第10話 美少女の意外な欠点
BGMが大音量で鳴り響く。そして誰かしらの歌声が
「いらっしゃいませ!」
そう、俺は今カラオケに来ている。何故そうなったかって?
何故か分からないが矢吹、伊織、田代が友達になった記念で俺も無理矢理連れて越されたわけだ。
「四名様でよろしいでしょうか?」
「四名でーす」
「コースはどれになさいますか?」
「フリーでお願いします!」
店員と伊織がスムーズに会話を進めている。流石陽キャとしか言いようがなかった。
俺たちは店員に言われた通り学生証を提示して一人たったの五百円で歌い放題になった。ワンコインで歌い放題とかどれだけ太っ腹なんだよ。おまけにドリンク飲み放題って最高じゃね?
ちなみに俺は誰かとカラオケに来るのは初めてだ。伊織とでさえ一緒に来たことはなかった。俺はいつも近所のカラオケ屋さんに当たり前の様に一人で行っていた。
一人カラオケは最高だ。何故なら人目を気にせず自分の歌いたい歌を自分が歌いたいように歌うことが出来るからだ。人間、誰かと行くとどうしても遠慮してしまう傾向があるため自分の歌いたい歌を全て歌うことは不可能なのだ。特にアニソンやボカロ等は代表格だ。そして俺は両方とも歌う。だから遠慮なく歌える一人カラオケを好んでいる。
それにしても安い。行きつけのカラオケはフリーで八百円だ。学生には高い。
俺たちはドリンクを注ぎ、指定された部屋へと向かった。
「これよこれ!これこそ『青春』って感じだよー!」
「間違いない!やっぱり高校生と言ったらカラオケに限るだろ!」
ダメだ。伊織と田代のテンションについていけない。
「いいですね!テンションが上がります!」
矢吹!?こいつら二人のテンションに普通についていけてるのか!?
流石の順応力だな。これが学校一の美少女なのか。完璧すぎろだろ。
「盛り上がって行こうぜ翔!今日は俺たちが友達になった記念日だぞ!そんなしけた面してないで、もっと楽しもうぜ!」
「ふん!仕方ないから今日は一緒に楽しんであげるわよ。ぼっち!」
なんなんだこの二人は。それほど矢吹と友達になれたことが嬉しいのか?
「分かったよ、楽しませてもらう。ただし!俺はそんなはちゃけたりしないからな?」
「も~、翔のツンデレ屋さん」
とことんムカつく野郎だな、伊織。
「阿良田さん、今日は楽しみましょう!脱ぼっちができるいい機会です!楽しまないと私が許しませんよ」
別に俺は脱ぼっちだなんて
カラオケは予想通り大盛り上がりだ。思わず俺も満喫していた。
伊織は大人気アイドルグループの歌を、田代は性格とは裏腹に綺麗な歌声で大人気ソロシンガーの歌等を熱唱していた。矢吹も心底楽しそうに笑っているためご満悦の様だ。
「お!次はいよいよ矢吹さんか~」
「琴ちゃんの歌声楽しみ!あー!もうマイク持ってるだけなのに可愛い~」
伊織も田代も矢吹の歌声をかなり期待しているようだ。田代なんかメロメロ状態だ。実を言うと、俺も矢吹の歌声を聞くのは楽しみだ。天使の声等と勝手に妄想を広げている。
「そんなに期待されるとなんだか恥ずかしいです。けど、私も全力で歌わせていただきます!」
矢吹はコップに入ったお茶を一口飲み、咳払いをして喉の調子を整える。この流れから見てプロだ。流石は矢吹琴葉。期待値が膨れ上がる一方だ。
曲は最近アニメが実写化された映画の今話題のグループが歌う曲だ。選曲も素晴らしい。
俺たち三人は耳を澄ませて、矢吹をじーっと見つめている。
前奏に揺られて楽しみが増す。胸騒ぎがするが、これはきっと矢吹の歌に心打たれるぞとの合図だろう。
そしていよいよ歌詞が始まる。
「きみぃのぉ~優しさぁとぉ~」
……ん!?
俺たちは耳を疑った。矢吹の歌声は確かに印象深いモノだった。
そう、矢吹琴葉は……『音痴』だった!
しっかりと最後まで歌い終えた矢吹はとても清々しい表情を浮かべていた。
「ふぅー。気持ちよく歌えました!最近この曲にハマって一日に二十回は聴いてるんですよね~」
一日にそんだけ聞いて今の音痴か!?
「矢吹さん……最高だったよ!!かなり印象深いカラオケだった!」
「琴ちゃん、意外と音痴なんだね。あはは。歌ってる時の琴ちゃんも可愛かったよ!」
「えぇぇ!?私、音痴でしたか!?阿良田さん、私、音痴でしたか!?」
「すまん。音痴だったぞ」
すると矢吹は茹でられたのかと思うくらいに顔を真っ赤に染めていた。こんなに顔を真っ赤にして恥ずかしがっている矢吹を見たのはこれが初めてだ。
「皆さんの期待に応えられなかった……」
「んなことないよ!むしろ琴ちゃんの意外な姿を見れてもっと好きになっちゃった!」
田代が目を輝かせながら矢吹に愛を証明する。
「完璧な美少女にもこんな可愛らしい欠点があったとはね~。矢吹さん、最高だよ!」
伊織は親指を立ててグッチョブと矢吹に見せる。
「いいんじゃないか。誰にでも欠点はあるものだ。矢吹のそういう所が皆に慕われる理由の一つなのかもな」
俺も矢吹に一言申すと、矢吹は真っ赤に染めていた顔を向けて天使の様な笑みを浮かべた。
「皆さんと友達になれて良かったです。これからもよろしくね!」
この時、俺たち四人は確実に矢吹の虜になっていた。
それにしても大食いに音痴……意外な矢吹の姿が見えてくるな。
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