自分たちで守る
怪盗カードル、シルダは互いに目線を絶対に外さなかった。しかしシルダが構えたままココに尋ねる。
「こいつはココちゃんの剣をとりにきてるんだよ?傷つけないでとは?」
「わ、私のために加害は………わがままなのは分かってます。でも………」
怪盗カードルはココの言葉の後、会話の主導権をとった。
「さすがにNo.1、元No.2相手では部が悪い。撤退させていただきます」
「待て!!」
怪盗カードルは窓の狭い隙間を紐のようにするりと抜けてその場を去った。カードルがいなくなった後、シルダは近くの椅子を引いて座った。今度は目線がココに向いていた。
「怪盗カードルを傷つけて欲しくないの?カードルは傷つけにくるよ?」
ココは板挟みだった。怪盗カードルを逃した一因を担ったこと、しかし自分の加害の恐怖も無視できない。
「ごめんなさい………私は武器屋としては………矛盾していて………加害が怖いんです」
「なるほど………?自分を守るために誰かを傷つけて欲しくないと」
シルダは頭をかいて立ち上がった。食堂から出ようとしているようだ。呆れさせてしまったか、ココは心配だった。
立ち去ろうとするシルダの前にカゲトが立ちはだかった。
「どうしたの?」
「ココを責めないでやってください」
「責めてないよ?守りたい人の要望ならなんとかするよ。カードルはしばらく来ないだろうしちょっと考える」
シルダはあくびをしながら自室へと戻っていった。
「迷惑かけちゃったかな………私が傷つけないでって言わなければ多分怪盗を捕まえられたのに」
「………平気さ。多分シルダさんは本当にココのことを責めてないよ。シルダさんはそんなこと気にしてない」
カゲトはココの手を取って部屋へと戻るべく手を引いた。ココは布袋を握る以外、彼に手を引かれるしか出来なかった。自分の無力感、自責で押しつぶされそうだった。
ベッドの上で暗い顔をするココをカゲトは見ていることしかできなかった。
俯くココが体を少し動かした時、懐で何が硬いものが体に触れるのを感じだ。懐には吹雪竜であるコナユキからもらった四角い氷が入っている。不思議なほど冷たくはなく、触れコナユキとの思い出が思い出されるのみだ。
「………武器………守る」
次に思い出したのはシルダの言葉だ。彼女は人を守ると言った。加害に近いナイトや戦士が人々を守っているのはわかっている。しかしあれほど近くで守るための加害というものを実感したのは彼女にとって初めてだ。
加害はもちろん怖い。おそらくココのいう心の怪我はこれからも付き纏い、足を引く。しかし自身は進むと決めた。
そんな思いを自身の日記を読み返すようにしていると、心の中に散らばっていたブロックが噛み合うような気がした。
「カゲト………私、自分で怪盗カードルを捕まえる。自分で自分の武器を守りたい」
「それは戦う………ってことか?」
カゲトはおずおずと聞いた。ココの性格を知る彼は確実に彼女は無理をしていると感じる。
「違うの。戦うんじゃなくて………抵抗する。私は折れない、加害は怖いけど………守ることから逃げたくない」
加害が怖い彼女が自身を守ると言いだした。カゲトの立場で本来であれば反対するはずだ。しかしカゲトはとっくに決めていた。ココに付き合うと。
「君がそう言うのなら………俺も手伝うよ」
「ありがとう」
2人はしばらくして隣の部屋の戸を叩いた。
2人で黒の剣を守る。黒の剣は傷つけない使い方をする人に売りたいものなのだ。そしてそれは自分たちで守りたい。そう決心したのだ。
「どうぞ」
「失礼します」
ポニーテールを部屋でもとかず、帯刀したままなのはナイトとしての性だろうか。彼女は部屋の真ん中に立っていた。おそらくココのために四六時中警戒するつもりだったのだ。
しかしその恩を受け取らない決心をしたのだ。2人で守ると決心したのだ。彼女にココが自分の思いを打ち明けるとシルダはしばらく顔を一切動かさなかった。
「自分で守る………いいと思う!でも私は人を守る………国の盾であり、剣なの。こうしよう?怪盗カードルは私が捕まえる。でも黒の剣は自分たちで守る」
シルダはにこりと笑った。ココは口を真一文字に結んでこくりとうなずいた。
シルダは怪盗カードルを捕まえる、しかし黒の剣を守らない。ココたちが黒の剣は守るのだ。カードルの捕獲は二の次だ。
シルダは思いの外さっくりとOKしてくれたのがココには意外だった。しかしカゲトはそうではないらしい。
「シルダさんは………大体のことOKしてくれる。強いからな。全てにおいて」
最強のシルダというカードを自ら放棄したことに2人は未練はなかった。シルダとは目的が違うだけだ。
「………守って見せる」
ココは虚空に呟いた。
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