第2話
あれから3週間が過ぎた。
「輝光、テストはどうだったの?」
学校が終わり帰宅した。家でお菓子を漁っていると、母から声をかけられた。
先週は3年1学期全国共通テストが実施された。今日はその採点された答案を持ち帰っている。
今までの僕の成績は中のトップクラス。
僕はすかした顔でカバンを開ける。今日返却された数学と英語の答案を母に渡した。
「まあ!100点!」
あんた頑張ってるのねえと、母が涙ぐむ。こうなることはわかっていたけど、僕も嬉しい。頑張った甲斐があった。
「何か欲しいものはない?」
「ないよ」
――欲しいものは手に入った。
全国共通テストに、僕は未来ノートをフル活用したのだ。
このノートに書いた内容は、未来に起こることのない事象を書いたら、削除される。 未来に起こる事象を書いたら、消えない。至ってシンプルな不思議アイテムだ。
僕はこのノートを使って、完璧なヤマを張った。
――来週の全国共通テストに出題される問題は下記の通りである。
と、書いたのち……
数学演習 I の下記頁の公式。
13頁。
14頁。
16頁。
17頁。
21頁。
こうして試験に出る公式を明確に絞った。それから演習問題に出題された問題を応用したものはあるかと絞る。
数学は割と簡単だ。
大変なのは英語だった。英語の単語帳の英単語を1から6000まで書きなぐる。
――試験に出題される英単語は下記の通りである。
その文言を書いたあと、各行ごとに英単語を片っ端から書き連ねた。出題されない単語の行は、書いたそばから削除される。残った単語は必ず試験に、出る!
消しゴムいらず。あの猫型ロボットの暗記パンと比べても効率がいい。
地道な作業だが、結果を裏切らない努力はやる気もわいた。
――ふ、ふふふ。
「気に入ってるようだな」
「――! だ、誰だ!」
突然、僕の背後に何者かが現れた!
◇
「俺は死に神リウル」
唐突に現れた不法侵入者は自らを神と名乗った。
“俺”などと言っているが、容姿はかわいい系の女子で、歳は僕と同じ頃に見える。黒いボロな外套を纏っている。それだけならば、普通に怖いだけで済んだのだが、足がない。平然と宙に浮いていた。
「死神! 僕を殺しに来たのか!?」
「違う。俺は生命の死を司る死神ではなく、死んで神になった死に神だ。人の生死に関与はしない」
――それはただの神じゃないのか?
死に神リウルは、そんな僕のツッコミを無視して、未来ノートを開いた。
「それにしても、よくこんなに書いたもんだな」
「や、やめろ! 見るなーッ!」
そこには、先週の全国共通テストヤマ張りの記録など、もう残っちゃいない。
そこにあるのは、僕が称賛されるであろう未来。今日だ。
きっと100点を取って、クラスの反応はこうなる。先生は僕を褒めそやすに違いない。テストを見た母は涙ぐむんじゃないの? そんなことを、自分で、書いていた。
――うわ……
死に神リウルの蔑んだ目。
僕は、死んだ。
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