第20話 叢雲ーTOP GUNー ⑤
永遠の黄昏、終わらない逢魔が刻
惑星アプカルルに降り立った者は黄昏のような赤い光の世界に驚くだろう。
夜の闇も無く、昼のまばゆい光も無い、永遠の赤い世界
3つの太陽の影響でアプカルルには夜は訪れず常に黄昏のような赤い光が星を包んでいた。
リヴァーマンホテルの駐車場に2機の飛空挺が着陸すると和風の建物から現れた着物姿の女性が頭を下げて出迎える。
「ようこそ、おいでくださりました」
マシンから降りてきたドランクとブランに向かって女性は顔を上げた。
顔色が悪いが美しい顔立ちをした20代後半の女性。
180cm近い長身に葦の模様が描かれた水色の着物を纏い、髪を後ろで結わえ、そこに赤い珊瑚の簪を挿している。
落ち着いた感じの和風美女だが、魚でも触っていたのだろうか。
香水の香りに隠れているがかすかに生臭い匂いがするのをドランクとブランは見逃さなかった。
美女であるが女には表情がなくその目には輝きが無い。
微笑むわけでも無く無愛想な表情で黒い瞳がじっとこちらを向いている。
「ドランク様とブラン様ですね、大嶽様から聞かされています」
「そうだ」
「私は
リヴァーマンホテルは木造のホテルであり、2階建てで客室が10部屋ある。
ドランクとブランは大嶽が取ってくれていたという1-1号室にドランクが1-2号室にブランがそれぞれ宿泊する事になった。
「それにしても静かなホテルね」
「ぜんぜん、人が泊ってくれないので。陰気なホテルですいません」
無表情のままにボソリと瀬子はぼやく。
「いえ、ね。謝られたらこっちが困るというか」
「浴場は一階でいつでも入浴できます。天然温泉です。うん。食事は19時にお部屋にお運びします。今日はキュウリとアプカルルサーモンのカルパッチョです。うん」
ブランを無視して瀬子は続けた。
何なの、この人、調子狂うわね
ブランの額に汗が流れる。
「そういえば大嶽の旦那は?」
「大嶽さんは今日はガランデンドス教会の方へ行っておられるかと。違うかも知れませんけど。うん」
ガランデンドス教会がどこの宗教か知らないが少なくとも神道ではなさそうだ。
時々忘れそうになるが大嶽は神社の神主が本業のはずなのだ。
「どういうこと?おっちゃん、宗旨変えしたの?」
「さあな。あんまり真面目な神主とは思えねえしな・・・ん?」
ドランクは急に後ろを振り返った。
「ん、どしたん?」
「いや、別に。なんでもねえよ」
ドランクは眉をつり上げて何か引っかかるモノを感じたような顔で瀬子の後ろについて行く。
「こちらが1ー1号室と1-2号室です。うん。ごゆるりと」
瀬子は部屋の前でそう言うとそのままその場を立ち去った。
1-1号室の扉を開くと8畳ほどの広さでベッドとテレビ、冷蔵庫、丸テーブルが置かれていた殺風景な部屋である。
ドランクは締められたカーテンを指で少し開いた。
赤い日差しが薄暗い部屋に差し込む。
窓の向こうは小さな浜辺で赤い光で輝く海の波が押したり引いたりを繰り返すのが見えた。
この星にはほとんど陸地が無く、広大な海に数個の島が点在しているだけである。
ほとんどが海というのは今の地球とよく似ている。
だからあまり入植が進まなかったので誰も知らない星になったのだろう。
「本当にシケた星ね。チャンネルが一個しか無くてガンダムのファーストを延々と流しているじゃない」
テレビの番組表を見ながら丸テーブルに置いてあるお盆の中のまんじゅうを一つ摘まみ上げる。
「そいつを食うのはやめておいた方がいい」
「え、何でよ」
「ホテルに入ったときから見張られている」
「えっ!?」
ブランは小さく声を上げる。
「本当に気づかなかったのかよ。どこから見張っているのか知らんが気配だけはあちこちから感じるぜ」
「そんなのあんたの勘違いじゃ・・・」
そこでブランは沈黙する。
ドランクは五感の感覚が異常に優れている。
それは地球育ちだからなのか、ハイドラ機関で強化されたせいなのかはブランにはわからない。
そんな彼が見られているという気配を感じたらまず、間違いないだろう、ゆえにブランは黙るしか無かった。
「もしかしておっちゃんが居ないのはそれと関係があるの?」
「それはわからんが、明日でも一度この町と教会とやらを調べた方が良さそうだな」
ドランクの腹の虫がなった。
目の前にはキラキラ輝くサーモンのカルパッチョとキュウリ、わかめの味噌汁、キュウリと昆布のサラダが並んでいる。
「いただきまーす」
ブランはサーモンのカルパッチョを箸でつまんで口に入れた。
「うん、おいしい。なんでイタリア料理ってこんなにおいしいのかしら」
「・・・・・・」
「キュウリが主食っていうのは訳わかんないけど、結構、いけてるわよ。ここのご飯」
「・・・おい」
ドランクは半眼で旨そうに料理を食べるブランを睨み付ける。
「なに?」
ブランは首を傾げた。
「俺はさっき、見張られているって言ったよな」
「お言葉ですけどね。イコール食事になんかされるっていう根拠は無いじゃない」
ずずーっと味噌汁をすする。
わかめの他にキュウリが入っているのは気に入らないが味噌汁は昆布だしが利いていてうまい。
「それはそうだが」
「だいたいね。ここに来たばかりのあたし達を狙ってどうすんのよ。お金もそんなに持っていないのにさ」
ごちそうさま!ブランは手を胸の前で合わせる。
「ほら、あんたも食べなさいよ。おいしいわよ」
「男がなあ、いったん食わないと言ったものを曲げて食うわけにはいかんだろ!」
「ふーん、あんたって本当に素直じゃ無いわね」
ブランは呆れたように言うとドランクの前にあるカルパッチョの皿を自分の前に運ぶ。
「じゃあ、あたしがあんたの分も食べちゃお!」
「な・・・!?」
ドランクは悲鳴のような声を上げかけた。
ブランはそれを見てニヤリと意地悪な笑みを受けべる。
「何? 文句あんの? あー、やっぱり、このサーモンとソース、相性がばっちり! ルパンと次元、ルフィとゾロ並の味のベストマッチを感じるわ! あー、おいしぃー!」
ドランクに見せつけるようにカルパッチョを平らげてゆく。
「ちっ」
ドランクは不機嫌そうに舌打ちをすると立ち上がる。
「あら、どこいくの?」
「コンビニだよ!」
「そう、いってらっしゃい」
ブランは味噌汁を啜りながら手を振った。
3D映像でできた猫の看板が店の前で手招きをしている。
こんな田舎の星にコンビニがあるかどうかも不安だったが、さすがは宇宙の至る所にチェーン展開を行うと豪語するコンビニ『ベック・ON』は存在していた。
看板のいまいち可愛くない招き猫のマスコットはどこの星でみても馬鹿にしたような笑顔でこちらに向かって殴りかかるように手を招いている。
コンビニに入ると自分の他に2人の背が高い若い男の客が週刊誌を立ち読みしていた。
そばを通ると魚を触ったような生臭い匂いがした。
瀬子と同じ匂い
この星は海しか無いから漁師や漁業関係者も多いだろうし、彼らもそうなんだろうか
彼らはこちらに興味が無いように週刊誌のマンガに夢中だ。
顔も無表情でまるで死んだ魚のようにその瞳には光が無い、これもあの女将の顔とよく似ている。
あの女の兄弟かなんかか?
そんな事を思いながらドランクはカゴに唐揚げ弁当とパックの黄桜、ツナマヨのおにぎりをいれるとレジに歩いて行った。
レジには眼鏡を掛けた20歳そこそこの若い男が立っていた。
血色はよく表情は眉をしかめて楽しそうでは無い表情が垣間見える。
どう言ったらいいかわからないが顔から感情が読み取れる事が瀬子達とは何かが違うということがわかるのだ。
「あんた、もしかしたらこの星の外からきたのか?」
財布から紙幣を出しながら店員に話しかけると彼は驚いた顔をしてドランクの顔を見つめる。
こっちへ、店員はドランクの手を引っ張ってコンビニの外へと連れて行く。
未精算の商品をレジに置いたままという慌てた様子だ。
「あなたもこの星の外から来たんですか?」
「そうだが」
「なんでまた、こんな星に」
「人を探しに来たんだよ。サングラスを掛けた髭面の男なんだが」
「大嶽さんの事ですか?
「おお、知ってんのか」
「あの人は俺の止めるのを聞かずに奴らの本拠の教会に行ってそのまま奴らと仲良くしているそうです。可愛そうに、きっと洗脳されたんでしょう」
「奴らっていうのはコンビニの中の客みたいな生臭いやつらの事かい?何者なんだ」
「わかりません。ですがこの星の、いえ、島の北区の人間は何かが変なんですよ」
この若者は金星出身で今年大学を卒業してベック・ONに就職。
そのまま会社の方針でアプカルルのチェーン店に配属されたが、町の住人は無愛想で光を放たない目をしており総じて魚のような生臭い匂いがした。
大人しい住人も多いのだが、北区の中心に存在する教会のそばにいる連中は外から来た者や南区の住人に敵意を持つ者も多く、何か邪悪な者を祀り上げる怪しげな集会を行っているという噂だ。
この町を訪れて行方不明になる者は一人や二人ではないし、行方不明者の捜査に来ていた警察官も教会に関わった後に行方不明に無った事もある。
大嶽とはドランクと同じように彼が煙草を買いに店を訪れた時に知り合ったらしい。
今、ドランクがした話を聞いた途端、何か好奇心に惹かれたのか教会を訪れたいと言ったらしい。
危険だと止めたが、3日前、大嶽は教会に行ってそのまま帰らなかった。
だが伝え聞く話だと大嶽は教会のいかがわしい幹部達と仲良くなりそのまま逗留しているそうだ。
意図まではわからないが、そういうところもまた、大嶽らしいとドランクは思った。
「この町に来て以来、あの瞬きをしない光の無い瞳で常に見られている感じがするんです」
自分はけして人種差別主義者では無い、大学でも異星人の留学生とも友達になれた。
だけどここの町の人々は何故か受け入れられないような不気味さ、異質さがあるんです。
もうこんな仕事辞めたい。辞めて両親が居る金星に帰りたい
若者は青ざめた顔を小刻みに振わせながら言った
山手に面した南区の方は海辺の北区よりも後に入植してきた人々の町という事で世間一般の普通の人間が多く住んでおり、北区にあまり近づかないほうがいい、仕事は辞めて故郷に帰った方がいいと南区で知り合った人々には会う度に警告を受けた。
「ここだけの話なんですが」
彼は真剣な話で小声でドランクに囁いた。
「南区には今、太陽系連邦の役人が来ているんです。僕も呼ばれていて明日行くつもりなんですが、噂じゃあ軍が今この星の回りに陣取っていて総攻撃の準備をしているとか・・・」
「おい」
ドランクは彼の口を手でふさぐ。
口元をふさがれながら彼は気づいた。
店から出てきたあの二人組が無表情でこちらに死んだ魚の目を向けているのだ。
片方の男はジャンパーのポケットに手を突っ込んでいるがあれは小型拳銃を隠し持っている。
彼らは明らかにこちらを監視している。
どうやら思ったよりとんでもねえところに来ちまったようだな。
ドランクは店員から身を離すと何食わぬ顔でシガーレットケースとライターをポケットから取り出した。
喜べ、男子諸君!サービスシーンってヤツよ。
脱衣所であたしは着ていた白いキャミソールワンピースを脱いで無造作にかごに入れる。
姿鏡があるのに気づき黒いショーツを一枚身につけた自分の姿を映し見る。
左手を腰に手を当てて右手で長い髪を書き上げるようなセクシーポーズを取ると鏡の中の絶世の美少女・・・なんか文句あるの?もポーズを取る。
少々小柄だがくびれのあるスレンダーなボディ。
瑞々しい白桃のようなヒップ、ムチッとしたふともも
透き通るように色白、肌には当然シミの一つも無い。
金星のような金色の瞳がこちらを上目遣いで見てくる。
あたしはよく人から黙っていれば美少女と大変ど失礼な事を言われるが、本当に一言多いが自分でも美少女だと思う。
しかも、人間と違って加齢による劣化は無い、永遠の15歳だ
そんな美少女は控えめに言って宇宙の宝では無いか、間違いなく。
それにしても
あたしは控えめな胸を触った。
胸が無い・・・
もっと胸があればなあ、歳をとらないって事は胸も大きくならないって事なのかしらね
あいつらはすぐに胸が無いとか、色気が無いとか悪口いうし。
まあ、あいつらに褒められたって意味ないし、嬉しか無いけど。
あたしは海の底のような深い深いため息をつく
ショーツを脱ぐとくしゃくしゃに丸めて脱衣かごに突っ込み浴場へと向かう。
そう、確かこの宿の風呂は天然温泉の露天風呂だった。
ドランクったらお風呂も入らないとか言いそうだけど、不潔だから勘弁して欲しいわね
鼻をつく硫黄の匂いが鼻孔をくすぐる。
赤い空にもくもくと湯船から湯煙が上がっていた。
湯煙の中にあたしの他に先客がいた。
長い黒い髪、モデルのようなほっそりとした長身、そして背中には青く輝く魚のような鱗が生えていた。
「えっ?」
あたしは目をこすった。
もう一度見ると背中の鱗は消えており、水に濡れて艶めかしい白雪の柔肌が目に映る。
「・・・・・・失礼、お客様」
瀬子さんと言ったっけは頭を下げた。
光の無い瞳をしているが整った顔立ちのアジア系の美女だ。
胸もあたしとちがってそこそこ豊かだし、谷間あるじゃん。
「ちっ!」
あたしは拳を握りしめて舌打ちをする。
「どうかしました?」
ぼやくような低い声で尋ねてくる。
「いえ、なんでも無いわ」
「そうですか。うん」
そう言うと瀬子はお湯に再び浸かる。
あたしもタライでお湯を体に掛けると湯船に浸かる。
「瀬子さんはお一人でここを切り盛りしているの?」
「旦那さんがいるけど、体調が悪く休んでいるのです。うん」
「へえ、結婚しているんだ。どんな人?」
「うん、普通に優しくて賢い人だと思います」
眉毛一つ動かさない、表情を変えずに彼女は言う。
仲がいいんだか悪いんだかわかんないわね、こりゃ
「あ、そうそう、大嶽のおっちゃんは何で教会に行ったのかしら?」
「さあ」
「なんか言ってなかった?」
「さあ」
「寿司をあたし達にごちそうしてくれるとか?」
「さあ」
はあ、あたしはため息をついた。
彼女は悪い奴じゃないんだけど、無表情で基本的に無口、会話のキャッチボールが一方通行になってしまう。
「大嶽さんはオーベッド=リヴァーマン船長とマシュウ=ガウール副船長に気に入られているからきっと、あの件で教会に呼ばれたんだと思う。もうすぐだから」
「誰よそれ。もうすぐって何よ」
「あ、そういえば、布団干しっぱなしだった」
瀬子はあたしの言葉を無視して湯船から立ち上がるとそのまま出て行った。
一人残されたあたしは、大きな露天風呂で一人、口まで湯船につけてぶくぶくと泡をたてる。
「へんなヤツ、なんなのよもう」
それにしてもさっきの青い鱗はなんだったのよ?あたしの見間違いだっての?
「あら」
あたしは湯船の底に揺らめきながら光る何かを見つけた。
拾い上げるとそれは青い鱗だった。
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