第15話 サービスシーン?

 服を脱いですることといえばなんだろう。


 そう、入浴である。


「生き返るわねぇ……」


 アリシアはたっぷりのお湯が張られた湯船に体を沈めて、はふぅと息を吐いた。


 うーん、色っぽい。ただちょっと起伏にとぼしいというか、背も高くて手足も長いアリシアなのだけど、胸の空気抵抗に乏しかった。


「ミナリー、あんた今失礼なこと考えてなかった?」


「ううん。アリシアってスタイルいいし肌も綺麗でうらやましいなーって思ってただけだよ?」


「そ、そう? あ、ありがと……」


 褒められて素直に嬉しいのか、アリシアは頬を赤くしてぶくぶくと水面に泡を浮かべる。


 可愛いなぁ、アリシア。


「ミナリーさん。よそ見していないで早くしてください」


 そう言うのは、わたしの前にちょこんと座って頭にシャンプーハットをかぶったアンナちゃんだった。鏡越しにジトっとした視線をわたしへ向けている。


「あんた、一人で髪も洗えないわけ?」


「泡が目に入ると危険です。失明するかもしれません」


「大げさだなぁ……」


 アンナちゃんに髪に触れるととてもサラサラで、手入れはしっかりと行き届いていた。きっと、これまでアンナちゃんの面倒を見ていた人が頑張ったんだろう。


 それを思うと、わたしも手を抜くわけにはいかない。


 やるからには徹底的に、丁寧に髪を洗っていく。


「手慣れてるわね、ミナリー」


「うん。昨日までナルカちゃんの髪を洗ってあげてたからね」


「妹さんですか?」


「へー、ミナリーって妹がいるのね」


「うん。まあ、そんな感じかな」


 正確には妹じゃなくて、義妹でもないのだけど


 わたしはあくまで、ロードランド家に住み込みで働かせてもらっている身。便宜上ロードランド姓を名乗っているけど、養子として迎え入れられたわけじゃない。


 だから、こういうときにどう説明していいか少しだけ困ってしまう。


 ナルカちゃんが生まれる少し前。住み込みで働き始めた頃に、一度だけクレアさんを「お母さん」と呼んでしまったことがあった。


 その時のクレアさんは何とも言えない……悲しそうで、気まずそうな顔をした。その表情は今でも頭の中に残っていて、この手の話題はちょっと苦手だ。


「いいなぁ。ミナリー、次あたしねっ!」


「えーっ? アリシアはさっき自分で洗ってたでしょー。また今度ね」


「むぅー。じゃあ明日よ! 約束だからね、ミナリー」


「はいはい」


 ……あれ? 明日も一緒にお風呂入ることになるのかな。


 まあ、いいや。これはこれで楽しいし。


 それからしばらく入浴を楽しんで、日暮れまでリビングで火照った体を涼ませて過ごした。


 さすがにお風呂を上がればわたしとアリシアは制服に着替えて、アンナちゃんにも大きめのシャツを羽織らせた。女同士とはいえ、裸体が常に視界に入る生活は目に毒だ。


「ねえミナリー、今日泊って行っていいかしら」


 アリシアが二段ベッドの下の階に上半身だけ寝転がって足をぶらぶらさせながら言う。


 わたしはソファにのんびりと背中を預けながら答える。


「アンナちゃんがいいならいいよー」


「私は別に構いませんが」


「よしっ、決まりね! そろそろお腹も空いてきたし、食堂行きましょっ!」


 すっかり外も暗くなって夕食の時間帯になった。食堂は寮の一階にあって、学園の生徒なら誰でも無料でご飯が食べられるそうだ。


 衣食住完備で学費は無料。毎月一定のお金まで支給される。さすが王立魔術学園。

 アンナちゃんを制服に着替えさせて、わたしたちは食堂へ向かった。


 広々としたスペースにいくつものテーブルが並んでいて、既に大勢の生徒で埋まっていた。幸い、四人掛け席が一つ空いていたのでそこに腰を落ち着ける。


 食事はバイキング形式。サラダからお肉、魚介類など見たことのないような料理がたくさん並んでいる。


「すごい、これ全部食べ放題⁉」


「へぇー、なかなかの品ぞろえね。王国中の料理を再現しているのかしら」


「アラルカの料理もあります」


 す、すごい。どれを食べようか迷っちゃうよぉ……。


 三人でかわりばんこに席を立って、料理をトレーに乗せていく。


 美味しそうな料理を片っ端からお皿に盛っていたら、気づけばこんもりとトレーの上に山が出来上がっていた。うーん、これ以上はちょっと乗せられなさそう。


 いったんテーブルに戻ると、アリシアに「うわぁ……」とドン引きされた。


「あんた、どんだけお皿に盛ってきたのよ。怒られても知らないわよ?」


「えっ? こんなに取ってきちゃ不味かったかな……? 二回目はちょっと量を減らして取ってくるよ」


「いや、もう一回行くつもりかい。見た目によらず大食漢なのね……」


「そうかな? アリシアが少なすぎるんだよ」


 見ればアリシアの目の前には、コーンのスープとサラダ、鶏肉のソテーとパンしかない。


 それだけで夜中にお腹空かないのかなぁ……。


「周りを見てみなさいよ。そんなに食べてるのあんただけだから」


「ほんとだ。みんな小食なんだね」


「あんたねぇ……」


 アリシアは額に手を当ててため息を吐いた。どうしたんだろう。


 トレーに乗せてきた料理を一通り食べ終えて、次は魚介系を攻めようかなぁと席を立とうとしたその時、誰かがわたしたちの方へ歩いてきた。


「ごきげんよう、アリシア・バルキュリエさん」


 両手でスカートをつまみあげ、その女子生徒はアリシアに向かって優雅に一礼する。


 今の、すごくお嬢様っぽかった。貴族のご令嬢かなぁ。


 見れば、胸元のリボンがわたしたちと同じ赤色。学園の女子生徒は胸元のリボンで学年がわかるようになっていて、わたしたち一年生は赤色。二年生は青色。三年生は緑色になっている。


 同じ新入生の子のようだ。

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