平野の小屋
診療所は確かにカーテンが閉められ、気づかなかったが休業の札がかけられている。
「全く気づかなかった………」
「話し込みすぎたな」
「先生は平野に行くって言ったらしいけど」
平野?カゲトとココは素っ頓狂な声を上げる。医者が行くにはなかな珍しい場所だ。コックが林にいるようなものだ。しかし旅に出てしまった武器屋が言えることではない。
「平野?」
「そうそう!ヤバイそっちのこと忘れてた!!って叫びながら魔法用の杖と薬持ってダッシュで郊外の平野へ。叫びながらだからだから目撃談がうじゃうじゃだよ」
アクティブな医者だ、そう思っているとレイはまたカツカツと足音をならして役所の向かいの建物へと向かっていった。後ろ姿にありがとうございます!と叫ぶと彼女は手を上げてサインをする。
「平野に?そっちのこと忘れてた?どういうことだろう?」
目撃談をもとにレイトの街郊外の平野に出てみると、ちらほらと野生動物やモンスター、武装を固めた人間たちが目に入った。街の外に出る時は入る時以上に手続きは少なかった。
「平野のどこだろう」
ココは布袋を背負いつつぴょんぴょんとジャンプして遠くの方を見てみるがこれといって何もはなかった。
革製のチェストプレートを着込んだカゲトはココを守れる位置につきながらもキョロキョロと首を回して探している。
2人の進行方向にモンスターや危険なものはほとんどなく、ただ地平線が続くだけだった。街からかなり歩いたが医者らしき人見えてこない。歩いているだけと言ってもさすがに2人は汗ばんできた。
「ちょっと休もうココ」
「そ、そうだね」
ココは近くに落ちていた岩に虫がいないことを確認してから腰を下ろす。カゲトはどさっと地面に落下するように座り込んだ。人がちらほらと見えると言っても声を気軽にかけて医者はどこですか、と聞けるような距離ではなかった。直近に見える人でも大声で呼びかけなければいけないだろう。それほどにレイトの街の外側の平野は広かった。
2人が水を飲んでしばらく休んでいるとカゲトは急に立ち上がった。剣に手をかけた彼の頬からは汗が滴る。ココも何かの気配を感じ一応布袋から杖を取り出した。戦闘はできなくても防衛や逃走に使うためだ。ココにとって唯一自分でできる危険への対処法だ。
「足音………走ってる?」
ココが後ろを振り向くと同時に何かモンスターの群れがココとカゲトを気に求めないで真後ろを駆け抜けた。2人は突然の出来事に唖然とするばかりだった。元ナイトであるカゲトの目がギリギリなんのモンスターか視認できるレベルの速さだ。
「今のは………」
「カケアシヅメの群れだ。数歩でトップギアに持っていく脚力を持つ四足獣、爪は岩をも砕くという」
「いやそれは知ってる………そこじゃなくて」
カゲトは驚いてココの方を向いた。ココはカゲトほど警戒していなかったように見えた。
「何か気づいたのか?」
「前から4番目、カケアシヅメの胸元に包帯が巻かれてた」
「包帯?………誰かが巻いたのか?」
2人はしばらくが考え込んだ。モンスターに治療をする人はあまりいないが、平野へと出て行った医者の話を聞いた後なので一つの予想にたどり着くのは必然だ。
「カケアシヅメが来た方。何あるのか」
「ココの探す医者がいるか、だな」
カゲトはココが医者に会いたがっていたことが彼を探す動機になっていたが、カケアシヅメの包帯の情報により、個人的な興味を持ち始めた。
カケアシヅメの群れがきた方向はレイトの街からおよそ1時間が歩いた場所、そこから右斜め前だ。2人は医者がそこにいたとしても、移動してしまうことを心配して向かう速度を早めた。
体力のあるカゲトが方で息をするようになる頃、ココが既によろよろとほぼ歩いているかのようになった頃2人の足は止まった。いや止めた。
目の前には簡単な作りの小屋が建てられていた。木で骨組みを作り、布をかぶせたものだ。雨風は防ぐことができそうだが、立地的に食料、水の調達は難しそうだ。
ちょうど中から白衣を風にはためかせながら短髪の男性が出てきた。20代前半、2人よりは背は高く容姿だけでいうと少年らしい。彼は小屋から出た後、2人に気づくと弾けるように飛び上がった。
「なんだ君達!」
カゲトはココの前に割り込むように出る。さすがに剣に手をかけはしないが警戒心はマックスである。
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