気づきの魔法医師

「わ、私ココって言います!この人はカゲト………」


「そうか!俺はレイナー!!魔法を使う医者だ!」


元気よく自己紹介した彼はわざわざ白衣を手ではためかせお辞儀をした。手には魔法の杖と思しき棒状のものを持っている。


「して何しに?」


「えっと………けがを直して欲しいんです」


ココは自分を戻ろうとしてくれているカゲトの前にすこしでながら目的を告白した。カゲトは近づくなというようにココの袖をつかもうとしたが直前でやめた。診療所を突然あけ、平野に小屋を立てているレイナーはカゲトには行動原理から行動まで訳がわからなかった。


 しかしココはそんなことは気にせず自分のことを話し始めた。


「けがを?君は元気そうだが?」


「違うんです………あの…心に怪我ってします?」


藪から棒のココの相談にレイナーは先ほどまでのハキハキとした態度と言動がピタリと止まり、体ごと首を傾げた。


「ん?」


唐突すぎる、カゲトはココの耳元でささやいたがもう手遅れだ。レイナーは傾けた体をゆっくりと戻していく。その途中に何かを考えているようだった。


「むむ……話を聞こうか」


 レイナーは魔法の杖を振った。そうすると小屋のドアが1人でにあき、中から椅子とテーブルが人数分文字通り足を動かしてやってきた。


 レイナーとココはすぐさまそこに座り向かい合う。カゲトだけが状況についていけなかった。しかしココから離れるわけにもいかず、一人で試行錯誤してから席についた。


「心にケガ………打撲?擦り傷?どっちだ!」


「わ、わかんないんです。ちっちゃい頃からかをやってしまったかも、傷つけてしまったかもって………過剰に心配して………何もやってないことを確認するまで動けないんです。加害が怖いから武器屋としても矛盾してて………もし!直せるなら」


ココは藁にもすがる思いで言い放った。もし彼女のいう心の怪我があるとして、それを治せるとしたらココの悩みは吹き飛ぶだろう。しかしレイナー医師の言葉は彼女の期待を吹き飛ばした。


「自論だが!怪我じゃないんじゃないか?元から持ってるものだと考える」


レイナーのいうことは石は固く、水は滑らかである、というようにココのいう心の怪我は彼女性質だということだ。石に流動性を求め、水に固さを求めるのは酷というものだ。



「じゃあ、治らないと………?」


「それはわからないが、私は治せない!」


「おいあんた言い方を」


カゲトは立ち上がり、レイナーに詰め寄ろうとする。カゲトは健気に自分の問題に立ち向かうココを突き放すレイナーに怒りを覚えたのだ。しかしココがその手を掴み止めた。


「………ココ」


「いいの。なんとなくわかってた。レイナーさんありがとうございます」


「………しかし!!」


ココはお辞儀をしてその場を立ち去ろうとした。しかし彼の重い空気を切り裂くような声が彼女を引き留めた。


「治らないともいってない!いや知らんが!!」


レイナーは急に立ち上がるので椅子が倒れた。しかしその椅子は杖の一振りですぐに元どおりに立ち直る。彼はココに早足で詰め寄った。


「単純に君が優しいんじゃないのか?」


「で、でも。その優しさが私の武器屋としての矛盾を………武器を傷つけない使い方をする人に売る事しかできない………」


レイナーは彼女の商売における行動原理を聞くと再び白衣を翻し、彼女から距離を取った。彼が1日に何歩歩くのか気になるほどのアクティブさだ。


「君のいう心の怪我があるのなら直せないし、元からのものだと思う!!いや君のはね!?でもさ!医者として治療し!処方を施してみようじゃないか!」


彼は群衆に呼びかけるように手を広げ叫ぶように言う。カゲトもココも彼に不思議と目を奪われていた。自信があるように自分の不可能を告白した後、それでも治療すると言った彼に2人は矛盾という共通項を見出していた。


「まず一つ。説明させてくれ!私がこんな平野に小屋を立てている理由を!」


彼は体を仰け反らせ、親指で小屋を指した。そして診療所をあけて、ここに来ている理由。それを話し出した。


「いつも私はね。街をモンスターから守ってる戦士や兵士の治療をしていたのさ!他の診療所とも共同でね!でもある時気づいてしまった。モンスターと戦闘しているのならモンスターも怪我してるじゃねぇか!!!!!とね」


ココは合点が行った。先ほど見た包帯を巻かれたカケアシヅメに治療を施した人。そして理由だ。ココが感心しているとカゲトが突っ込んだ。


「ま、待ってくれ。モンスターと戦士どちら側なんだよ」


「どっちもだけど?さすがに比較的無害なモンスターたちに治療は絞るが………後モンスターに治療技術がないと思ったんだ!」


レイナーはなんの躊躇いもなく言葉を発した。その態度には確固たる自身というものを感じた。モンスターも怪我してるなら治療する。さすがに街に攻めてくるようなものは治療を控えているようだが、たしかに無害なモンスターでも戦闘に巻き込まれたり、怪我をしたりするものだ。


「なるほど………だからモンスターのいる平野に小屋を立てて治療を………」


「そう!レイトの街には僕の先輩医者や師匠もいる!腕がいいやつらなのさ!多少モンスターの方に来てみちゃってもいいだろう!!」



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