カカシ

 ベイタとココ、カゲトは藁や、布をベイタの農地から担いで持ってきていた。チクチクと藁がココに刺さるのをカ、カゲトがいちいち心配してくるのでココは少し怒った。


「平気だって!」


「君は被害には鈍感だな」


「そんなんじゃないもん。重くないし痛くない」


 プイッとそっぽを向いてしまうココに布をこんもりお椀型になるほど持つカゲトはため息をつく。ココは怒ったはいいもののチラチラとカゲドの方を視線をやった。そして呟くように。早口で言った。


「そ、そんなに怒ってないよ」


カゲトは戸惑いながらギリギリ言葉と認識できる声でああ、と返事をする。和解まで数秒だった。ケンカかもわからない。そんな2人のやりとりを見てベイタは笑ってみていた。


「カケアシヅメも食わんじゃろな………お!やっと見えてきたぞ」


「巣まで結構遠いですね。でもこれでカケアシヅメ型のカカシを作れば農地を守れますね」


「そうじゃな、威嚇してビビらちまうのが一番早い。傷もつかん」


 ベイタはカケアシヅメが寄ってくるのを見てどっさりと藁を地面に置いた。カゲトは手に持った布の横から覗くようにココの顔を見てみる。少し俯いて何かかんが得ているように見えた。


「………そういう(守る)もあるのか」


「ココ?平気か?」


「う、うん。傷つけない守り方もあるよね、ってちょっと安心」


ココは自分に言い聞かせるようにそう繰り返すと藁と布を編み上げ始めた。カゲトは不思議そうにココを、しかしどこか彼女のことを理解できそうなもどかしさを抱きながら彼もまた座り込み、藁と布を手に取った。


 カケアシヅメのカカシの四脚を関節に至るまでリアルに組み上げたココたちは、周囲をカケアシヅメに囲まれていることに気づく。自分たちのために何かしてくれる人間が珍しいのか、どんどん近づいてくる。その中でも一際鋭い爪を持ったカケアシヅメが皆から二、三歩前に出た。

「あのカケアシヅメがリーダーかな?」


「多分そうだな」


「そうでございます」


ココとカゲトは飛び上がる。ベイタに至ってはひっくり返り、藁をばら撒いた。3人ともにカケアシヅメが人の言葉を喋るとは思ってもみなかった。その様子を見てカケアシヅメのリーダーは鋭い目を瞑るように細めて笑った。



「私の一族の一部がベイタさんのコーンを取ろうとしていたのに気づけず申し訳まありません」


そのリーダーは4つの膝を折り曲げ、ベイタの前でお辞儀をするように姿勢を下げた。


「それにこんな農地の作り方をお教えいただき感激です」


「自分でコーンが作れないなら作り方を知ればいい。過去は変えられんからな。今からカケアシヅメはスタートじゃ、コーン泥棒でなくコーン作りのな」



ベイタはニヤリと笑う。ココもカゲトもカケアシヅメの感情が読み取れるような能力はないが、これだけはいえた。カケアシヅメは感激していると。


 胴体、頭とカケアシヅメのカカシが藁と布で形成されていく。しかし色味は若干カケアシヅメの立派な体毛を表現するのベイタは頭を悩ませていた。その間ココはカケアシヅメと話してみたいと思い、隣に座り込んでいた。


「人間と話すのは久しぶりです」


「私は初めてだよ、カケアシヅメと話すの。どうやって人の言葉を覚えたの?」


「気合いですね」


 平野を駆け抜ける力強いカケアシヅメらしい返答だった。ココはカケアシヅメのリーダーが随分と年上に感じた。喋り方にリーダーたる確固したものが見える。


「ねえ、カケアシヅメさん」


「なんです?ココさん」


 カカシ作りの仕上げ、色を決めかねているベイタを見つめながらココはつぶやくように言った。


「あなたから確固したものを感じる。私とは反対……」


ココは自分の矛盾について話し始めた。勝手に話を始めた挙句重い内容にも関わらず、カケアシヅメのリーダーはその場に座り、目線こそ合わせないものの、頷きながら聞いていた。ココの質問に答える時までじっと聞いていた。


「どうしたらみんなをまとめられるほど強くなれるの?」


「気合いです。またか、と思うかもしれません。群れを守りたいという意思があるから力が出せる。つまりは気合です。力なき意志はたまに力に屈してしまいます」


「力って?傷つけること?」


「守ること、そう思います。カケアシヅメが人間なアドバイスなんて変な話ですがね。しかし人間と思い切り衝突した時のために言葉を覚え、鍛えています。衝突しないことが一番いいですがね。ようは……」


「じゃあ力は守るため、念のために持ってるの?」


「牽制、防御色々ですね。カカシみたいなものかもしれません……でも一つ言えるなら、あなた方の作ってくれた農地を守るカケアシヅメカカシは素敵です」


 カケアシヅメの言葉で頭をベイタさんの方へ向けるとぱっと見るとカケアシヅメそのものと思われるほど精巧なカカシが立っている。色塗りはココとカケアシヅメの会話に気を使い、2人でやってくれたのだ。


「完成してる!ごめん手伝えなくて」


「いいさ、ベイタさんと俺で色塗りだけなら平気だしな」


 しかしココは色塗りを手伝えなかったのは少し残念だった。ベイタは気にしてないみたいようであるが、カケアシヅメのカカシにココも何かしてあげたかった。


 そしてふと思いついた。と同時にカケアシヅメの言葉がよぎった。守りたい意思があるから力を出せる、力は傷つけるというより守る、ココは布袋を持ち上げた。


 ココの遁走から随分と軽くなったものである。ココは布袋を空っぽにして黒の剣をそこから取り出した。


「カケアシヅメのリーダーさん。……武器を買いませんか?」

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