押された背中

 平野を滑るように移動するコナユキの爪ににしがみつくココは戦場を視認した。鋼の団を構成する硬質化した殻のモンスターとナイトが己の鈍器を打ち合わせている。響く金属音は至るから聞こえる。


「戦ってる……みんな守ってるんだ……」


 気迫のこもった一振りを繰り出すナイト。それをガードするとメタルつむりやハードハードルと言ったモンスターたち。ココは味方全員が英雄のように見えた。


 ハードハードルは岩の鱗で覆われていて、鎧を着ているかのような風貌だ。足が特に硬く、蹴り一つで建物を半壊させるほどである。


 体長2メートルほどのハードハードルがコナユキの前に飛び上がり、足をノックバックさせた。直感でコナユキは急降下してかわすも、ココは平野の地面に投げ出されてしまう。


 ココの真上で風を切るような音が聞こえてきた。コナユキの回避がなかったら骨折でも済まなかっただろう。


「カゲトのところに行きたいのに……!」


 コナユキは牙を剥き、ココを守るように前に躍り出る。しかしそれより先に歩みを進めることができなかった。一撃が鋭く、重いハードハードルの得意な領域に踏み込む気にはなれなかった。かと言って無視していくこともできない。脚力で追いつかれてしまうからだ。


 ココはあたりを見渡す、ココとコナユキのピンチに駆けつけてくれる余裕のある人は魔法使い、ナイトどちらもいないようだ。じりじりと距離を詰めてくる。


 ハードハードルは地を蹴った。もはやココとコナユキの視認できない速度だ。氷塊のような硬さの蹴りが隼のような速さで迫るもどうしようもできなかった。ココは目を瞑る。


 硬いものがかちあたる音が響く。ココまで攻撃は届いてなかった。ココとコナユキの前には蹴りを片手の鎧でガード鋭くシルダの姿が目に入った。


「何やってんの?!ココちゃん!!」


「か、カゲトのところに行かなきゃならないんです!」


 本来ならシルダはココを追い返すべきだ。しかし彼女の悲壮ともいえる叫びを聞いてため息をついた。そして距離を取ったハードハードルに向かって剣を構えた。


「行きなよ。その目は本物。止められないよ」


「ありがとうございます!!」


 ココは滑空するコナユキの爪にしがみつき、再び平野を進んだ。ハードハードルは再び飛び付こうとするがそれは妨げられた。風の刃がハードハードルに直撃し、地面に戻される。少しポロポロとその外皮が崩れた。


「悪いね。国民を傷つけさせるわけには行かないの。首都騎士団一位シルダ!推して参る」


 ハードハードルは睨むようにシルダを見つめ、片足を滑らせるように後ろへ下げた。そして身をかがめる。


「徒競走かな?」


 パンという音、その直後にはハードハードルの足の甲はシルダの眼前だ。


「おっと……早いね!」


 シルダはハードハードルの本来ないような間隙をついて後ろに回り込んでいた。ハードハードルが後ろを振りかえるもまたそこには彼女がいなかった。シルダを全く視認できないのである。しかし足音は盛んに立てていた。


「こっち!」


 音のする方、声のする方にハードハードルは蹴りを放つ。しかし当たらない。否。いないのだ。空振りというよりそもそも狙うべき対象が視界に捉えられない。それほどシルダは早かった。


盲点と相手の視界の外を移動し続ける彼女の技は真似できるものは少ない。お忍び散歩、と呼ばれるそれはモンスターに破られたことはなかった。


 ハードハードルは飛び上がった。視界を広げることにしたのだ。しかしその行動は自らの行動範囲、脚力を使うことのできるフィールドの放棄を意味する。


「風の……刃ぁ!!」


 空振り。シルダの振るった剣は何にもヒットしていない。しかし剣撃は風を伝って目的に届く。


 ガラガラと音を立ててハードハードルの硬質化した鎧は剥がれた。着地するもハードハードルの体力は限界に近い。No.Iのナイトの技を二つも喰らったのだ。


「さ、おかえり!私次の仕事あるの!」


 シルダがにこりというとハードハードルはしゅんという音を立ててその場からさってしまう。脚力は健在である。


 シルダはコナユキとココが向かった方向を見据えた。おそらく約Iキロほど先と彼女は予想した。そしてそこにはカゲト、そして鋼の団の中で一番大きな戦意を彼女は感じていた。


「間に合うかな?……」


 ココとコナユキが危険な行為をしているのはシルダにもわかっていた。そして危険な場所に行こうとしていることも。彼女たちが向かう場所にはカゲトがそばにいるとはいえ相手から感じ取った戦意は強い。シルダはココを追いかけるため平野を走り始めた。




 

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