武器屋

 シルダに連れられるままにやってきたのは一度通り過ぎたはずの評議会館だ。大きな四角柱の建物は見るものを押しつぶしそうな迫力を持っている。


「この建物にシルダさんの友達がいるんですか?」


「別に友達ではないけどね。仲間よ仲間。相手の方が100歳くらい上だし」


 あたかも当然のようにとんでもないことを口走ったシルダは評議会館のドアを勢いよく開け放った。


 目に入ったのは都市の大通りと言われても文句をつけられないほどの長い廊下と迷子になりそうなほどの数のドアだった。


「すっごい!広い!」


「評議会館はホールがいっぱいだからね。国政の会議は一番奥の一番大きい部屋、細かいことはちっちゃい会議室で議論するの」


 シルダは歩きながら説明する。同じような窓から同じような窓へ、景色が流れるように過ぎていく。しかし似たり寄ったりの景色でココにとっては不思議な感覚だった。


「ついたよ!この20番会議室にいるはず!」


「このシルダさんのともだ……仲間がですか?」


「そう!じゃあ、いってらっしゃい」


 ココに何も言わせる隙もなくシルダはその部屋にココを押し込み、隔絶するようにピシャリと戸を閉めた。ココはポカンとして目の前の扉を見つめていると真後ろから声が聞こえた。


「シルダが連れてくるっていうから相当すごいのがくると思ったら……本当にすごいのがきたね」


 弦のような声がココの鼓膜を響かせた。聞いていると体が浮くような気持ちだ。ココは会議室の奥にいるローブを引きずった小さな男性が立っていた。彼は三角帽子を机に置いて近づいてくる。


「ふむふむ。銀の胸章。いい腕の武器屋だね。後魔法の力もすごいね」


「こ、こんにちは。私、ココと言います」


 ココの胸と腰の間ほどの背丈のその男性はココの顔をまじまじと観察する。


「こんにちは。僕はね、ドル。ドルって呼んでね。魔法機関部部長」


 評議委員の1人。つまりシルダと同じくらいの力を持つということだ。しかし今のところココには戦う力なのか、商売する力なのか、魔法の力なのかわからなかった。


「私は武器屋です。今回の……」


「武器屋募集できてくれたんだね。ありがとう。でも君さ」


 ドルは懐から杖を取り出した。藁で編まれたような見た目のその杖を構えるとその杖はブルブルと震え、ふわりと浮き上がる。


 ココがその杖に目を奪われていると、いきなり杖がココの懐を先端で指し示す。


「君、吹雪竜とカケアシヅメの宝石を持ってる?人の魔力以外もなんか感じたんだよね」


「は、はい。仲良くなってもらったり、商売でもらったりして……」



 ドルは目を見開いた。そしてすぐに吹き出すように笑った。


「ははは、いいね。興味深いね!モンスターと仲良くなったり、商売する武器屋は初めてだ!」


 ドルが笑い終わるのをココは待っていると、ドルは突如ふぅーと全身から空気を吐き出すよに息を吐く。そうした後、彼は笑い終わっていた。


「魔法部隊として鋼の団と戦うのもこの国の力になれそうだけど……シルダから聞くに武器屋として、でいいんだよね」


 ドルはココの魔法の力を高く評価していた。しかし国の剣とも言われる同僚であるシルダが気にかけるココは武器屋として扱いたかったのだ。ココは彼の確認に力強く頷いた。


「武器屋の招集と得意分野の確認は数日後だけど、君は多分オールラウンダーかな?」


「まぁ、設計図が有れば……」


「じゃあ、早速始めてもらってもいいかな?僕も付き合うからさ」


 ドルの言葉にココは胸が詰まるような感触を覚えた。すぐにはい、と言えない。加害が怖い。しかし国をみんなを守ると決めた以上進みたい、それもたしかだ。矛盾の武器屋は少し間を置いて頷いた。


「加害が怖いけどみんなを守りたい、矛盾の武器屋でもやれるって所を見せたいです」


「すごい勇気だね。じゃあ、この部屋でいいか」


 ドルは部屋の奥にある箱を開いた。宝箱のように装飾されたその箱は見るからに頑強だ。その中からは鉄、ハンマー、魔法水晶など素材が次から次へと出てくる。


「この部屋は魔法で保護する。好きにやってみてよ、君の武器屋を見せて欲しい」 


ドルはにこりというと杖を振った。すると部屋の表面を風が撫でた。生暖かい風が部屋に充満し、パッと消えた。ドルは確かめるように壁を指で弾いて見せる。すると金属音が響いた。


「この部屋はもう傷つかない。……いけるね?ココ」


 ココは杖とハンマーを手に取りかまえた。そしてはいと静かに、しかし強く言った。








 

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