意思
レイトの街はいつもの賑やかで平和な喧騒を忘れていた。パニックになったり、悲しんだり、十人十色だ。鋼の団がレイトの街を襲撃するというニュースは人々にいろいろな感情を呼び起こさせた。人々が窓を閉め切ったり、子供を部屋の中に入れたり、避難の動きを見せる中、騎士団、魔法使いの一団はレイトの街と平野を隔てる壁にテントを貼り、出動に備えている。カゲトも例外ではなかった。
「おっ、それがココちゃん製の?」
騎士団のテントに張り詰めた空気をシルダが緊張をほぐすように朗らかにカゲトへと話しかけた。彼の身は頑強黒い胸当てや肩当て、太ももには投擲武器とココの作った武器も防具で覆われていた。シルダはココの武器や防具に身を包んだ彼との会話をしようとしてみたが、カゲトがつぶやくように返すのみだ。
「そうです……」
シルダは薄い反応を見ると、あたりを見渡した。ソワソワしていたり、緊張で硬くなっていたり、ナイトの様子は千差万別。部下たちの様子にシルダは残念そうにしながらテントを出た。硬くなるなとは言わなかった。緊張するのはいいことだ。しかし過度な緊張はパフォーマンスに影響する。彼女はそのことをよくわかっていた。国の剣として、国の盾として皆の前に立ち続けている彼女だからこそわかっていた。
「もっと士気高めろよな……」
その声はテントを幕を閉めて砂地に出てからぽつりと呟いたので誰にも聞こえないと思った。しかし聞き取ったものが1人。
「自分に言ってるの?それ」
「違います、ドルさん」
くすくすと笑うドルは平野の砂を巻き込むのも関係ないようにローブを引きずって近づいてきた。
「魔法使い部隊さんたちの方は緊張しないんです?」
「射程のある攻撃を遠くから放つだけだからかな、カードゲームしてるのがいる」
「はぁ………」
シルダはため息をついた。自信がある、緊張しないのはいいことだが、過度なのは困る。しかしシルダは注意するような立場ではない気がしていた。
しかし守る街がある。そう言った立場としてあるべき姿なあるような気がしたのだ。
「平気だよ。というより平気にしなきゃ」
「どういう意味です?」
「僕たちがこの街を守らなきゃってことだよ……武器をつくってくれた人、食べ物を提供してくれた人、作戦を考えてくれた人。僕らは1人じゃない、頼もしくもあるけど頼りっぱなしじゃダメ」
「そんなこと、言われなくたってわかってますよ」
シルダは遥か地平線の先、かすかな力を感じ取っていた。戦意というものだろうか、彼女にはそれを形容する語彙力はないが、なんとなく感じていた。
「……あと1、2時間?てとこですかね」
「そうだね。規模は……200。多くはない」
「でも鋼の団は殻とかそもそも硬いモンスターがさらに硬質しての襲撃です。規模は小さくても内容によっちゃ……」
シルダは振り返り、すぐ真後ろに聳え立つ壁を見つめる。その向こうに平穏な暮らし、平穏でなければ、平穏にしなければいけない、守るべき、守りたい暮らしがある。騎士としてシルダはドルの感じ取った戦意による分析を伝えにテントへ戻った。
国の一番手であるシルダがテントに戻ると、一斉に彼女に視線が注がれる。シルダはそれに臆することなく息を吸って、吠えた。
「聞きなさい!規模は200!!しかし硬質化しているモンスターの襲撃だ!生半可な覚悟で守り切れると思うなよ!最高のコンディションにしてくれたみんなのために!意志を固くもて!1時間後、陣形を組んで待機!!」
シルダはそういい放つと踵を返してテントを再び出た。すると、中から雄叫びが聞こえてきた。シルダはちょっぴり安心する。
彼女の鎧は軽く硬い。剣は鋭利で軽いが一撃は重く鋭い。あとは彼女の心を強く持つのみだった。
金属音が聞こえてくる、遥か先。実際には金属ではないだろうが、鋼の団は金属に近い硬さを持つということだ。彼女は今回の襲撃が生半可どころではなく、過去1番の苛烈なものになると予測する。
「比べてみようじゃない。あんたたちの外皮か。私たちの意思。どっちが硬いかね」
国の剣、そして盾でもある彼女はテントから離れて陣形で自分のいるべき場所に早々と陣取る。そばにいるのはまだドルのみだった。
「報告は済んだかい?」
「済みました。こっちには雄叫びをあげる奴もいますよ」
シルダは自慢するようにニヤリと言った。ドルは再びくすくす笑う。
「気合いがあるのはいいことだ。空振りしないようにね」
「そっちこそ」
「平気さ。こっちはもうカードゲーム片付けてた」
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