発想の勝利

 カゲトが怒涛の氷拾いを見せている場所までベイタと共に追いついたココ両手いっぱいのバケツでフラフラとしていた。武器屋で運ぶ木箱は蓋があるからいいものの、バケツに入った氷片はバランスが難しい。しかし努力の甲斐もありココは氷が取り除かれてコーンもなんとなく生き生きとしているように見え、元気になった気がしていた。


「わぁ………すごい勢い」


氷片が宙を舞い、バケツに収まる。カゲトの勢いは止まるところを知らない。と思いきや先ほどまでのスピードは一瞬にして止まった。カゲトが息を潜め、身をかがめてこちらに向かってきた。


「ど、どうしたの?」


「カケアシヅメがいる!コーンの方に突っ込んできたらヤバイぞ」


それを聞いたベイタは目を丸くして驚き、すぐにため息をついた。呆れたように頭を掻く。そしてカゲドの警告を無視してそのままカケアシヅメの方へ向かった。2人は引き止めようとしたが、あまりに堂々と進んでいったので途中で手を止めた。


 ベイタは武器も無しに強靭な四肢をもつモンスターであるカケアシヅメにあい対する。


「ちょ………ベイタさん」


「止めてくる!」

  カゲトは剣を構えて飛び出そうとしたが、ベイタさんの怒鳴り声が響きその動きを止めた。空気を震わせるその声は威嚇とも取れた。しかし声の内容は威嚇とは似ても似つかない。


「言ったじゃろ!!?コーンはやらんぞ!!お前昨日来たやつじゃろ!!もういい!お前らの巣に案内してくれ!!耕してやろう!!」


2人は耳を疑った。しかひカケアシヅメは牙を剥くこともなく、爪も立てることもなく、対等に会話しているかのようにベイタの目の前にその四脚を立てていた。


「コーンは出荷先があるんじゃ!だからやれん。でも欲しいんじゃろ?畑作ってやるわい!!!!!」


  ベイタは叫んだ。2人は耳も目も疑った。しかし紛れもなくベイタはカケアシヅメというモンスターに対しコーンの作り方を教えようとしていて、耕すというサービスまで提供しようとしている。


「なるほど………」

 ココはすでに驚きを通り越し、感心した。カゲトは口がポカンとして穴のように開けている。

 ベイタはどこからかクワを持ち出してカケアシヅメの方へ近づいた。カケアシヅメはそれを見ると徐に向きを変え、農地から離れ平野の方へ歩き出した。慌ててココとカゲトもそれを追った。


どんどんコーンの農地のが遠くなっていく。代わりに岩場らしき場所に近づいてきた。景色が流れる中、ベイタは言った。


「すまんの。お二人さん………いつもカケアシヅメがコーン目的でくるんじゃ、コーンの出荷ができないのは氷とそのせいでもあるんじゃ」


「なるほど………でもカケアシヅメの巣の近くに農地を作っても収穫とか種まきとかできないんじゃないですか?」



「年に数回、行ってやるだけじゃ。そのうちこいつらだけでできるようになる。一回ダメでも何回もやったら割といけるもんじゃ」


ベイタは歩きながら振り返り、にこりと笑った。その笑顔は豪快な優しさを含んでいた。


 ココは彼の行動が好きだった。カケアシヅメの背中を押してやる、と言うのを自身の仕事と勝手に重ねていた。ココも自然と笑顔になった。


「ごめんね。カゲト。ポタージュはお預けになりそう」


「そ、そんくらい我慢できる!子供じゃないんだぞ?」


カゲドは少し恥ずかしがって年下のココに向かって言い放った。ココとベイタはそれを聞いて笑う。ココは笑ってる時は心配や加害の恐怖が薄れるような気がしていた。


 岩場が近づいてくるとカケアシヅメを視界にとらえることが多くなってきた。カケアシヅメ密集しているところまでくると3人とカケアシヅメは止まった。


ベイタは早速始めよう、と行って近くの土を耕し始めた。それだけでなく目に入るカケアシヅメにこちらに来いとジェスチャーで訴えた。

ココもカゲトも農業はわからないが、カケアシヅメに教えるベイタは楽しそうで、本当に好きなのだと感じた。


「耕すのはこんな感じじゃ!そこのお前!やってみい!」


豪快なベイタはクワの持ち手を彼の作業を眺めるカケアシヅメに向けた。カケアシヅメの群れは一斉に2、3歩下がる。


「なんじゃ。コーンが食いたいんじゃろ。何かしら前進せにゃ、他のモンスターに置いてかれるぞ。ほらお前!」


ベイタはカケアシヅメ1匹にクワを渡した。そのカケアシヅメは口にクワを口に咥える。グラグラと揺れるクワ、そして慣れない動きでクワを振るうカケアシヅメ。それにココとカゲトは期待と不安の目線を送る。


 カケアシヅメの振るうクワが土に入り、抜かれて土を巻き上げる。何回が繰り返すとなんとなくだが動きがわかってきたようだ。


「まぁまぁじゃな。ほれ、苗木じゃ。水をちょくちょくやる。失敗したらまたチャレンジ!」


懐から小さなコーンの苗木を取り出したベイタは土に小さな穴を掘り、ガラス細工を置くようにそっと苗木を穴に入れた。そこからベイタの授業は数時間に渡った。


 数時間後できたモンスターの巣に作られた小さな農地は近くの岩の林立している場所と近くの平野の中で際立っていた。


「ベイタさんこれ………」


「目立つな。カカシでも置いとくか?」


「モンスターの巣に人型の?意味ないじゃろ、やるなら………」


カケアシヅメバージョン、ココとベイタの意見が一致した。カケアシヅメとカゲトは理解できなかった。






 

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