首都
レイトという石畳の都市から十キロメートルほど離れた首都フィチュールにシルダと共にココは足を踏み入れた。目に入るもの全てが驚きの対象だ。魔法がこれでもかと生活に浸透している。ものが浮いて移動し、消えたり出現したりしている。
「すごい……」
「ココちゃんも魔法使えるんだっけ?」
「武器屋で使うやつとその他もろもろ……」
「そうなんだ。万能だね」
シルダはにこりと笑った。レイトの街を出たときのしんみりとした雰囲気は2人にはなかった。フィチュールに入るまでには互いの出自まで語り合う仲になっていた。
「シルダさん。カゲトにまずは合わせてくれませんか?コーン2、3本渡してそのままなんです」
「そうだね。騎士団の修練場に行こう」
いきなり武器屋の集まりへ行くのはココは気が引けた。加害に加担する現場に足を踏み入れるのにはまだ心の準備がいるのだ。しかし理由はそれだけではなかった。カゲトにただ会いたかった。
進むたびに新しい発見があるこの街はココの胸を躍らせるのには十分すぎた。これぞ都会、というほど人の数も多く、至る所で人が話し、売買し、時たま喧嘩なんかもしている。そして彼らの生活に浸透している魔法の道具たちはココの目を釘付けにした。
騎士団の修練場に行くまで、人に衝突する恐れはあるも、いつもより朗らかな気分だ。シルダの案内で修練場へ向かっていると、段々と雄々しい声が響いてきた。
「勇ましいねー。修練場の声だよ」
ココは修練場に向かって駆けた。石畳をならし、何かを踏んだという心配もせず、カゲトを探すために。すると大きな土地に柵が設置されている区画に出た。柵の中の奥の方にはロッジが並んでおり、その前には木剣が綺麗に並べられていた。
「ココちゃん。騎士団の修練場へようこそ。今はみんな剣のトレーニング中みたいだね」
いつのまにかココに追いついていたシルダの言葉を聴きながらココは柵に手をかけ、剣を振るナイトたちの中から金髪を探した。遠くの方でカゲトの声がする気がしてそちらに目線をやると、模擬戦を行おうとしているカゲトが目に入る。
思わず声をかけようとするココ。しかしそれはシルダによって止められた。
「模擬戦に集中させてあげよう」
シルダはにこりと笑った。ココはシルダの言う通りにすることにし、柵をギュッと握りしめ、カゲトを見つめた。距離は遠くカゲトはココに気づいていないだろう。半ば強引にここにナイトとして連れてこられたカゲトは少し怒っているかもしれない。ココは不安げに視線を模擬戦に向ける。
「カゲトが心配?」
「はい……だっていきなり連れてこられて……」
ここの言葉を遮るように乾いた音が響いた。カゲトと練習相手の木剣が衝突した音だ。相手はカゲトの攻撃を見て驚いている。なぜならカゲトは鍔で相手の刀身と打ち合っているのだ。
「カゲト……こんな時まで……」
ココにとって傷つけないやり方、それはココの武器を使っている時のみでよかった。しかしカゲトはココの武器を使う前提で練習をしているようだ。当然練習相手は驚く。鍔で戦っているのだから当然だ。
「なんだカゲト!久しぶりに顔出したと思ったらその攻撃は!?」
「大事なものを守る戦法だ。油断してるわけじゃないぜ!」
つか、そして鍔での細かい殴打は小回りが効く。相手は細かい攻撃にだんだんと防御の割合が多くなっていった。そしてついに攻撃は相手をかすり始める。そこから2、3手あと相手の木剣は宙をまった。乾いた音のやりとりはそこで終わり、カゲトの勝利だった。
「腕を上げたな?」
相手は両手を上げ、降参だと合図する。カゲトはにこりと笑うが、すぐに残念そうな顔になった。
「本当はここに戻るつもりはなかったんだがな。レイトの街に大切な人を置いてきて」
呟くようにいうカゲト。彼の目には寂しさが滲んでいた。
「カゲト!」
ココは柵伝いに移動してカゲトに可能な限り近づいて叫んだ。カゲトは驚いたように振り返り、旧友を見つけたように笑顔になった。
「ココ!どうして?」
「そっちこそだよ!いきなりいなくなって心配させて!!」
ココは涙を浮かべて柵の向こうに手を伸ばした。すぐにカゲトは駆け寄ってその手を取る。練習相手は戸惑っているのはカゲトにとってどこ吹く風というような感じだ。
「すまない。魔法機関部部長が宿屋に来て、鋼の団の襲撃のために訓練するからといって連れてこられたんだ」
「わかってる……私も武器屋募集を聞いて……」
ココは言いにくそうに伝えた。それを聞いたカゲトは驚いた。そしてココの後ろにいるシルダを若干睨むように視線を送る。
「シルダさんから聞いたのか?」
「うん……でも無理矢理じゃないよ!」
シルダさんに突っかかりかねないカゲトを宥めるようにココは急いで言う。
「武器屋として、大事なレイトの街を守りたいの」
「……そうか。早とちりしてすまない。でも約束してくれ、無理はするな」
カゲトはココと目線を合わせ、真剣に伝えた。ココもそれに呼応して強く頷いた。同時にこんなにも自分を思ってくれるカゲトを嬉しく思った。
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