ココと吹雪竜

 素早く動く吹雪竜の腕に振られながらココは全力でしがみついていた。


「わかるよ!私もだよ!矛盾した自分が嫌になって、パニックになって、自暴自棄になって………でも進まないと………!だから私と」


そこまでいったときココは吹雪竜の前腕のあまりの力に吹き飛ばされ、魔法の範囲外に出てしまう。背が強く打ち付けられた。痛い、息がしにくい、しかしココは自身の方に向かってくる吹雪竜になお向かっていく。


「ココ、魔法の範囲外だ!」


カゲトの叫びは聞こえていた。ココも気付いていた。しかし吹雪竜のパニックは自身と同じく矛盾によるものと考えた彼女は吹雪竜と向き合いたかった。


吹雪は地面を蹴り、真っ直ぐに突進してくる。負けじとココは地を蹴った。スピードもパワーも差は歴然。衝突でココが気を失わなかったのは驚くべきことだ。


「つ、強いね。羨ましいな………う……それなら進んでいけるよ。立派な吹雪竜になれるよ。矛盾しててもさ、私と一緒に進もうよ………」


ココは吹雪竜の顎に優しく触れた。ココの胸や腹は打撲で済んでいるのかわからないほどの痛みのだった。それでもなお、優しく吹雪竜に寄り添う。すると吹雪竜は治療された自身に気づいたようで、膝を折り、平野の真ん中に座り込んだ。


「わかってくれたんだ………」


グルル………と形容し難い喉を鳴らすような声と共に吹雪竜はココに顔を優しく擦り付ける。


「ふふ…ゴツゴツしてるね」


カゲトも、レイナーも無茶苦茶な彼女の行動をドキドキしながら見ていたが、空気の抜けた風船のように張っていた気が緩んだようだ。その場にカゲトは座り込んだ。


「全く………ココは………」


じゃれ合うココと吹雪竜にレイナーが白衣についた氷を払いながら近づいてくる。


「ココ君」


「レイナーさん!ねぇ、吹雪竜。この人が治療してくれたんだよ」


 吹雪竜は冷たい鼻息を優しくレイナーに吹き付けた。レイナーはそれを感謝ととったらしい。


「ふふふ!いい!実にいい!ココ君、君の治療も完了だ。魔法医者レイナーに武器を売って見せた!吹雪竜の背中も直して押した!結果として心の怪我の調子はどうだ?」


 ココはドキッとした。


「実際………まだ加害が怖いし………武器は傷つけない使い方をする人に売りたいです」


「ふむ?」


「でも、前より気分がいいです。私のやり方で武器を売れた。相手を観察して、相手の望むことに向かって………背中を押せました」


 背中を押すというのは先代から学んだココの武器屋における理想の一つだ。


レイナーは懐から10枚金貨を取り出した。


「100万ゴールド………足りないかな?」


「お、多いです!このガントレット20万で………」


「予想以上に!いい結果を得られた。それだけだ」


レイナーは優しく笑った。そして吹雪竜のためにと言ってガーゼや包帯を残し、魔法医者レイナーはその場を後にした。


 2人と吹雪竜はしばらくその場から動けなかった。疲れもある。しかし達成感の方が大きかった。ココにとっての心の怪我が治療されたのかどうかはわからないが、武器屋として魔法医者レイナーの手伝いができたのだ。それはココの理想の一つ、背中を押すことと似たようなものだった。


 ココはレイナーの後ろ姿を見ながら視界がぼやけてきているのに気付いた。疲れからか、ココはコテンと吹雪竜のゴツゴツした体に自身の体を投げ出すように寄りかかった。


「………疲れた」


 吹雪竜はココが寄りかかるも嫌がる様子もなく、それどころか嬉しそうに彼女の枕になった。カゲトは微笑ましそうにココと吹雪竜に目線をやり、近づいてきた。


「………すっかり友達だな」


「ふふふ………私吹雪竜の友達は初めて」


今までの友達は吹雪を起こしたり鱗がないタイプだったのでココは吹雪竜と心を通わせることができたのは嬉しかった。すると吹雪竜は鼻の上を、ココに擦り付けるような動作をした。ココが不思議がって鼻の上をよく見ると一片の氷がそこには置かれるように張り付いていた。


「………この氷がどうしたの?まさか、まだ氷がこびりついてたのが………」


「ココ違うみたい。多分それはココへのプレゼントじゃないかな?そうだろ、吹雪竜」


吹雪竜はカゲトの言葉の後にグルルと喉をならす。カゲトがどうやら正解のようである。ココは鼻の上の氷に手をやると不思議と冷たさはなく、思いの外すぐに剥がれた。四角柱の氷だ。中は白く空気がたくさん含まれているようだ。


「………ありがとう。吹雪竜………ねぇ吹雪竜って長いからコナユキって呼んでいいかな?」


ココは四角いその氷を握りしめ吹雪竜と目を合わせて言った。吹雪竜は驚いたように体を少し持ち上げたが、すぐにココに体を擦り付けた。








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