背中を押しに来た

 ココがカゲトを平野の中に視認した時、彼はちょうど接敵する瞬間だった。相手は鉄の鎧そのものだった。体調は2メートルほど、盾と剣を構えている。まるで人間が鎧を着ているようだ。


「キミが……鋼の団のリーダーか?」


「……そう俺は硬さをを極めし者。ジューナルメタル!!」


 そう叫んだそのモンスターは声だけで衝撃を発生させ、砂埃を散らした。カゲトは銀の剣を抜いて構えた。顔には汗が滲んでいた。


「喋るモンスターにはかなり会うな……」


「こちらはいい戦士には会えんのだ」


 さらりと言うジューナルメタル。カゲトは剣と目線を相手に向けたまま質問した。


「鋼の団の襲撃の目的はなんだ?」


 ジューナルメタルは鉄兜のような顔面から息をを漏らした。そして剣を突き立て、形を振りながら言った。


「先も言った通り俺は硬さに惚れている。故に!硬い街であるレイト!石造りの街を切って高みへと行きたいのだ!!」


 再び剣をとってその剣先をカゲトのの遙か先、レイトの街へと向けた。まるでカゲトを意に介していないかのようだ。カゲトそれだけ聞くとそうか、と一言。そして距離を一気に詰めた。


「ふん!!」


 雄叫びと共に放たれた一撃は盾によって完膚なきまでにガードされてしまう。それを気にせず2、3発を軌道を変えて切り込んでいく。


「ふむ……まぁまぁだな!」


 ジューナルメタルは片手間のようにそういうと剣を振りかぶる。それを見て距離を取るカゲト。するとカゲトのいた位置がぱっくりと渓谷のように避けてしまう。カゲトは驚愕した。


しかし驚くべきことはそれだけではない。さけた傷跡からどんどん侵食するように傷跡が広がっていく。


「どうだ俺の硬さは!!すごいだろう!!」


 ジューナルメタルは嬉々としてカゲトに近づいてくる。カゲトは慌てて臨戦態勢を取るもこの場に似合わぬ朗らかさで楽しそうに剣を振るジューナルメタルの一撃で吹き飛ばされてしまう。


「ぐぅっ!」


「カゲト!」


 ココはいてもたってもいられずに、コナユキと共にカゲドに駆け寄った。ジューナルメタルもあまりに突然の乱入者に接近を取りやめた。


「なんだ?興醒めだな。レイトをかけた戦いをしていたと言うのに!小娘!吹雪竜!去ってくれないか?」


「い、いやだ!私はレイトの街をみんなを守るって、進むって決めたの!」


 ココは杖を構えた。コナユキは相手を睨み、夏を冬に変えるほどの冷気を口から漂わせている。地面には霜が降りはじめた。


「な、何しに来たんだココ!あぶな」


「背中を押しにきた!」


 ココはカゲトが言い切る前に叫んだ。言うべきこと、ココはやるべきことを伝えに来たのだ。


「背中を押しに来たの。武器屋として背中を押すのが私のやり方」


「背中を押すって……」


「カゲトとはなぁなぁで別れちゃった。背中を押せなかった」


 ココはそれだけ言うとコナユキと共にジューナルメタルの前に躍り出た。武器屋の少女が鋼の団という災害級の襲撃のリーダーの前に出るのは危険極まりない行為だ。


「小娘……武器屋と言ったな。戦士の戦いに口を挟むのか?」


「違う。街とみんなを守るの」


「……噛み合わんな!なぜみんなを守るなら攻撃をしてくる⁈武器屋として背中を押すならなぜ戦士の戦いに割って入った⁈」


 ココは的を射抜かれたような気持ちになった。矛盾しているのはわかっている。武器屋ととして背中を押すなら店頭や工房でやることだ。だが、ココは来てしまった。カゲトの元に。


「わかってる……背中の押し方がおかしいかもしれないこと……でも私はこうなの。武器屋として背中を押すってのは意思に力を与えることなの。だからカゲトに協力しに来た」


 力なき意志は強きに挫かれる。ココにもなんとなくわかっていたことだ。そして彼女の中では武器屋とは意思に力を与えるものだ。だからカゲトの背中を押せなかった、彼の意思に力を貸せなかったのは悔しいことで、取り戻さなくてはいけないことである。


「つまり、ココは俺の意思の背中を押すために一緒に戦ってくれるということかい?」


「そうだよカゲト……傷つける覚悟をしてきた。守る覚悟をしてきた私は……強いよ!」


 守るために攻撃して傷つける、それは怖い。しかし今、逃げてしまったらココは武器屋としてのプライドも何もかもがズタズタになる気がしていた。


 彼女の参戦理由はそれだけだ。みんなを守りたいカゲトの背中を押したい。そして自分もみんなを守りたい。


 ジューナルメタルはココの話に聞き入っていた。話し終えると剣をゆっくりとココに向けた。レイトの街でなく、間違いなくココの胸元に向けていた。


「いい……硬い意志だ。そこのナイトも、武器屋も、吹雪竜も!硬い!」


 ジューナルメタル興奮したように斬りかかってくる。その剣筋は無駄なく、洗練されたものだった。


 しかしその剣はココには届かない。カゲトが銀の剣を構え、体全体を使ってジューナルメタルはの攻撃を受け止めたのだ。


「ククク……いいだろう!お前たちを俺の街を切るという目的における敵と見るぞ!」


「絶対に街を傷つけさせないよ!!」


 2人の鍔迫り合いの最中、ココは杖を構えた。


「厚き冷気をもって、疾風となれ!」


 ココの杖から放たれる猛吹雪に合わせてコナユキも口から冷気を吐き出した。次第に平野は雪原に変わっていく。しかしもろに冷気を喰らったはずのジューナルメタルは体についた霜を払うかのように張り付いた氷を取り払ってしまう。


「……いくぞ!」


 カゲトは吼えた。銀の剣が振われる。ジューナルメタルは嬉々としてそれと打ち合う。雪の舞う中金属音が響き渡る。


 カゲドが右薙に震えば盾でジューナルメタルは受け、ジューナルメタルが上から振り下ろせばカゲトは横にスライドして避ける。


 目まぐるしい攻防に、ココは杖を構えて背中を押せるタイミングを探っていた。


 

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