第1話「目が醒めるとそこは」

気が付くと、ここにいた。


「…………」


 空が見える。青く澄み渡った、雲一つない快晴の空が。視界に入ってくるのはそれだけだった。

 そこでようやく、自分が硬いアスファルトでできた道路のど真ん中で仰向けになっていることに気づく。どうやら眠ってしまっていたらしい。


「ここはどこだ……?」


 覚醒しない意識の中、ゆっくりと体を起こしながら思考するが…何も思い出せない。今がいつで、ここがどこで、すらも。


 寝ぼけ眼のまま周囲をぐるりと見渡すと、辺りはビルで囲まれている。どうやらここは市街地らしい。


「…思い出せない」


 ひどい頭痛がする。何かで頭部を殴打でもされたかのような、傷が疼くような感覚が、冴えない思考をさらに鈍らせる。


「俺は一体……」


 ゆっくりと瞬きをして、冴えない頭で周囲の状況を把握する。自分が幹線道路のど真ん中にいることは確認できたので、せめて走行してくる自動車にはねられないよう移動する必要がある。


 ズキズキと疼く頭部を抑えながら、ゆっくりとその場に立ち上がるが、激しい立ち眩みで倒れそうになる。治まるのを待ち、ゆっくりと目を開ける。そして、異変に気付いたのはその時だった。



 市街地だというのに、耳を澄ましても物音一つ聞こえない。聴力を失ったのではないかと錯覚するほどの静寂が、あたりを包み込んでいる。そして、違和感の正体はそれだけではなかった。


(車どころか……?)


 人の気配さえ全く感じることができず、聞こえるのは時折吹きつける風の音程度である。まるで世界に自分一人だけ残されたような、そんな感覚に包まれる。


 そこで初めて、ここがでることを悟った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る