エーレンリード・フラワー

@langage

プロローグ

「振り向くなッ!!」


 前を走る少女が言葉も選ばず、怒気混じりの声でそう叫ぶ。その一喝で、背後に行きかけた意識が少女の背中に戻る。

 今はただ、全力で走っている。静寂に支配されたビル群を縫うように、前方を疾駆する少女の背中だけをとらえて。その行方を見失わないことだけを考えて。


 もう、どれくらいの距離を駆けただろうか。足が重い。肺が痛い。今すぐにでも止まってしまいたい。しかし……『自分の中の何か』が、それを許さない。

 そう。理解しているのだ。ここで止まるということが意味するのか。


 背後に気配を感じる。後方に、何かが『いる』。

 少しずつ、だが確実に……その距離を詰めてきているのが分かる。


「来るよッ!!!」


 彼女の警告と同時、背後から爆発音が轟き、砂煙が巻き上がる。


―――そして。


 壊すためつくられた―――。

 鋼鉄の塊が、無機質な咆哮と共に砂塵の中から姿を現した。

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