怪盗参上
昨日怪盗カードルが黒の剣を狙いにきた時間と同じ頃、宿屋の中で警戒しながら2人は行動していた。布袋からココは一切手を離さなかった。
「………今日は来ないのかな?」
「油断はダメだ」
隣の部屋のシルダはレイトの街をパトロールに向かったようだ。黒の剣を守る必要がなくなった以上、シルダの側から怪盗カードルを探しにいったらしい。
「………今日はシルダがいなくて助かりますね」
食堂に2人が移動した頃、昨日と同じ窓から、ゆっくりと怪盗カードルは侵入してきた。カゲトは剣を構えた。その構えはカードルには不思議に思えただろう。鞘付きなのだから。
「………どういうつもりです?」
カードルはベレー帽を直しながら尋ねた。顔にかかる白髪の奥から疑問の視線が投げかけられた。
「黒の剣は渡さない、俺とココで守る。そういうことだ」
「………まぁ、いいでしょう!」
一瞬にしてカゲトの視界からカードルは姿を消す。そのスピードは瞬きする間もないほどだ。ココの真後ろに移動した彼はステッキを布袋に向けた。金属音。カゲトはカードルに追いつき、ココと布袋に向けられたステッキを防いで見せる。
「鞘付きの剣で防御、さすがです。ではこれはどうです」
矛先をカゲトに向けたステッキは息つく間もないほどに早く攻撃を仕掛けていた。食堂のテーブルにIミリも衝突することなく、カードルは身軽に飛び回りながら四方からカゲトを襲う。
カゲトは腰を低く剣を構え、防いでこそいるものの、主導権を握られ、疲労が溜まっていく。反撃ができない。守るのみ。これがカゲトの枷となっていた。しかしそれは彼の動力源にもなっていた。
「………ここだ!!」
怪盗カードルのステッキを退け、怪盗カードル自身が目と鼻の先まで近づいた瞬間カゲトは抜刀術の体制を取る。カードルは防御姿勢を取る。しかし思っても見なかったのだろう。剣を中途半端にしか抜かず、持ち手で打ってくるとは。
「ぐ!」
カードルはギリギリで避けるも予想外で初見の持ち手による攻撃にバランスを崩す。そこでカゲトは距離を詰めた。
「フン!!」
横なぎに振られた剣は鞘付きなので切れはしない、しかし守るのには十分な威力だ。ステッキでガードをするも、予想外の重さにカードルは吹き飛び、ステッキは歪む。
「………やはり………さすがに強いですね」
「わかったら黒の剣は諦めてくれ」
「そうはいきません」
怪盗カードルは2本目のステッキを取り出した。それをカゲトではなくココに向ける。ステッキは直線的にゴムのように伸びていく。
直線状にカゲトは割って入る。しかしステッキはカゲト直前でカーブしてココの持つ布袋に巻き付いた。
「な?!」
ココは布袋を力一杯に引っ張った。しかしカードルはステッキを縦横無尽に、振り回しココは今にも手を離してしまいそうだった。
ついに手が離れ、黒の剣が入った布袋は怪盗カードルの手に収まった。
「予告実行完了……失礼します」
怪盗カードルはベレー帽を深く被り窓枠へ飛び込んだ。カゲトは追いかけようとするも彼が去り際に2本目ののびるステッキをカゲトに投げつけた。
それはカゲトの足と近くの椅子を縛りつけてしまう。枷のように足に絡みつくステッキにカゲトのスピードは半分以下となり怪盗カードルに追いつない。
「待て!!」
「私が行く!!!」
窓枠から飛び出していった怪盗カードルは街の壁を走って逃走を図ろうとしていた。ステッキを二本、使えなくなったとはいえ相手は怪盗。彼に向かって武器屋の少女は同じように窓枠から飛び出して腰から杖を抜いて飛び出した。
「ココ!!無理をするなよ!」
カゲトはココを引き留めなかった。自分で守ると決めた彼女を大切にしたかったのだ。
「ありがとう!」
カゲトは悔しそうにココを見送った。ココはギュッと杖と吹雪竜のコナユキからもらった氷握って走りだした。
「私の剣を返して!!!!!」
「あなたに必要なんですかね?」
2人は走りながら会話を始めた。逃走と追跡の間で交わされるのは異質だ。2人を見る人の目も気にせず、逃走劇は続く。
「どうやら加害が怖いようですね!」
「そうよ!」
「なのに武器屋!武器は有効に………ものは有効に使われるべきだと考えます!」
カードルはレストランの壁を走り、人混みを避けた。ココは振り切られそうになりながらもその人混みに接近する。夢中で追いかけていたので誰かの足を踏んだかも、とは考えなかった。
人混みを抜けるとカードルはギリギリ見えるというほどに遠くにいた。ココは杖を構えた。
「………杯交わし………腕を組みし盟友よ………繋がりを持って呼応せよ………」
唱えながら走るココを見て、カードルはステッキを持たず丸腰ゆえ、カードではなく逃走速度を早めた。
「盟友よ力を付せよ、厚き冷気を………!」
ココの杖から、そして握りしめた氷から猛吹雪が吹き出した。カードルが着地した石畳へ放たれた吹雪による冷気は白く石畳を染めていき、彼の足にまで至り彼の足を止めることに成功する。
「………この魔法は…?!」
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