ギリギリのやり方

 盗賊のリーダーはぱっと袋から手をはなした。武器の入った重い袋をココはキャッチする。


「ナイトさんや。自分の仕事ができるなら盗賊につかまってもいいんじゃないのか?」


「そうだ。だが自分の仕事………小さい頃から譲れないもの、人を守る気持ちを思い出した」


盗賊は腰から剣を抜く。ナイトの周りを盗賊たちが囲み四面楚歌だ。ナイトは盗賊のリーダーに向かい合った


「その武器屋のおかげだ。譲れない気持ちを思い出した。例え矛盾を抱えようと………自分の技が使えなくなって騎士団を辞職しても、小さい頃から人を守りたいという思いは………盗賊じゃ満たされない」


「ほう……そいつはいいがどうするつもりだ?丸腰のナイトさんよ!」


ココは武器の入った袋に手伸ばし銀のつかを握った。盗賊は囲いを縮めて今にもナイトに攻撃を仕掛けようとしている。無我夢中でココは盗賊の一人一人の間を通して剣をナイトに投げた。銀の剣は見事に宙を舞い、ナイトの手に収まる。


 その行動で固まったのは盗賊たちとナイト自身だ。盗賊は突如武装したナイトに驚き、ナイトは今まで傷つけることを怖がっていた少女の行動に驚いた。


「なんで…」


「私は武器屋!!今は傷つけない利用法をする人に売る事しかできないの!!でもこれしか………」


ココは心臓が胸を打つ音が大きくなるのを感じた。今から傷がつく、誰かに傷がつく。しかしナイトのために剣を投げた。その行為に後悔はなかった。しかし今から起こる、自分が間接的に傷つけるという行為が怖い。


ナイトはココを尻目に剣を眺めた。銀のつかにシンプルな装飾、作って以来一度も抜剣されていないのだろう、ココの作ったマークであるテープが貼られている。


 ナイトはその剣を居合のように構えた。しかし彼に剣を抜く気は毛頭なかった。正確に言えば全て抜く気はない。


「俺は国内No.2だぞ?傷つけずに倒す方法なんていくらでもあるさ………」


「やってみろ!!」


 盗賊は雄叫びを上げて、棍棒を振った。しかしその棍棒の先には誰もいない。代わりにナイトは瞬間移動したようにその盗賊の真後ろにいた。視界の外に舞うように回避したナイトは剣を抜かずに、腰付近で鞘を持ったまま剣の持ち手を握った。


「はや………」


「1!」


ナイトはそう叫びながら剣の柄の先で殴打する。半端な居合のようだ。途中まで剣を抜き、柄の先で打つ。しかしその動作は見えないほど早く、完全に納刀したままのようにしか盗賊と周りの被害者たちには見えなかった。

「2」


数字を彼が叫ぶたびに盗賊はうずくまり、無力化されていく。側から見れば納刀したままのナイトが盗賊を剣で倒すという異様な光景だ。


彼の行動はココの加害に対する恐怖のギリギリを責めていた。確かに傷つけてはいないのだ。ココは自分を慮る戦法を取るナイトをじっと見つめていた。


「ナイトさん………ごめん………ありがとう」

 ココの呟くような小さな声は聞き逃さなかった。そして舞うように盗賊たちの間をすり抜けながら叫んだ。

「こっちこそごめんなさいだ!!自分が揺らいでた!人を守るためにナイトになったのに!自分のやり方が出来ず辞職したからって………人を守る気持ちはまだ持っていたのに………」


 つか打ち戦法はいよいよ盗賊の半数を無力化するという無茶振りを具現化したような結果を出し始めた。ナイトは銀のつかに手を置いて縦横無尽に辺りを駆け巡る。時には盗賊と盗賊の間に、時には壁すらも移動に利用し敵を倒していった。


 盗賊に捕まった人々もナイトの健闘にだんだんと笑顔を取り戻し、次第に彼を応援し始めた。もう打ちひしがれるものはいなかった。


 しかしナイトが着地した瞬間初めて彼は抜刀することになる。盗賊の一人が長剣を振るったのだ。今までの攻撃のそれとは訳が違った。確実にナイトの急所を最適のタイミングで最速で振り抜いていた。間一髪ナイトは剣で受けるも盗賊の技量にも驚いた。


「せっかく、ナイト崩れが仲間に増えると思ったのにな〜」


その盗賊は剣とは違いゆったりとした声だ。体中にベルトを巻き付け、様々な小瓶が取り付けられている。


「毒か…?」


「そう」


その盗賊はそういうや否や小瓶を持てる限りあたりにばらまいた。中の液体が飛び散り、周囲の人間は悲鳴を上げた。  


 もはや助っ人は期待できないような状況となった。まかれた毒は高い城壁のように他の捕まっていた被害者たちとナイトを隔絶した。


「僕にもそのつか打ち攻撃で?」


「………もちろん。これが今できる恩返しだ」


ナイトは並外れた剣劇を見せた相手を前にし、深く息を吐いて納刀した。ココは申し訳なさでいっぱいだった。強敵相手に彼が全力を出せないのは自分を慮っているからなのだ。


 毒をばら撒いた盗賊は小瓶の一つを剣に塗りたくる。剣から滴る水滴は地面に落ちるとシュウーという音を立てた。


「ナイト崩れの盗賊………毒使い。推して参る」


「元ナイト………カゲト」


両者は間合いを図りながらゆっくりと近づいていく。2人だけの空間ができたかのようだ。他の盗賊は手出しをする気はないようだった。被害者と共に固唾を飲んで二人を見ている。


 しかし2人、ココと盗賊のリーダーのみは別の行動を取った。ココは袋に布袋に手を伸ばし、杖を取り出した。売り物にするとすれば魔法使いのお客さんに売るものだ。しかしココにもできることを見つけたのだ



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