難しい商売

 レイナーは一通り自分がなぜ平野に小屋を立てて暮らすのかを説明した後、ビシッと杖でココを指した。


「そこで本題!医者に武器を売ってみないか?武器の傷つけない使い方………その需要を僕に見つけておしえてくれ!そしたら僕は買う!それが僕にできる治療及び処方だ!!治らないかもしれない、そもそも怪我かもわからない。それなら今できることをやってみようじゃないか!」


医者と武器なんてほとんど対極にあるようなものだ。しかし武器に近い人というのはココが武器を売れない相手である。


「ちなみに僕は今のところ武器はいらない。君が僕をよくみてれば需要は見つかるかもしれない」


難題。それ以外のなんでもなかった。しかしココは前日に小さなレストランのマスターに言われたことを思い出した。「相手を見なさい」。モンスターを治療するこのレイナーという医者を観察して傷つけない武器の使い方を提案し、売るのだ。


「いくらなんでも無茶だ!現に今いらないって………」


「カゲト………私やる」


「ココ!自分がなにを言っているのかわかってるのか?」


「わかってる。でも決めたじゃない。前に進むって………」


 ココはいつものように手でグーを作りもう片方で握り潰すようにしてポキポキとならす。ココはまっすぐレイナーを見つめた。守るべき対象の年下の女の子ではあるが、ここまで言われてはカゲトは何も言わずに引き下がった。


「よろしい。治療及び処方、魔法医師レイナーに武器を売るを開始しよう」


 そういうと彼は杖を振る。ドアがゆっくりと1人でに空いた。骨組みに布をかぶせたのみなのでとても簡易な扉だ。レイナーに続いてその中に入ると床は平野の地面そのままで何も敷いてなかった。代わりに椅子とテーブル、そして治療器具や魔法の道具がココとカゲト、レイナーを囲うように並べられていた。

 壁は布ということで風が吹くたびに暖簾のように揺れていた。


「ここや屋外でいつも通りモンスターの治療を行う!君は武器屋として傷つけない使い方を提案して僕に売ってみる。この小屋はセキュリティも何もないから出入りは自由で構わない。僕に売るまでまとわりついても構わない!ただ後10日でレイトの街には戻って人間相手にしないとさすがに怒られる!以上!」


 レイナーがココに与えた10日、それは10年以上付き合いのある加害に対する恐怖を克服するには短すぎた。しかし少なからず進むことができる。そしてココは治療の果てに何が得られるのかはわからなかったが、彼を観察し傷つけない武器の使い方で売ろうと、より一層心に刻みつけた。


 開始直後、レイナーは戦士たちがよく持つと言われているモンスター図鑑を開き眺めていた。モンスターを治す以上それについて詳しくならないといけないのは当然だ。包帯を巻いたら蹴られたなんてことは容易にあり得る。


「………図鑑読んでるだけだぞ?」


「………たしかに今は持ってる剣とガントレット売れないけど………タイミングと発想でなんとか売ってみせる………そうすれば………加害の恐怖を克服するか、そのままでも武器屋をできる方法を見つけられるかもしれない………と思う」


語末に行くに従ってココは声が小さくなっていく。レイナーの作業に差し支えないように元々カゲトもココも小声だったが、ココが小声になっていくのは自信がなくなっていくのを自身で感じていたからだ。


 治療というには大雑把だ。しかし心の怪我があるのならば彼女にとって、そして魔法医師であるレイナーにとっても前代未聞だ。解決策がそうそう見つかるわけがない。


「………この時期はカケアシヅメや、バッド、ダイヤつむりが多い………流石に吹雪竜などは出くわさないだろうが………怪我してる奴らがいないか見に行く!」


レイナーは白衣をマントのようにはおい、足早に小屋の中をうろついた。魔法の杖、包帯、カルテのようなもの、それを白衣のポケットに乱雑に突っ込むと小屋から出ていった。当然ココは追いかけるつもりだ。


「カゲト、私追いかける!」


「待て待て、1人で行くな」


ココの魔法の杖はポケットに差し込めるサイズだが、カゲトは剣を腰につけなければならない。カゲトは少し遅れて小屋から出ていった。


 しかし彼が小屋から出るとすぐにココとレイナーが立ち止まっているのに気付いた。あまりに急だったので、ココに後ろから突撃してしまいそうになるがなんとか踏みとどまる。


「どうしたんだ?」


「ダイヤつむりのお客さんだ!」


レイナーがしゃがみ込み、手をやる先にはダイヤの殻を持ち体は柔らかいモンスターであるダイヤつむりが元気がなさそうにしていた。


「………風邪かな!最近寒いからな!しかしダイヤつむりは暑いのが苦手だからな………下手に温めるわけにもいかん………」


ダイヤつむりはスライムのような体が空の重みで地面にペタンとくっつくほど元気がなさそうだ。レイナーはポケットから小さな小瓶を取り出した。透明の液体が入ったそれを片手で割るとダイヤつむりの口に流し込む。


「栄養剤だ!巣に戻れるならそこでじっくりやすみなさい!それと殻が少し負担になるかもな!しばらく軽くしてやろう!」


レイナーはまた白衣のポケットに手を突っ込む。今度出てきたのは魔法の杖だ。ココのものより、黒く、泥が固まったような色だ。


「………我が力、根幹となり彼を支えよ。我が力、友人となりて彼の手を取れ」


杖を振りながらそう呟いたレイナー。杖から砂のようなものがこぼれ、ダイヤのような殻に降りかかった。


「殻は24時間半分の重さだ!強度は変わらないから安心だ。体の負担も少なくなるだろう、平気か?」


ダイヤつむりはペタンと地面に広がっていた体を少し持ち上げ、にこりと笑ったように見えた。続けてダイヤつむりは殻の中でモゾモゾと動き、再び顔を出すと同時に小さな鉱石を2、3個レイナーの足元に置いた。


「くれるのか!ありがとう!お大事に!」


ダイヤつむりがゆっくりと帰っていくのを見送る彼をココとカゲトはまた見つめていた。


「ガントレットに………剣一振り………どう売れる………?」


彼女は小さくつぶやいた。

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