第12話 遠い光
遠い光
「彼女は一度死んでるんだ。」驚いた顔をしている綾佳に
「前の心臓の手術の時に、心停止して医者からシャジを投げられたんだ。その時に、あの世か天国か知らないけど、僕に逢ったんだって。当然僕は知らない事だけど。あの世に行った覚えも、現実世界で、そのころ由香に逢ったことさえも無かったから。」薫は、デザートのプリンを食べながら言った。
「彼女はその夢だか、お告げだかを覚えていたわけね。」
「うん、かなり明確にね、なぜなら、今後いつ何処で僕と出会うかも分かっていたらしく、出会った後の指示もあったらしい。その辺はあまり詳しく話してくれないけどね。」
「始めのころは、変な奴、て思って見過ごしてたけど、女の子に付けまわされる覚えないしね。そのころ付き合っていた女子も居なかったもんで、大学に入ったら、そこに由香がいて、演劇サークルに入ればそこにも由香がいるし、流石に変だなと思って、こっちから接触してみたら、とんでもない電波話をしてくるからさ。そりゃー、超常現象やSF話は嫌いじゃないけど。俄かには信じられない話でしょう。」
「確かに、そうね。」
「それで、まあ暫く様子を見ようと思って放っておいたんだ。そしたら、いつの間にか完全になつかれてしまったわけなんだな。」
「まあ、薫ちゃんもまんざらでも無かったわけか、あんなに可愛い子なら。」
「まあ、そう言うことにしておきましょうか。」
「それで、あの子とは何処までの関係なの?」
「それは、母さんにも聞かれたけど、何だが妹みたいで、でも風呂にはよく一緒に入るよ、向こうの家族も一緒だけどね。」
「へ…」
「心臓が悪いんで、基本的に一人で風呂に入れないんだ。誰かが付き添う事になる訳さ。大体は向こうのお母さんか、メイドさんかな。でも、二人で旅行に行ったときは僕がその役目を果たすことになるわけ。」
「それでも、その気に成ら無いの?」
「成ら無い訳じゃないけど、多分その時がくればそう成るんだろうて事が分かってるみたいなんだ。だから、まったく警戒してないんで逆にその事が一寸不気味で、その気になれないのかな。」薫の言葉に、
「随分と贅沢な悩み事を聞かされてる見たいね。まったく!」綾佳が言った。
そんな二人の会話が終わった直後に、綾佳と薫の携帯にほぼ同時に呼び出し音が鳴った。
綾佳は、昨日テーマパークで別れた友達からで、薫には、由香からだった。
「ああ、ご免、由香の携帯からなんだ。」それは、喋り方から由紀の声だった。
「由香が逢いたいから、こっちに来て欲しいて、実を言うと、由香、検査疲れでダウンしてるのよ。昨日は、本当は由香の代理で行ったつもりだったんだけど、一寸趣向を凝らそうかと思って由香の真似してみてたの。」電話越しに由紀のほぼ一方的な申し出に、薫と綾佳がそれぞれの顔を見ながら、
「それじゃー、お互いに用事が出来たみたいだから、此から別行動かな。」
「うん、僕は由香の所に行くけど。綾ねいさんは?」
「うん、私は、昨日の友達が近くに来るって言うから、待ち合わせて、昨日のお喋りの続きでもしようかな。」
店を出た二人は、まだ幾分朝の香りを含んだ空気が残っていた並木通りを後にして、目的の方向へ歩き出した。暫く歩くと
「あああ!」
綾佳が待ち合わせていた女友達と、薫と由香と由紀の三人が一斉に同じ愕き様を示した。
「あの時の女医さん!」薫の一声に
「ほう、あの時のカップルさん。綾佳のハンサムな従兄弟って君の事なんだ。」
その二つのグループの中で由紀と綾佳だけが、ポカリとした顔で、この光景を眺めていた。綾佳の連れは、以前に地下通路で声を掛けてきた女医、芳山弥生であった。
取り残された二人のうち、最初に声を出したのは綾佳だった。
「何で、由香ちゃんが二人居るの?」その答えを出したのは由紀だった。
「私は、由紀、由香とは双子で、妹になります。」
「ええ、じゃー昨日の子は?」
「御免なさい、私、由紀の方です。一寸薫君を騙そうと思ってお芝居してました。」
「で、こちらが由香さん。」
「はい、薫がいつも迷惑をお掛けしているようで、綾佳さまには何れご挨拶をと思っておりました。」
「はあ、迷惑て事は無いけど、どうせ身内だから…」
由紀と由香の対象的な対応に、綾佳は少し面食らいながら
「じゃー、弥生とは、どちらが知り合いになるの?」
「ああ、それは」と言いかけた薫を制して、弥生は
「一寸まって!」そう言うと、二人の手を握り脈を取り出した。
「分かったわ、こちらが由香ちゃんね。」
「ふーん、そう言う識別方法もあるか。」薫が感心した様に言った。
実際、この鉢合わせの少し前にも、西園寺家に出向いた薫は、双子を相手に四苦八苦していたのだった。
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