武器屋、背中を押す

 武器屋から猛者たちが出て行く。鎧をがちゃつかせ、おしゃべりする彼らの顔は笑顔だ。鎧を、新調し、ご機嫌な戦士、帽子を買い替えた魔法使い。皆笑顔だ。そこの武器屋のマスターは彼はよ背中に向かってさけぶような大声で言い放った。


「ありがとうございました!この街をよろしくお願いします」


 扉が閉まるとココははたきを取り出し、店の棚を叩き始めた。しばらく掃除していないところなので埃が舞い、ココが咳き込んだ。危うく棚に並んだ盾や鎧を倒してしまうところだった。


 この店には剣やナイフ、ガントレットなど攻撃する武器の類はなかった。代わりに盾や鎧が並んでいる。


 これがココの遁走の末にたどり着いた考えだった。守るためには傷つける覚悟は必要で武器が必要。それと彼女も街を守る人の背中は押したい。


 これらの2つの考えを合わせた結果、棚には頑強という言葉が鎧の形をした代物や、剣のテスターに貸し出した時剣を砕いた盾が並んでいる。つまり防御武器専門店になったのだ。


 先代にこの旨を伝えたときは目を丸くして驚いていたが、すぐに了承した。彼はこの店はもうココのものだ、そう言った。


 しばらくして掃除を終えて、お客さんが途切れた隙間を狙ってココは魔法の教科書を開いた。最近ハマってしまった魔法の勉強、これで武器屋をもっと盛り上げようとしているのだ。


 しかしその集中を途切れさせるのはお客さんだ。もちろん嬉しいがもう少し読んでいたかった、そう感じながらカウンターまで出て行ってお客さんの前に姿をココは見せた。


「まぁいらっしゃい。騎士団No.1さん?」


「こんな時までやめてくれココ」


 カゲトは2年前の鋼の団の襲撃の戦果により騎士団長に抜擢された。代わりにシルダは自ら顧問となった。そもそもカゲトの騎士団長就任はシルダの推薦である。



「ふふふ、カゲトは元気そうでよかった。でもいいの?首都からこの街まで相当遠いよ?」


「いいんだココに会えるからな」


 さらりと爆弾発言をしながらカゲトは並ぶ盾や鎧に目を通して行く。かたやココは口を真一文字に結んで俯いていた。カゲトの呼びかけまで顔を上げられなかった。


「この盾はどんなもの?」


「そ、それは盾だよ。う、うん、それはわかるか。すごい硬い、でも軽いでしょ?」


 カゲトが見ていたのは手に取り付ける盾だ。軽く、手から外れてしまっても自動で戻ってくるように魔法をかけてみたものである。


 ココが機能の説明をするとカゲトは即決で買う、と伝えた。


「い、いいの?No.1なんだよ?カゲト」


「ココの武器なら信用できるさ。あの遁走劇でよくわかった。君の武器を受け取った人……カケアシヅメもいたけどみんな笑顔だったろ?」


「そ、それはそうだけど……」


 カゲトは20万ゴールドを懐から取り出した。


「そういや……最近調子はどうなんだ?2年の間に色々……」


「そうね。私が2代目になって……カゲドが騎士団長になって……コナユキよく遊びにくるよ」


 吹雪竜のコナユキはたまに屋根の上に休みに来る。店が歪むような音を立てるのでココはそれにすぐ気づいて外に出てコミュニケーションを取るのが慣習となっていた。カゲトはそれを聞いてくすくす笑う。そして笑うのを止めた後、思い出すように言う。


「最近……君の調子は?」


「んん……まだ加害は怖いよ。何かを踏んでいるかも、衝突したかも、街では振り返ってばかり……」


 ココは盾をラッピングしながら言った。カゲトは相変わらずのネガティブで心配そうだがココはあまり気にしてなかった。


「たしかに辛いよ。加害に対する過剰な恐怖が、心の怪我が、たしかに辛い」


ココが心の怪我と呼ぶソレはまだココの脳裏に、心にへばりついては度々ココを怖がらせるのだ。


「でもね、カゲトと出会い、武器を売って……少しずつでも前に進めるってことがわかったのはすごい良いことだよ」


 ココは綺麗に包んだ盾をカゲトに手渡した。カゲトはソレを受け取るとそうか、と納得したように笑った。


 カゲト武器屋から出て行く。新しい盾に期待を寄せた彼は笑顔だ。ココは彼の背中に叫ぶような大声で言った。


「またのお越しを!みんなをよろしく、カゲト!!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る