。じゃあ岡田君、君は遅刻をしないんだね。と言ってやりたいね。実際、当人を目の前にしたら何も言えないんだろうけどね。
心の中だけくらい強がらせてよ。多分俺くらいの年頃になると強がりの1つや2つあるもんだよ。逆に無い方がおかしいだろ。
高校生といえばエロガキ、妄想癖、イキリという俺の考えた三大思考があるわけでさ。この三大思考はどうにか世界無形文化遺産に登録してもらえないものかね。世界的発見だと思うんだけど。もしかしたらノーベル賞まで取っちゃうんじゃないかって発想だよ。
俺は別室に連れられていく。その部屋で目に入ったプリントの数はおそらく俺の細胞の数より多いだろう。人間の細胞は60兆だの36兆だの言われてるけどそれくらいあってもいいんじゃないかってくらいプリントの山山山!
これらを全て教室に運ぶように言われた。いや、流石にこれは頭悪すぎだろ。1人でできる量じゃない。遅刻した罰くらいならなんとか納得して受け入れてことができると思うが罰くらいならこんなに多くない。いや、これは遅刻50回目の人が受けるような罰だ。目で見たら分かる。本当にプリントの数は殺人級だ。ああこの学校、やりやがった。とうとう殺人事件でも引き起こす気か?
そんなに報道されたいんだったらもっと良い報道されるように頑張れよ。
1年生の教室は3階にあるんだそ。1階にある職員室から運ぶのがどれだけ大変だと思ってるんだよ。
岡田めー!本当にあれで教師かよ。この対応は倫理的におかしいよ。本当に人間か。宇宙人とかじゃないだろうな。宇宙人なら地球のことなんてあまり分からないだろうし、許してやらないこともないんだけどな。ちょっと岡田は無理なタイプだなぁ。
何か腹立ってきたし!
「はぁ」
今日の俺はあまりにも不憫だな。どうしちったのだろう。これはまだまだ何かありそうだな。
どれだけの時間が経ったのだろうか。ふと教室の窓から外を見るともう日が落ちかけていた。今日は昼には学校が終わってたんだぞ。これだけ黙々と運んでまだ終わらないとか本当におかしいよ。
もう1日が終わると考えたら不思議と悲しくなってくる。せっかくの入学式の日なのだから楽しいことしたかった。何かしたかった。こんなつまらない運搬作業だけで1日を終えるなんて最悪だ。でも僅かながら希望の光もある。
「あぁ、やっとだ!あと1回で全部運び終わる」
この数時間の過酷な労働はもうすぐ終わりを告げようとしていた。
最後のプリントの束を運んでいる時に立ち止まって、階段からふと廊下を見る。数時間前までは騒がしかった学校がとても静かだ。こんな空気感は普段の学校にいたんじゃあまり味わえるものではない。
木の匂いというのだろうか。学校独特の匂いがする。落ち着く。この空間がどこか心地いい。この辛い作業の中で初めて見つけた僅かな心の安らぎだ。
少しだけリラックスし、体が軽くなった俺は再び歩を進める。
階段と階段を繋ぐ踊り場にたどり着いて一息ついている時、どこか遠くから音がした。そんな気がした。
耳を澄ませてみるとはっきりと音が聞こえた。廊下を走る音だ。それもかなりのスピードで真っ直ぐこちらに向かっている。
何事かと思い顔を上げた時、1人の女の子が見えた。だがそれは遅かった。彼女は強く踏み込み、飛び上がる。階段の上からその下にいる俺に向かって…。
俺の存在に気づいておらずとんでもない勢いのまま俺に向かって近づいている。
彼女の身体能力が人間離れしているのか、とても高く飛び上がっており、滞空時間は長かった。その間に俺たちは目が合った。彼女は俺の存在に気づいたがもう手遅れだった。
綺麗な曲線を描きながら、落ちてくる。スカートが捲り上がってパンツが見え隠れしている。花柄のパンツだ。
何か隠せるやつ穿いとけよと思うが、俺的には見せてくれるならありがたい感じではある。
おっとそれどころじゃない。かなりの緊急事態なのだった。だが時すでに遅し。みるみる彼女のパンツが俺の顔に向かってやってくる。そしてぶつかる。
「ドン!」
俺は彼女に押されて、頭を打った。脳内に電撃が走り、一瞬死んだのかと思った。だが幸運なことに俺は生きている。
目を開けると辺りは暗くてあまり見えなかった。もっとよく見てみると花柄の何かが見えた。どうやら俺は彼女に押し倒されて、いやその言い方には語弊があるか。彼女とぶつかった勢いで彼女のスカートの中に頭が入りこんでしまっているようだ。
俺は無意識に鼻で大きな呼吸をしていた。いい匂いだった。
すると彼女は立ち上がり、俺の視界にも光が入ってきた。
「いってー!」
かなりの勢いで頭を打ったため頭が痛かった。これ頭蓋骨骨折してるわ。プリント運びの雑務といい、本当に骨折り損のくたびれ儲けだわ!そうでもないのか?パンツを見れたと考えれば無駄ではなかったのか……。
どうせ骨なんて折れてないけどね。
「ごめん、ごめん。前見てなかったよ。大丈夫?」彼女は言う。
「ホントしっかりしてくれよ。痛かったよ」
彼女が心配そうに顔を覗かせてきた。初めて彼女の顔を正面から見たのだがかなり整っていてかわいい顔をしていた。
「何?」
「あ、いやなんでもないよ。ただ驚いただけ(君の可愛さに)」
「大丈夫?怪我はない?」
「うん、大丈夫だよ。体は割と丈夫みたいだから」
「良かったぁ。あ!急いでるんだった。早く行かなくちゃ。もう時間がない。さっきは本当にごめんね。バイバイ。あ、どこか痛むなら保健室行ってねー」そう言って彼女は去っていった。
何だか騒がしかったな。嵐みたいに行ってしまった。一瞬の出来事すぎて頭が追いつかなかった。
「!いた!」
彼女に強がって痛くないとは言ったものの頭を打ったのだ。痛いに決まっているだろう。だが彼女に言われた通りに保健室に行くのも癪だし、家で冷やすだけでいいや。
綺麗な子のパンツ見れたってことで特別に許してやろう。
散らかったプリントを拾い集め、教室に向かった。体も心も疲れているはずなのに何故か晴れやかな気持ちになっていた。
やっとのことで仕事を終えた俺は帰路につく。
日が落ちてきていて夕方になった道を歩く。もう夕方になったことを考えると時間が過ぎるのは早いなーと思う。高校生活も体感一瞬で終わってしまうのだろうか。そんなことを考えながら交差点で信号が青に変わるのを待つ。
向かい側にどこかの学校の制服を着た女の子が見える。俺と同じようにただ立って信号が変わるのを待っている。
その時、強い風が急に吹き上げた。俺の今日1日の鬱憤を全て吹き飛ばしてくれるかのような清々しさだった。
向かい側にいる彼女のスカートが風でなびく。彼女は必死で手で押さえつけて何とか頑張っている。おそらく見えないように隠そうとしているのだろう。何がとは言わない。強いて言うならさっき見た物と答えるだろう。
見えそうで見えないことにもどかしさを感じる。お前はまだ見足りないのかとか言うなよ。目と鼻の先で見たからってもう見たくないとは思わないでしょ。見えるなら見ておきたいっていう年頃の男子なんだよ。
あーあ、どうにかその手をどかしてくれないかな、なんて考えた時だった。
彼女は頑張ってスカートを押さえつけていたのにも関わらず、急に力が抜けたように手を離した。
当然のようにスカートは風ではためいてパンツが見えた。
「あ…………」
思わず声を発してしまった。
風がおさまり、信号が青になったので通行人の群衆はみんな動き始める。俺もそれに流されて動く。
その中で考える。彼女は何故手を離したのだろうか。突然すぎて驚いたよ。どこかのテレビ番組がドッキリをしてるんじゃないかなんて思って、辺りを警戒してしまったくらい不自然だった。
何だ、もしかして俺に見て欲しかったのか。ハハハハ。そんなことあるわけないか。
どれだけ考えても何も分からないし、別に重要な事ではないと思い、いつもの生活に戻っていった。
日向における陽向の非日常 柊 吉野 @milnano
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