完売

 ココは黒の剣を鞘付きのままカケアシヅメのカカシにくわえてもらった。少しぐらぐらするが、強そうだ。


「どうでしょう?」


カケアシヅメのリーダーはポカンとしてから吹き出した。


「たしかに、強そうですね。カカシはビビらせなくてはいけないそうなので…………買いましょう。しかし私たちにはお金がありません」


 ココは突然思い出した。目の前にいるのはカケアシヅメだったことを。自然と会話がされていたので忘れていたのだ。


「た、たしかに、ど、どうしよう」


「しかしカカシには剣が欲しいので何か別のものでお支払いしてもいいでしょうか?」



 カケアシヅメは目を細め笑う。そして遠吠えのように高く雄々しい雄叫びをあげた。しばらく静寂が続いたが、平野の向こうからカケアシヅメが二、三匹、こちらの巣の方にかけてきた。止まるのにも一苦労のスピードだった。ココたちの前に土埃を巻き上げて止まった。


「どうもありがとう。さぁココさん。こちらがカケアシヅメの宝石になります」


「ほ、ほうせき?そんな高いものもらえない!この剣は30万ゴールドだもん!」


「人の単位は分かりかねます。ただ100日は不自由しないほどの代物です。使い方は分かりますか?」


 カケアシヅメに差し出された水晶のようなものをココはじっと見つめた。吹雪竜にもらった氷に似ていた。魔法の力を感じる。


「杖でモンスターの力を引き出せるやつ?」


「そうです。あなたが懐に入れてる吹雪竜の宝石が見えたので……これが役に立つかと……」


 カカシを作る時、ココは藁や布が引っかかり、胸ポケットがあいていたことに気づいた。急いでコナユキの宝石があることを確認すると少しホッとした。友達からの貰い物を無くしたりしたら大変だ。


 確認をするとカケアシヅメのリーダーに差し出された宝石を眺めた。奥に毛のようなものが入っている。まるで琥珀のようだ。


「カケアシヅメは平野を駆け抜けるために空気に触れる体毛に力が多いのです。それを宝石にしたものです」


「そうなんだ。じゃあ、代金としてもらうね。ありがとう」


 カケアシヅメは再びにこりと笑い、立ち上がった。カカシの方へと歩みを進めるとカケアシヅメバージョンの雄々しいカカシ横から見たり真正面から見たりする。剣をくわえさせめいるので相当強そうだ。農地を守るため、威嚇には十分すぎるほどだ。


 そんな様子のカケアシヅメのリーダーにベイタは自慢げにいう。


「いいカカシだろう。脅しといっちゃ聞こえが悪いが、守るためにゃ力は必要だ」


「カケアシヅメとして同感です」


 ココは2人の会話を聞いて何か心に何かモヤモヤが渦巻くのを感じた。守るのには加害の力が必要なのは最近わかってきたことではある。しかし自分が武器屋として傷つけるために売る武器屋になったかというとそれも違う。


 払いきれないモヤを払っているココの肩をポンと誰かが優しく叩く。ココがふりむくと嬉しそうなカゲトが目に入る。


「なんか嬉しそうだね」


「そりゃそうさ」


「そうか。ベイタさんの農地の氷も取り除けたし、カケアシヅメに取られなくもなるし、ポタージュがまた飲めるもんね」


 ココが思い出すようにそういうとカゲトがポカンとした顔になった。


「ど、どうしたの?そのためにベイタさんのところ訪ねたんでしょ?」



「違うよ……いやそれも嬉しいけど」


カゲトは呆れたようにため息をつくと剣を手に取った。ココが初めて売った傷つけないための武器だ。銀の剣は平野ではいつもよりその姿をありありと目立たせているようにココには見えた。


「おめでとう。武器屋のココさん?」


「おめでとう?」


「君の布袋は空っぽ。武器を武器屋として売ったんだ。ぜーんぶな。傷つけないために使う人に武器を。そんな難題を君はクリアして前に進んだ。……君は振り返り、戻ることを気にしていたけど、君の武器屋としての軌跡は誇っていい。すごいよココ……やったな」


 カゲトはココの手を抱え込むように握った。一番最初。カゲトに出会ったばかりの時とほぼ同じ動作だ。ココの頭の中を今までの軌跡が風のように流れた。


「そっか……私売れたんだ。人を傷つけないやり方をする人にのみだけど……武器屋としてやったんだ」


 ココの目には涙が溢れた。銀の剣、ガントレット、黒の剣は今なお切らず、打たずのままである。これからどうなるかわからないが、ココにとって武器屋として一つのゴールだ。


 その嬉しさと同時にここまでついてきてくれたカゲト、力になってくれた役所のレイや、吹雪竜のコナユキ、ベイタに対して感謝の気持ちが溢れた。


「ありがとうカゲト……ありがとうみんな……ほんとに……めんどくさい私に……」


ポタリと握り合う彼らの手に涙が落ちる。ココのものとカゲトのものだ。


「少なくとも俺にとっちゃそんなことない。ココは……俺の知る武器屋で最高の武器屋だよ……」


 啜り泣き、慰める2人はカケアシヅメ、ベイタを隔絶するように忘れてしまっていた。カケアシヅメとベイタは2人の元からそっと離れた。



「若いねぇ……そう思うだろカケアシヅメさん」


「そうですね。あなたたちには助けられました。農地とカカシ……あなた方なしには成し遂げられなかった。ココさんとカゲトさんの邪魔をするほど野暮じゃありません」


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