前進する勇気
ドルが部屋からココを残して出て数時間、なんの音もしない部屋をドルは不審に思っていた。設計図を書くような音も聞こえず、何をしているのか腕を組んで考えていると、視界の隅にシルダが現れる。
「ドルさん?ココちゃんはどこですか?」
「中で武器作ってもらってるよ」
「ここ会議室じゃないですか!工房じゃないですよ?」
ドルは首を傾げる。
「僕武器屋のこと知らないんだよね」
シルダが頭を抱えてため息をつく。ドルはそれをみてくすくす笑うが睨まれてすぐにやめた。
「きっとココちゃん困ってるんですよ」
シルダはそう言って扉を開け放つ。すると途端に熱気が彼女と隣のドルの頬を強く擦るように撫で、後ろの窓ガラスがガタガタも揺れた。
「すみません!まだ途中です!」
ココは慌てて言った。まだおわってないのとを怒られるかもしれないと感じたのだ。しかし実際はシルダとドルにそんなにはなかった。
ココはドルが渡したハンマーを握っていた。そして片方の手には杖。一見何をしているのかわからない様子だが、机の上にはいっちゃくのチェーンメイルが置かれていた。
「こ、ココちゃんこれどうやって作ったの?」
「あんまり大々的に室内でやるのもアレなので……魔法でダイヤつむりの殻を柔らかくして加工しました。それで編み上げる感じで……」
「ダイヤつむりの殻を加工するとはね。シルダはすごいの連れてきたね、よしよし」
ドルの手をかわしてシルダがチェーンメイルを手に取った。驚いたことにほとんど重さを感じなかった。だからといって柔いということもなく、指で弾くとしっかりと痛い。ダイヤメイルともいうべきそれはシルダな目にしたことのないものだ。
「まだ強度とか粘度とかあげようと思ってたんですけど……」
「だから杖を?」
「は、はい」
ココは評議員の、2人がマジマジと自分の作品を干渉するので気が気でなかった。ココは自分以外の武器屋を先代以外見たことがないのでほとんど自分のレベルを知らなかった。少なくとも買った人が満足していたが、何より本来の使われ方をしていなかった。
「これ量産できたら騎士団も安全だね」
「量産はちょっともたないです。体力が……」
ココは申し訳なさそうに呟いた。しかしシルダはココの武器屋としての力量を認めずにはいられなかった。というより称賛の域だ。
「すごいよココちゃん!これで戦う人、1人の安全は保証されてるようなものだよ。ココちゃんはすごい武器屋だよ」
シルダ興奮気味にココの肩を揺らしながら言った。ぐらぐら揺れる頭の中でココは少し気恥ずかしい気がする。
「あ、ありがとうございます。素材があれば……まぁまぁなものは作れます。よろしくお願いします」
ココは頭を下げた。よろしくも何もシルダの腹もドルの腹も決まっていた。ココが間違いなく数日後の武器屋の招集、説明会を待たずして作業を始めてもらっても構わない技術を持っているという認識だ。
2人が部屋から出た後、ココはチェーンメイルと再び対峙する。何か他にできることは、守るため、人の背中を武器屋として押すためにできることはないか。ココは考えた。
「ジャラジャラいうのも敵にバレそうだし……油でも塗ろうかな」
鎖同士の音をなくし、滑らかにする策を打つべく、ココはドルから提供された素材の数々の方に目線をやった。どれもこれも仕入れたら財布が空になるよな代物かばかりだ。逆に言えばそれほど今回の襲撃は緊急だとも言える。指の骨をパキパキとならして、ココは一層気合を入れた。
小さなはけを使って鎖の一つ一つにオイリーヌというモンスターのオイルを塗り込んでいく。若干の粘着性を持つそれは鎖同士のガチャガチャという音をを少なくし、滑らかにすることに成功する。
ココは額に汗をかきながらはけを動かし続けた。熱中しすぎてほとんどチェーンメイルと顔がくっついていた。途中で様子を見にきたドルにも気づかないほど集中し、視界が狭くなっていた。
ココがオイルで汚れた顔をチェーンメイルから離す頃にはそばの椅子でドルが寝息を立てていた。
「ドルさん……できました」
「ん?ああ。お疲れココ。すごく頑張って……そんなにレイトを守りたいんだ」
「 もちろんそうですけど……私は武器屋として失格レベルなんです。売る方に関しては。でもやるからには未来の自分に恥じない、全力でやりたいんです」
眠気を取り払うように頭を振りながらドルはココの言葉に聞き入った。そして乱れた毛髪が二、三本目にかかっているが、お構いなしにドルはココに微笑みかける。
「いいね。前進する勇気を持ってる子は僕のお気に入りさ」
ココの何倍もの年を重ねているドルは椅子から降りてココに憧れに近いものを感じていた。しかしそれを口にすることはなく、ただココに笑いかけるのみだった。
「な、何か?」
「いいチェーンメイルだ。いい武器屋だ、僕も頑張ろうって思えたよ」
ドルはとびきりの笑顔を残して部屋から去った。しばらくの間ココはポカンとして閉じられたドアを見つめていた。
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