武器屋とココ

頑張った後

 吹雪竜のコナユキの放った冷気が散って生ぬるさを取り戻す平野。その真ん中にココはカゲトの膝枕で眠っていた。戦ったのはカゲトなので本来ならば逆の構図だ。しかしカゲドはココが守るために傷つけるという一線を越えるのにどれだけ努力し、折れそうになったかをわかっていた。


「ん……ご、ごめんカゲト、寝ちゃってた」


「いいさ。頑張ったからな」


 寝癖を治しながらココは周りをキョロキョロと見渡す。気を失う前の記憶では鋼の団とレイトを守るナイトたちが激しく戦っていたはずだ。しかし鉄の匂いも、音も、雄叫びも悲鳴もあたりにはない。ココとカゲト、そしてコナユキがそばで寝息を立てているのみの静かな平野だ。


 「鋼の団は?」


「ジューナルメタルがよろよろと去っていったら、他のモンスターたちも撤退したみたいだ」


「そ、そう……」


 間を持たせるためにココは聞いたが、一番気になっていたのは自分のことだった。初めて自分の作った武器が斬撃を放ち、傷つけたのだ。それと同時に街を守ることに力を尽くすことができた。その二つがココの心でミルクとコーヒーのようにとけあい不思議な気持ちだった。


「シルダさんも、ドルさんも活躍して、俺とココもコナユキも活躍できた。街を守れた、今はそれだけ考えようココ。さ、帰ろう」


 カゲトは徐に立ち上がるとココに手を伸ばした。まだぼっーとする体でココは彼の手を取り立ち上がる。遠くにレイトの街を守るための壁が見える。


 自分たちが守った街に近づくにつれてナイトや、魔法使いがちらほら。皆テントや後片付けに精を出していた。そして壁の向こうからはいつもの街の喧騒が戻った様子が聞こえてきた。


「なんか今……初めて私たちで守れたって感じがするよ」


 ココは恥ずかしそうに呟いた。自らをヒーローのような表現をしたからだ。ココは敵の一番強い相手と戦うカゲトの背中を押しただけだ。直接刃を振るっていない。しかしカゲトはそれを責めるような様子も見せない。


「俺さ……やっぱりネガティブなんだよな」


「いきなりどうしたの?」


「ジューナルメタルと相対した時、ビビったんだ。硬そうだし、重装備の鎧みたいなのが目の前にいたからな。でもココがきてくれてよかった」


 カゲトはココの呟いた言葉を肯定した。お世辞ではなく、本気だった。恐怖やネガティブはへばりついて離れないものだ。克服したと思えばまた出てくる。ココが加害を恐怖するようにずっとカゲトはネガティブな心と付き合っていた。


「負けるかも、そんな言葉がよぎった時、君がきてくれた。背中を押しにな」


カゲトはそういうと目の前のレイトの街の壁を背にしてココに向き合う。


「カゲト?どうしたの」


「だから、言いたい。武器屋の二代目を継ごうとしているのに加害に対し恐怖を持っていたとしても、君はできることを探した。傷つけないやり方で武器を売るという方法で前進し、ついには加害に恐怖しながらも街を守るという覚悟を持った。君がそれをどう思うかわからない、でも……ココはいい武器屋だ」


 目尻に皺を寄せて思い切りにこりと笑い、全てを肯定するようなカゲトを見てココの目には再び涙が浮かんできた。


「う、うん……ありがとう……カゲトこそ、こんなめんどくさい武器屋に同行してくれてありがとう」


 ココは涙に濡れながら笑顔を見せた。


 しばらくして矛盾した2人組はレイトの街へと再び足を踏み入れた。ナイトたちが関所のすぐ近くで家族や友人と再会の喜びに打ち震える光景が目にはいる。彼らはココやカゲトと共に街を守った仲間だ。彼らの邪魔をせぬようにとカゲトとココはすり抜けるように足早に宿屋へと向かう。


 しかし突如2人の肩をガッチリと誰かが掴む。カゲトとココが同時に振り向くと見慣れたポニーテールをシルダが立っている。


「お疲れお二人さん!ナイスだったね」


「シルダさん!ハードハードルとの戦いを、引き受けてくれてくださってありがとうございます」


「うーん?いいよーいいよー。それよりココちゃん心配したんだからね?」


 シルダはムッとした顔でココの眼前に顔を寄せた。ココはどきりとしたが、すぐに彼女は笑顔になった。そして彼女の頭をピンと弾くようにつついた。


「無理しちゃダメよ?」


「は、はい」

 


 それだけいうとシルダは再び喧騒の中に入っていった。彼女はハードハードルというキック力でいえばトップクラスのモンスターとココのために戦ったのにも関わらず特段疲労も傷のあと見えない。そしてココを心配してこうして会いにきたことにココは色んな意味での強さを感じる。


「カゲト……私シルダさんみたいになれるかな?強くてさ、背中を押してくれてさ」


 仲間と共に騒ぐシルダを見てココはカゲトに言った。


「ココはもういろんな意味で強いさ。自分を前に進めようとしてるからね」


 カゲトはそういうとココの少し後ろに回り込み、背中に手をあてた。そしてエスコートするように宿屋に向かって歩き始めた。首都から出てきて宿も取ってない、戦いは完了しても住む場所は必要だ。


「カ、カゲト?」


「俺にも少しくらい背中を押させてくれよ」


 カゲトはにこり笑い、そう言った。





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