2人旅
カゲトの藪から棒の提案にココは思わず杖をポトリとやってしまいそうだった。杖の取り扱いは優しく、これは基本だ。ココの使った杖は水晶を四角柱に切り出したような外見でガラスのようにすぐに割れてしまいそうなのだ。
「………一緒に?」
「そう。一人旅は危ないと思う。商売で高級な武器を持ち歩いてれば尚更さ。でも君は………反撃できるかわからない」
的を射抜くような彼の発言にココはなにもいいかえせなかった。確かにココは武器屋に必要そうな魔法を勉強し習得している。しかし攻撃、反撃できそうなものは限られてくる。ココは先代や街の魔法使いのお姉さんからは魔法使いで十分食っていけるし、なんなら領主直属の魔道士団にも引けを取らないとされていた。しかしその魔法の技術も本人の気質により十分に活用されることは少ないのだ。
カゲトの申し出はありがたいものだった。しかし彼女の加害に対する恐怖は戦闘に置いてだけではない。時には歩く時、出かける時、何かにぶつかったかも、何かを踏んだかも、そんな思考がまとわりつき、ついつい確認してしまうような代物だ。つまり彼女は人よりも行動に時間がかかる。
「………それはすんごくうれしい。でも………私めんどくさい女なの。いつも何かを傷つけてないか心配してる。歩くのが遅いの、何か踏んでないかいちいち確認したくなっちゃうから。ハサミも使いたくないの、重要なものを切ってる気がしてくるから。食べる時、齧る時もそう、傷つけてる気がしてくる……他の人にとっての当たり前がわたしにはやりづらい……心配なの、それがちょっと恥ずかしいの」
ココは心のうちに秘めてきた自分の悩みをほとんど吐露する。自分はめんどくさいやつだと思ってきたことを。恥ずかしいと思ってきたことを。なぜか口からスラスラと出てきた。初対面の年上の男の子に自分の全てに近い情報を不思議と吐き出した。
ココがその理由がカゲト自分に近い矛盾したナイトであるからだということはまだわからなかった。
「………構わない。俺だってめんどくさいやつだ。自分の流儀が使えなくなって辞職して、自暴自棄になってた。こう言う性格だ。凹むときは結構凹む………でも君は………ココは付き合いの浅い俺でも言える………君はめんどくさいと自分で思ってても、優しいんだ」
カゲトは剣を腰に引っ掛け両手をフリーにした後、20センチほどの杖を両手で辛うじて持っているようなココの両手を包むように握った。
「………ありがとう………本当にありがとう………」
ココの視界はぼやけてきた。目の前の、自分の恐怖を優しいと言ってくれた彼の顔が見えないほどに。彼女の目から溢れる涙は止まることなく、泣き声は静寂に響いた。そんなココをカゲトは優しく手を握ってやることしかできなかった。抱きしめるなんて初対面でできっこない。でも目の前の泣いている女の子に何もせずにはいられなかった。ただ、すべての力を彼女の涙を止めてやれるように、強く、優しく握るのみだった。
活躍した2人を止めるものはいなかった。しかし真横に崖の見える砂地に馬車から出た状態そのままでいるわけにもいかない、そう捕まった1人が切り出したことで、ゾロゾロと都会とされる方角へと向かっていった。歩き出すものは皆ココとカゲトに患者の言葉を述べていった。2人は何回も患者されたことで恥ずかさで途中からしどろもどろだった。
「カゲトさん。私大きな街に行きたいの。近くのレイトという街なんだけど」
「この国四大都市の一つなら確かにお客さんが見つかるかもね」
「うん………私が売ることのできるお客さんがいるかはわかんないけど」
武器屋として最低限のやることはやりたい、それが前に進むと決めたココの行動原理だ。カゲトはそれを感じ取りココの目の前で片膝をついて手を伸ばす。
「俺は今日からココのナイトになるよ。レイトまで行こう」
ココは涙を拭った。目の下がヒリヒリするが、前を見据え、彼の手を取った。彼の横に並ぶと、助けることのできた人々の背中が見える。彼らが助けられた、その結果のおかげで加害ギリギリの行為もなんとか飲み込むことができた。間違ってないといいな。確信とまではいかないが、ココはそう小さく呟いた。
ココは布袋を再び背負い、カゲトは銀の剣の鞘を腰につけた。そして2人はゆっくり歩き始めた。レイトの街、そこは石造りの建物が並び、街の関所から反対の関所まで賑わってない場所を探す方が難しい街だ。四大都市は各々の景観と産業を有する。レイトは硬い都市とも呼ばれ、武器、建築、治安維持において高水準だ。武器屋なら一度は勉強しにいくべきとも言われている。
「大丈夫かココ?」
「平気!武器の入った木箱2、3こくらいならいつも持ってたからね。先代の手伝いで」
「そうか………そりゃなかなか………凄まじいな」
布袋の中の一振りとガントレット、杖を難なく背負う彼女の体力と、先ほど見せた魔法の力のおかげでカゲトにとってココが相当頼もしく見えた。しかし守る立場は俺だ、と思い直し何回か彼は頬を叩いた。
「何やってるの? 」
「いいや………なんでもない。レイトが見えてきたぞ」
カゲトは見えてきた高い建物を指差して言った。しかし横を見るとココはいなかった。ココは何故か逆走して彼から十歩ほど後ろにいた。
「ご、ごめん。調子がいいから平気だったんだけど………なんか踏んだ気がして………」
彼女は気掛かりそうに何もない、砂地についた足跡を見返し、動かなかった。というより動けなかった。かと思うともう少し戻って再びそれを始めた。
「謝ることはないさ。わりと俺は疲れてきたところだ。ちょっと休もう」
カゲトは俯き足跡を塗り替えて行ったり来たりする彼女を気にする様子はなく、そばの石に腰掛けて水筒を開けて、2人分のコップを鞄から取り出した。ココがカゲトの元にたどり着くまでにカゲトは2人分の水をコップに入れて待っていた。
「平気かい?」
「うんありがとう………」
カゲトはココにコップを渡すと自分のをグイッと飲み干す。ココは彼の優しさに申し訳なくなる。
「気にしないの?私の………」
「なんかしてしまったかも、何かを傷つけたかも、そしてその確認をか?」
「うん」
「別に………君にとっちゃ重要なことなんだろうし。俺はそう言った類の医者じゃないから何か君にしてやることもできない。でも一緒に進むことはできると思う」
ココは水を口に入れ、肺の空気を全て出すように息を吐いた。そして落ち込んでいた気持ちを立て直すように前を向き、指の関節をならした。
「それは立ち直りのルーティンかな?」
「そう!!流石に切り替えとして自分を引っ叩いてたら先代ににそれはやめとけって怒られたから」
「そうか。君のことをもっと知りたいな。レイトでゆっくり聞くよ」
2人は再び歩き出した。相変わらずココは周囲や足元を気にしているようだが、先ほどより確実にペースが速くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます