怪盗と武器屋とナイト
「………ありがたい申し出ですが………貧民街の子供達が待っているので、今日のところは帰ります」
怪盗カードルはココの提案に驚き、動揺したがすぐに平然と呟くように言った。まるでその提案も悪く無い、というように。ココが見つめる中怪盗カードルはベレー帽をココの方へと放り投げた。
弧を描くベレー帽を目で追うココ。ベレー帽がココの腕に収まる頃には怪盗カードルはその姿を消していた。ココが石畳の商店街に戻っても、その姿をどこにも見つけることができなかった。
「怪盗カードル………不思議な人だったな。怪盗だけど、まっすぐな人」
彼女にはまっすぐな彼を少し羨ましいと思う心を持っていた。守るために戦い傷つける覚悟を持つ。もちろんココにとって傷つける行為は容認できるモノでは無く、恐怖を対象だ。しかしココにとって守るという行為は素晴らしく見えた。
自分の足りないところ、それを見つめ少し暗くなっていたが、ふと布袋を取り返すことには成功したことを思い出す。急いで取り出すと、中の黒い剣にも傷はなく、売り物としてはまだ十分だ。
「………剣を守れた。今日はこれでいいかな。今度はもっと進もう」
武器屋として根幹に関わる部分が未熟なココは少しだけ成長を感じ、宿屋へと戻っていった。
宿屋へと戻る途中は自然と足取りも軽くなった。守れた、守れた、やった。心の中で今日の出来事を反芻している間同時並行でその言葉が響いた。
「ココ!」
「カゲト!!私守ったよ。剣はここににあるよ」
カゲトはココに駆け寄り心配そうに腰をかがめた。同じ目線合わせてくれるカゲトのやさしさに感謝しながらココはカゲトの手を取る。
「こ、ココ?」
「カゲトのおかげだよ。さすが元ナイトだね」
「そ、そんな………。足止めされてしまったし………」
「ううん………私のために、私が大切にしてるもののために剣を振ってくれてありがとう、それでさ………」
カゲトの顔から視線をすこしずらしてココは深呼吸した。カゲトはココの行動の意味がわからなかったが。何か大切なことを言おうとしていると考えじっと待った。
「カゲトは私の剣を買ってくれたはじめてのお客さんだけど。そのお金は働いて返す、私を守るって言ってたよね」
「う、うん………もちろんだ」
「もう十分すぎるほど守ってもらったのコナユキの時も怪盗カードルの時も。多分働いて返すのは終わってると思う。でもこれからも私といっしょに………いてくれませんか」
語末につれて小さく、もじもじするココを見てカゲトは吹き出した。
「はははは!もちろんだよココ!俺の恩人だもんな君は。それを差し置いても俺はココと一緒にいたいよ」
「ふふふ、ありがとう」
しばらくして2人宿屋へと戻ると再び受付嬢がココの顔を見て焦り出した。デジャヴを感じていると受付嬢はカウンターから出てきて一枚のカードをココに手渡した。
裏にはシルクハットをかぶった顔のマーク、すべすべした質感。怪盗カードルのものだ。しかし今回は予告状では無いようだ。
「感謝状 怪盗カードルは貧民街を助けようと提案してくれたあなたに感謝する。矛盾した武器屋のさらなる成長に期待する」
シルクハットのマークをよこしたベレー帽をかぶったあの怪盗はココとのやり取りの中で少なくともココに対し嫌なものは感じていなかったようだった。覚悟が足りない、それは事実でありココの弱点なのかもしれない。しかし怪盗カードルはそれでもココは武器屋として悪く無いと感じたのだ。
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