ナイト
ココとカゲトは宿屋の部屋に入った。ココは布袋を抱えてベッドに座ったが、カゲトは時間が経っても帯刀したまま部屋の真ん中に立っていた。ココにもその緊張した、張り巡らされた警戒心が痛いほどにわかった。
「カゲト………いいよ………そんなに」
「俺の恩人であるココの目的を妨げさせたくないんだ」
「私はちょっとは落ち着いたから平気よ」
ココはカゲトの袖を引っ張って半ば強引にベットに座らせた。自分のためにそこまでしてもらうのは申し訳ないのが半分、カゲトも疲れているだろうと言うのが半分だ。カゲトはココの気持ちを汲み取ったようで帯刀したままココに身を任せた。
「受付嬢さんが警備の人を呼んでくれたらしいし」
「でも話によるとカードルはその姿こそ見せるが捕まえようとしても触れたものはいないらしい。身のこなしが尋常ではない」
「………きたらどうしよう」
気持ちが 落ち着いた、といっても心配なことは心配なのだ。ココはギュッと布袋を抱きしめるように体に引き寄せた。
「俺が………追い払うよ」
切る、とはカゲトは口にしない。ココの武器を使う以上最低限の加害、防衛にしか使わない。それがカゲトにできる恩返しだ。
しばらくして階下から何か鎧がガチャつくような音が聞こえた。かなりの重装備だ。受付嬢が呼んだ警備が来たらしい。しかしココは自分の武器でないにしろ、怪盗への加害がココのためにさなされるのは怖かった。
翌朝、2人が朝食をとっている時も、視界の隅にはその警備らしき女性が帯刀したままこちらを見つめていた。部屋も隣にとったらしい。申し訳ないくらいの防御だった。
「あの警備の人に挨拶したほうがいいかな?」
「わからない………でもあの人は………この国のNo.Iナイトだ」
「1番………?首都を守ってるんじゃ?」
「カードルの被害は首都まで伝わってる。奴はこれまでに20件も武器をとっている。No.1が出てきてもおかしくはない」
2人がごちそうさま、と言って食器を片付けているとそのナンバー1だと言う重装備ポニーテールの女性が近づいて来る。細身のように見えるが重装備を着込み軽い足取りだ。
「どうも、よろしく!」
彼女は首を傾けてにこりと笑った。重装備が似合わぬ可愛らしい容姿だ。手には首都のナイトであるマークが描かれている。カゲトはぺこりとお辞儀をしてから先に部屋に戻ってしまう。
「カ、カゲト?」
「いーの、いーの。昔から私と合わないし」
彼女はカゲトを知っているようで不思議がるココ。女性はカゲトの後ろ姿を呆れたように、しかし笑いながら見送った。
「カ、カゲトと知り合いなんですか?」
「ん?だってNo.2ナイトじゃんあの子。ナイトは辞めちゃったけど」
ココはすっかり忘れていたが、ココと共にいたのは国で2番目のナイトで吹雪竜と正面から打ち合える男だった。ココをずっと気にかけてた彼が先に部屋に戻ったのはNo.2故にNo.1ナイトの力を知っているからだった。ココから少し目を離しても平気だと。
「私はココ。よろしくお願いします!」
「いいよいいよ。カードルからみんなを守りたいからね!」
「守る?捕まえるのかと」
「捕まえられたら捕まえるよ?もちろんね!でも守るのが優先!だから最近守りの剣に移行したんだよね。騎士団」
「じゃあ、カゲトが戦法が合わなくなったからやめたってのは………」
「あの子は攻めるタイプだからかな。まぁ反抗期も若干」
彼女は笑いながらそういうと、テーブルに置いていたコーヒーを一気に飲み干した。そして絞り出すように息を吐いた。
ココはその動作を見ていておどろいた。彼女はコーヒーカップに目線を一度もやってない。にもかかわらずコーヒーカップの持ち手に指を通し、口元まで持っていったのだ。
「じゃあココちゃん?」
「はい?」
「ちょっと伏せてくれる?」
ココが言われるがまま伏せると朝の穏やかな空気を破るように窓が乱暴に開けられた。直後飛び込んできたのは外気、そしてベレー帽に白髪で目元を隠し、両手にステッキを持った少年。
ココが瞬きをする数瞬の間に窓から彼女に近づき、布袋に手に持ったステッキを伸ばした。取られる、そう思った次の瞬間。金属音が響き渡る。
「予想外ですね。まさかのNo. 1ですかー?」
「そのまさかよ」
No.1の女性ナイトは半透明宝石のような剣を抜き、怪盗カードルの伸ばしたステッキを防いでいた。
バックステップで距離を取りベレー帽を直すカードル。
「こっちは予告だしたのに。そちらはNo.1ナイトを予告もなしに?」
「関係ないね!ナイト、シルダ!参る!」
シルダは半透明の剣を構えた。ステッキを同じように構える怪盗カードル。しかし両者の緊張を破ったのはその両雄でも、戦闘開始の鬨の声でもなかった。
「あの!!傷つけないでもらえますか!!」
シルダも、怪盗カードルも構えがぶれるほど驚いた。守られる張本人からの申し出だ。しばらく静寂が続いた。
のちに金属音に反応して飛んできたカゲトが朝食をとっていた食堂に戻ってくるまでそれは続いた。
「ど、どう言う状況だ?」
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