鋼の団と矛盾の武器屋

コーンはどこに

 ベイタの農地に戻ってきたココとカゲトは再び氷を拾い続けた。カゲトはコーンの間に深く入り込んでしまつた氷に難儀している。鍛え上げた上腕は繊細なコーンの間に入れるには屈強すぎた。対してココは細身を生かしてバケツに氷片を倍近いスピードで入れていった。


「ココは器用だな」


「ありがとう、カゲト」


 にこりと笑いながら放り投げた氷片はバケツにスッと収まった。カゲトは常々思っていたことだが、ココは傷つけようとすればおそらく強力な戦力となる。高度な魔法を使い、腕力、動体視力に優れ、器用で武器の知識を持っている。


 しかしココの向き合う問題を知っている彼はそんな野暮なことを口に出さなかった。君は傷つける方が向いている、そんなことを言えば2人の関係は悪くなってしまうだろう。


 氷片がほとんど取り除かれたコーン畑には喜んでいるようにのびのび育つコーンたちが見て取れた。


 一息入れようとベイタの小屋の前のベンチでココとカゲトは座る。2人とも穏やかな景色を見ていると段々とウトウトしてきていた。とうとう作業の疲れも相まってカゲトは頭がぐらぐらと揺れだした。そしてココの肩に収まった。


「わ!カゲト?……寝ちゃったよ……」


 カカシ作りでも、氷片掃除でも頑張ってくれたカゲトを労うようにココはそのまま肩を貸してやった。


「……これからどうしよう」


 ポツリとでた独り言。しかし本音だった。傷つけることが苦手で、武器屋として矛盾したやり方をしてきた。そしてついに傷つけないやり方をする人やモンスターに武器を売り切った。達成感とともにぽっかりと胸に穴が空いたようだった。


「相変わらず加害は怖いし……なんか踏んでないか振り返りまくりだし……何かを踏まないように歩くの遅いし……」


 たしかに前には進んだ。だからこその悩みだった。自分な性質は前に進んでいるのか、心の怪我と彼女が呼ぶそれは治っているのかわからなかった。


「そこの2人!氷片掃除とカカシのお礼じゃ!」


 ココの悶々とした考えを吹き飛ばすように大きな声が響いた。そちらを向くとベイタが箱を持って立っている。中にはコーンがぎっしりだ。


「これからは宿屋への出荷もいつも通りできるじゃろう。これはそれとは別にお礼じゃ」


 ココが受け取ると沈むような感じがする。その箱は重く、武器の木箱とは違う重さな気がした。武器は硬いが、コーン比較的やわらかい、慎重に持たねばならない分重さも増したような気がする。もちろん武器も慎重に取り扱うべきだが。


 カゲドを起こし、ベイタに挨拶をしようと2人は立ち上がった。


「2人ともきてくれてありがとな。嬉しかった。ポタージュがまた飲めるといいな」


「はい!私もベイタさんのおかげで貴重な体験ができました、ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 2人は頭を下げる。ベイタは2人の肩を巻き込むように掴み、ベイタの小屋を背にするように振り返らせた。


「どこ行くか知らんが、気をつけてな!」


 ベイタは2人の背中を激しく、しかし優しさを込めて叩き、押した。ココは背中を押されているのに不思議と胸が温かくなるのを感じる。


 ベイタの小屋からレイトの街中心部に戻ってくると農地にはなかった喧騒が再び耳に、人の動きが目に、雑多なにおいが鼻につく。帰ってきた、故郷でもないこの街にそのような感想を抱く自分にココは不思議な感じがする。


「そうだ、カゲト。いっぱいもらったけど、あなたのコーンは2、3本でもいい?」


「え?ど、どうしてだ?ココはそんなにコーンを食うのか?」


 心配と悲しさが混じり合うような顔をしてこちらを振り返った。カゲトは彼の持つコーンの箱を引き寄せるように動かす。ココはその動作が少しおかしく、可愛らしいとまで思う。


「違うの。渡したい人たちがいるの」


 ココはそういうと2、3本残しカゲトから箱を引き取った。カゲトは手に残る2、3本を大事そうに、もうこれ以上離すものかというように抱きしめなから聞く。


「誰に渡すんだ?」


「まだ内緒でもいい?カゲトはその人と仲良くないから」


 そういうとココは重いコーンの箱を持って歩いて行ってしまう。カゲトは残された上、ココを守るという同行意義がなくなりかけていることに少し呆然とした。


「まぁ……ココなら行動に誰かの笑顔が伴いそうだしいいか」


カゲトは諦めるようにつぶやいた。そして2、3本は近くの子供に渡してやった。子供の笑顔を見てカゲトも少しほおが緩んだ。



 ココは重い箱をヨタヨタと持ちながら歩く。流石のココも慣れない運搬は疲れてくる。歩いているうちに人どおりが少なくなってくる。


 レイトの街も全てに置いて繁栄が約束されているわけではない。貧民街が存在する。そして貧民街のために戦っている人を知っている。しかし彼のやり方はココには同感できるものではなかった。


歩く人より座り込む人が多くなった景色。貧民街の一角、痩せた人々が座り込む路地に立つ建物、その屋根に腰掛ける人物にココは声をかけた。


「怪盗カードル!お裾分けです!」


 ベレー帽と前髪で目が隠れているので怪盗カードルは少し顎を前に押し出すようにしてココを見つめた。


「どういうことです?武器屋ココ」


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