カゲトのため

 ココとカゲトはレイトの街で引き続きお客さんを見つけようと血眼になって辺りを観察していた。ここ数日そんな調子で街を動いているが武器を傷つけない使い方をする人、という稀有な人はいないしそもそも見ただけじゃわからなかった。


「今日はもう暗くなってきたし宿に戻らないか?」


「そ、そうだね。疲れちゃった」


売り込みもかけてみたが奇異の目線でみられることもなくは無い。しかし全員事情を説明すると優しく接してくれるのは嬉しかった。と言っても特殊すぎる武器の需要と繋がるかは別だ。


 宿屋で食事を取る2人の他には食堂には他に誰もおらず静かな食卓だった。しかし心のうちではココにとっての静かな食卓というのは数えるほどしか経験したことがない。なぜなら常に噛む時も加害を感じてしまうことがあるからだ。齧る、踏む、切る、生きていく上で必要なものを示す動詞だ。齧らねば食べられないし、地面を踏まねば進めない。しかしココはそれらをするときには心のうちが騒がしい。何かを踏んだ、何か重要なものをかじってしまった。切ってしまった。その考えがへばりついているのだ。


 今日も目の前のカゲトには言いこそしないものの心のうちは騒がしく、食べるのは遅くなっていた。


 しかし気づくとカゲトも食べるのが遅い。


 今日は一緒に行動していたので今日の報告などもなくカトラリーと皿がときたまかちゃりとたてる以外の音はなかった。カゲトはならすぐに食べてしまえるような経過時間と状況だった。

「カゲト……わたしがいうのもなんだけど……今日ゆっくり食べるね?」


 それを聞き、ポタージュスープをゆっくりと口にしたカゲトがスプーンを置いてナプキンで口を拭くと、口を開いた。


「気付いているか?ココ」


カゲトはまっすぐココの瞳の奥を見つめるようにして言った。しかしココに思い当たることは特になかった。今の今まで食事をしていた以外。


「な、何が?もしかしてなんか敵とかいる?」


「違う。ポタージュスープが俺らが初めて宿屋に来たときより少なくなってる」


少し緊張した空気で、内心ドキドキしていたココには肩透かしだった。思わずカクッと体を崩しかけた。しかしカゲトは至って真面目だ。


「足りないなら私のちょっとあげるよ」


「違うんだ!確実に!ココのも!俺のも少ない!!二分の一になっている!!」


カゲトは立ち上がった。


「ちょ、らしく無いよ!カゲトどうしたの!」


「俺はポタージュスープが好きなんだ」


「んん………知ってるけど………じゃあ、お代わりすれば?」


「そういうことでは無い」


じゃあどういうことよ、ココは心の中で突っ込んだ。カゲトがポタージュが好きでその量が少なくなっているのなら、おかわりかココが自身の分を分けてあげる他に無い。突飛な彼の行動ココは悩んだ。


「供給量が減っている。現に高くなっている!!ポタージュの値段が!」


「まだコーンの季節は終わってないよ?」


「だから不思議なんだ」



カゲトは平静を取り戻し、ガラスの置物を置くかのように静かに座った。宿屋のコックが何事かとこちらをみていた。はちゃめちゃな言動を反省するようにカゲトは食事に戻った。しかしポタージュ減少は少なからず、カゲトにショックを与えるようだった。


「じゃ、じゃあここに供給してる農家さんのところ行ってみよ?」


ココの提案はココにできる恩返しだった。いつも自分の無茶な売り込みに付き合わせているのだ。カゲトのやりたいこと、気になることに力を貸したいという思いをココが持つのは不思議なことでは無い。


「い、いいのか?武器の売り込みが………」


「もしかしたらチャンスはあるかもしれないし。それよりカゲトが好きなもの、気になるものは私にとっても大切なの。ね?一緒に明日行ってみよう!」


「そ、そうか。なんか嬉しいよ。ありがとうココ」


 2人が泊まっている宿屋の出す食事に使われている食材は農家直通なので農家の影響がサービスにダイレクトに出るのかもしれない。ココたちが滞在するのに困るほどの高騰は見られないが、農家が困っていたら宿屋も困る。守るために戦ってみるということを学んだココにとってもあながち関係がないとは言い切れないのだ。


 翌日レイトの街で唯一レンガの壁に囲まれず、平野と直通している地域、広大な農場へとやってきた。壁の外に農場を作ると街から資材などを持って来るのに不便だということで壁をくり抜かれることになったという。


「ここら辺は戦士さんたちが多いね」


「個人経営が集まっていて農場は広い、壁もない、モンスターとの接触が考えられるからね」


ココたちの泊まっている宿屋にコーンを提供している農地はレイトの街から一番遠く、一番モンスターの影響が考えられる場所だ。


「でもさ、ここらへんにいるカケアシヅメとかダイヤつむりとかはコーン食べないでしょ?」


「他にも原因は考えられる。冷害とか干害とか」


推測しながら歩いていると一見の石造りの小屋が見えてきた。そこにコーンを作る農家がいるという。ココはあたりをキョロキョロしてから遠慮がちにドアを叩く。


「失礼しまーす」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る